ILLUMINANT SCENE 1 作家のアトリエから その二

空にドローイングするというそんな自由なものが欲しい

宮脇愛子×植田実(1982)

1982年7月14日宮脇愛子氏宅にて

植田 彫刻をやるというのはどうなんでしょう。さっきも話が出たんだけど、ひととおり材質、材料というものを考えられてるんでしょうか。例えばキレをつかうとか、粘土をつかうとか、そういう形で一応材料を想定してて、それで宮脇さんの場合は特に金属を使うという風に。版画も作られてますよね、エッチングを。あれは紙というものがでてくるんですけども。
miyawaki_douhangasyu1980_vi宮脇愛子
「作品 VI」
1980年
エッチング
29.8×12.3cm
Ed.50
サインあり

極小のなかに逆に拡大された宇宙が
宮脇 あれは紙というより、むしろ銅版に彫るという…
植田 そうですね。ではやはり銅版という金属があるということなんでしょうね。
宮脇 そう、私はやはりリトグラフなんかはあまり好きになれないんですね。
植田 それは面白いなァ。
宮脇 いつか、やりたくなるときが来るかもしれないけども、いまは版画のなかでは興味がないですね。
――実際に石に描く場合も含めてですか。
宮脇 えゝ、出来たものも含めて……エッチングの方が好きだなァ。
植田 多木(浩二)さんも言われてたけども、やはり宮脇さんのエッチングというのは極小の世界を描いてらっしゃるという、そんな感じがしますね。やはり極小というのは、細かければ細かいほど逆に拡大された宇宙がそこに見えてくるというような。宮脇さんの線というのは蜘蛛の巣みたいに切れそうなんだけど、逆に非常に強く感じますね。それが宮脇さんの金属彫刻とつながってるなァと感じるんだけど。ただ彫刻家と版画の関係というのは、宮脇さんの場合は独特だと思うんだけど、例えばそれこそロダンなんていうのは、彫刻のためのエスキースとしてモデルをたいへんなスピードで描いた絵が絵として残ってるし、関根(伸夫)さんとか若林(奮)さんですか、あゝいう方も理想としてはこういう風に作りたいというのを、規模や構造的な問題からみてかなり極端な形でスケッチされて、それが結果として版画になったりする。ところが宮脇さんの場合、それが彫刻のプランというんじゃないし、まったくイメージとしても彫刻作品とは別のもので、たしかにパイプが沢山並んでいる感じというのは似てるかもしれないけども、実はずい分違うと思うんですね。ところが、宮脇さんのエッチングと彫刻の質というのは、逆に他の彫刻家と版画の関係よりももっと近い感じがする。この辺の考えというのはありますか。
宮脇 完全にやはり好みでいきますけれど私は。好き嫌いですね。どうしてもそれ以外のものでは出来ないという風に。だから自分でかなり限定してゆくという――
植田 やはりすごく細かい世界を語られてるという?
宮脇 というより、むしろあの場合は「スクロール ペインティング」というのを毎日やってたでしょう。ある一定の時間、例えば午後の何時から何時まで、その時間は必らず筆をとるという、それは描くのが目的じゃなくて、集中力を養う時間をつくるというのが目的で何日もやっていたわけですけども。いまでも出来ればそれをやると非常に精神的にいいと思うんですけど。私の場合はそれがいいというよりその時は必然的にそれをやらざるを得なかったわけで、そこから始まってるわけですよ、それの続きですよね、エッチングは。

バッハのように流れていくもの
植田 あれが延々と、いわば無限に続いてるというような形で描かれてるということは特に意味はありますか。
宮脇 ありますね。初めがなくて終りがないという。私、もともと、ドラマチックな盛り上がりのようなものに興味がないんです。およそ演劇的じゃないんですね。この頃は早稲田小劇場にすっかり巻きこまれてしまってよく観るんですけれども、本来私の性質としては新劇とか、大げさな身振りとかは――。どちらかというと私は歌舞伎よりもお能の方が好きなんです。お能だったら何時間見てても飽きないんです。
植田 感じはわかる気がしますね。それはいわゆる造型という言葉、とくに造型作家という言葉があまりお好きでないという宮脇さんがいわれていることにも通じますね。
宮脇 そうです。だから音楽でもそうですけど、あまりバ・バ・バ・バーンというようなものは好きじゃないんですね、例えばベートベンみたいな。バッハのように何となく流れていくものの方が好きなんです。
植田 絵の方もそういう無限のかたちというのがありますね。
宮脇 えゝ、だからアクション・ペインティングみたいなバーッというのはどうしても好きになれないんです。
植田 宮脇さんの初期のチューブでやられた油彩の作品というのは、ひとつひとつやられてるんでしょうか。
宮脇 いいえ、あれはペインティング・ナイフを使ってるんですよ。
植田 でも、ひとつひとつ同じ形を繰り返し並べられてるでしょう? あれは僕は、もう誰かも書いてるかもしれないけど、まったく同じなんですよね、かたちが。殆んどね。それがまずすごいことだなっと思ってね。
宮脇 そんなことありませんよ。
植田 そうかなァ、そういう風に見えるんですよね。男がやると必ず乱れますよね。
宮脇 そんなにきちんとしているわけでもないんですけど、私は男がやると必ず乱れるというお説には賛成しかねるんです。
(つづく)
『PRINT COMMUNICATION No.84』 現代版画センター 1982年9月より再録
その一
その二
その三
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宮脇愛子新作展2013」より順次出品作品をご紹介します。
出品番号5番
miyawaki_05
宮脇愛子"Work"
2013年
紙に銀ペン
イメージサイズ:23.2×28.5cm
シートサイズ :29.8×42.0cm
サインと年記あり

出品番号13番
miyawaki_13
宮脇愛子"Work"
2013年
紙に銀ペン
イメージサイズ:30.7×25.0cm
シートサイズ :42.2×29.8cm
サインと年記あり

出品番号16番
miyawaki_16
宮脇愛子"Work"
2013年
紙に銀ペン
イメージサイズ:25.0×22.5cm
シートサイズ :42.0×29.7cm
サインと年記あり

◆ときの忘れものは2013年12月4日(水)ー12月14日(土)今秋84歳を迎えられた宮脇愛子先生の新作ドローイング及び立体による「宮脇愛子新作展2013」を開催しています。
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●『宮脇愛子新作展2013』カタログを制作しました
表紙『宮脇愛子新作展2013』
2013年 ときの忘れもの 発行
16ページ
25.7x18.3cm
図版:16点

※現代版画センター刊『PRINT COMMUNICATION No.84』(1982年9月)に収録された宮脇愛子と植田実の対談を再録
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