昨日のブログで磯崎新先生の茶室(とそのプラン)について書きましたが、磯崎先生の初期の茶室のクライアントの一人が井上房一郎さんでした。

井上さんの業績については熊倉浩靖著『井上房一郎・人と功績』の紹介をこのブログでしましたのでご参照ください(その1その2その3)。
井上さんが愛した建築家はブルーノ・タウトアントニン・レイモンド、そして磯崎新でした。

朝日新聞2013年7月23日夕刊に、井上さんがブルーノ・タウトを住まわせた「洗心亭」が大きく紹介されました。
20130804

わが母校高崎高校は高崎の郊外、観音山の麓にあるのですが、山を登り高崎観音(これも井上さんの父君が建てた)をさらに行くと少林山達磨寺があり、その境内に大正時代に建てられた「洗心亭」があります。
1933年(昭和8)ナチスドイツを逃れて来日したブルーノ・タウトとエリカ夫人は最初福井県敦賀に上陸し、上野伊三郎らに迎えられ、日本国内を転々とします。
数日の滞在ならどこの豪商も快く受け入れてくれたでしょうが、タウトの本業である建築設計の仕事を斡旋し、長期にわたる滞在を保障してくれるところはどこにもなかった。
結局、井上さんがタウトを高崎に迎え、夫妻はここで2年数ヶ月を過ごし、念願した建築設計の仕事はごく僅かしか実現せず、やがてトルコへと旅立っていきます。
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つい先日フェイスブックで井上房一郎の研究家・渡辺恭伸さんが洗心亭について以下のように書いていました。

宮崎駿の「風立ちぬ」。いい映画だった。
主人公の二郎が軽井沢のホテルでドイツ人に出会う。ドイツを批判し、特高に追われている。直接そのままではないにしても、ブルーノ・タウトを思わせる。
二郎と菜穂子が結婚式を挙げ、住まいにする上司の離れが、僕には高崎でタウトが暮らした洗心亭に見えてしまった。(このとき橋掛かりを渡ってくる菜穂子の映像の美しさ!)
自分の興味に引きずりすぎていそうだが、堀辰雄が「風立ちぬ」を書いたのはタウトの日本滞在期間と重なるから、まるで見当違いでもないだろう。
(7/27日本経済新聞にこの映画の記事があって、離れのモデルは夏目漱石の「草枕」だとある。)

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まだ「風立ちぬ」は見ていませんが、楽しみがまた増えました。

「洗心亭」は6畳と4畳半の二間だけの平屋で、高校生の私たちでさえ、「ちょっとこれは」と思うほど粗末な(簡素な)住居でした。冬の寒さは厳しく、世界的建築家にとっては不遇な時代だったでしょう。
建築の仕事はないので、家具や竹細工の設計を盛んに行い、多くの工芸品を残しています。
このとき井上さんはまだ30代の青年です。
群馬きっての実業家だった父君が健在で、会社での実権もなく、後年の文化のパトロンとして惜しみなく財力を使える境遇にはなっていませんでした。
年配のタウトが井上さんへの不満を書き残していますが、それは酷というもので、「洗心亭」を用意して、二人の生活を保障するだけでも大変なことだったと思います。
それに関して、井上さんは何もおっしゃいませんでしたが、あの窮屈な時代に才能ある多くの人材を庇護した姿勢は生涯かわりませんでした。

第4信より挿画12_A磯崎新〈栖 十二〉第四信より《挿画12
アンドレア・パッラディオ[ラ・マルコンテンタ(ヴィッラ・フォースカリ)] 1559-60年 ヴェネツィア西郊

第4信より挿画13_A磯崎新〈栖 十二〉第四信より《挿画13
アンドレア・パッラディオ[ラ・マルコンテンタ(ヴィッラ・フォースカリ)] 1559-60年 ヴェネツィア西郊

第4信より挿画14_A磯崎新〈栖 十二〉第四信より《挿画14
アンドレア・パッラディオ[ラ・マルコンテンタ(ヴィッラ・フォースカリ)] 1559-60年 ヴェネツィア西郊

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Tonoshiki表紙600『殿敷侃 遺作展』カタログ
2013年
ときの忘れもの 発行
15ページ
25.6x18.1cm
執筆:濱本聰
図版:21点
価格:800円(税込)
※送料別途250円

2013年8月に開催した「殿敷侃 遺作展」のカタログです。
広島で生まれた殿敷侃は、被爆体験をもとにヒロシマにまつわる遺品や記憶を細密極まる点描で描き、後に古タイヤなどの廃品で会場を埋めつくすというインスタレーションで現代社会の不条理に対して批判的・挑発的なメッセージを発信し、1992年50歳で亡くなりました。
このブログでは「殿敷侃の遺したもの」を記録するため「久保エディション第4回~殿敷侃」はじめ、濱本聰(下関市立美術館)さん、山田博規さん(広島県はつかいち美術ギャラリー)、友利香さん、土屋公雄さん、西田考作さん、池上ちかこさんらに寄稿(再録も含む)していただきました。

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