<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第12回

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強い光が左ななめ上から射し込んでいる。まもなく正午に至り太陽は頭上にくるだろう。
容赦のない炎天下の道に大小ふたつの人影がある。母と子だろうか。母のほうは日差しに慣れているような落ち着きはらった態度で歩き、そのあとを、ボールを抱えた子どもが小さな歩幅でついていく。
手ぶらだから、行き先はすぐそこなのだろう。だが、そこでどんな光景が待っているのか、というような現実的なことには想像がいかない。それよりも、ふたりをつつんでいる特別な時空に気持ちが集まり、競輪のオーバルコースのように傾斜した路面を滑空していく。
母は長い髪をうしろで束ね、わずかに顔を、右に向けている。ついてくる子どもを気にかけながら、意識の半分を、そこにあるなにかに注いでいる。そうするゆとりを、いま彼女は心から楽しんでいるのだ。
強い日差しのもと、ふたりはくっつき合わずに互いに距離をとって進んでいる。子どもは目の前をいく母親の姿を頼って、そのあとをただついていけばいいと信じている。母親は子どもが自分についてくることを疑わず、その足音を誇らしい気持ちで聞いている。
距離をおいたときにより深く感じる、一緒にいるという感覚。言葉を介さずにそれをわかちあえる歓び。この先の人生においても形をかえ、相手をかえてこうした瞬間がめぐってくるだろう。
この道はその永久の記憶につながっている。
大竹昭子(おおたけあきこ)
~~~~
●紹介作品データ:
田中雄一郎
「大サンパウロ/SP50-7a」
2010年撮影(2012年プリント)
ゼラチンシルバー・プリント
イメージサイズ:28.5x42.4cm
シートサイズ:40.6x50.8cmcm
Ed.5
サインあり
■田中雄一郎 Yuichiro TANAKA(1978-)
1978年埼玉県生まれ。2002年武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。
主な個展:2012年「断片都市 東京」(TOYOTA PHOTO SPACE・釜山)、「大サンパウロ」(新宿ニコンサロン・東京、大阪ニコンサロン・大阪)、2009年「ATLAS BLACK」(アジアフォトグラファーズギャラリー・福岡)、2008年「ATLAS ♯2」(アジアフォトグラファーズギャラリー・福岡)、「PolaVision」(牙狼画廊・神奈川)、2007年「ATLAS ♯1」(GARELIE SOL・東京)、2006年「己に帰れ」(牙狼画廊・神奈川)、2005年「I see,But I can't see anything」(GARELIE SOL・東京)、2004年「陽の当たる場所」(GARELIE SOL・東京)、2003年「side menu」(LIGHT WORKS・神奈川)、2002年「死旅」(フォトスペース光陽・東京)。
主なグループ展:2008「消滅の技法」(福岡アジア美術館・福岡)、2007年「第10回岡本太郎現代芸術大賞展」(川崎市岡本太郎美術館・神奈川)、「デジタルアートフェスティバル東京2007」(パナソニックセンター東京・東京)、2006年「第9回岡本太郎現代芸術大賞展」(川崎市岡本太郎美術館・神奈川)、1998年「ヤング・ポートフォリオ展」(清里フォトアートミュージアム・山梨)
主な受賞歴:2012年第14回三木淳賞奨励賞受賞、2007年第10回岡本太郎現代芸術大賞特別賞受賞、2006年第9回岡本太郎現代芸術大賞特別賞受賞。
◆大竹昭子さんのエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
◆ときの忘れものは2014年1月8日[水]―1月25日[土]「瀧口修造展 Ⅰ」を開催します。
2014年、ときの忘れものでは3回に分けて瀧口修造作品をご覧いただきます。
このブログでは関係する記事やテキストを「瀧口修造の世界」として紹介します。土渕信彦のエッセイ「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。
●瀧口修造 Shuzo TAKIGUCHIの出品作品を順次ご紹介します。

「出品番号 I-1」
墨、紙
イメージサイズ:30.5×24.7cm
シートサイズ :35.3×24.7cm

「出品番号 I-2」
墨、紙
イメージサイズ:27.5×25.5cm
シートサイズ :35.3×26.5cm
左下にサインあり
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強い光が左ななめ上から射し込んでいる。まもなく正午に至り太陽は頭上にくるだろう。
容赦のない炎天下の道に大小ふたつの人影がある。母と子だろうか。母のほうは日差しに慣れているような落ち着きはらった態度で歩き、そのあとを、ボールを抱えた子どもが小さな歩幅でついていく。
手ぶらだから、行き先はすぐそこなのだろう。だが、そこでどんな光景が待っているのか、というような現実的なことには想像がいかない。それよりも、ふたりをつつんでいる特別な時空に気持ちが集まり、競輪のオーバルコースのように傾斜した路面を滑空していく。
母は長い髪をうしろで束ね、わずかに顔を、右に向けている。ついてくる子どもを気にかけながら、意識の半分を、そこにあるなにかに注いでいる。そうするゆとりを、いま彼女は心から楽しんでいるのだ。
強い日差しのもと、ふたりはくっつき合わずに互いに距離をとって進んでいる。子どもは目の前をいく母親の姿を頼って、そのあとをただついていけばいいと信じている。母親は子どもが自分についてくることを疑わず、その足音を誇らしい気持ちで聞いている。
距離をおいたときにより深く感じる、一緒にいるという感覚。言葉を介さずにそれをわかちあえる歓び。この先の人生においても形をかえ、相手をかえてこうした瞬間がめぐってくるだろう。
この道はその永久の記憶につながっている。
大竹昭子(おおたけあきこ)
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●紹介作品データ:
田中雄一郎
「大サンパウロ/SP50-7a」
2010年撮影(2012年プリント)
ゼラチンシルバー・プリント
イメージサイズ:28.5x42.4cm
シートサイズ:40.6x50.8cmcm
Ed.5
サインあり
■田中雄一郎 Yuichiro TANAKA(1978-)
1978年埼玉県生まれ。2002年武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。
主な個展:2012年「断片都市 東京」(TOYOTA PHOTO SPACE・釜山)、「大サンパウロ」(新宿ニコンサロン・東京、大阪ニコンサロン・大阪)、2009年「ATLAS BLACK」(アジアフォトグラファーズギャラリー・福岡)、2008年「ATLAS ♯2」(アジアフォトグラファーズギャラリー・福岡)、「PolaVision」(牙狼画廊・神奈川)、2007年「ATLAS ♯1」(GARELIE SOL・東京)、2006年「己に帰れ」(牙狼画廊・神奈川)、2005年「I see,But I can't see anything」(GARELIE SOL・東京)、2004年「陽の当たる場所」(GARELIE SOL・東京)、2003年「side menu」(LIGHT WORKS・神奈川)、2002年「死旅」(フォトスペース光陽・東京)。
主なグループ展:2008「消滅の技法」(福岡アジア美術館・福岡)、2007年「第10回岡本太郎現代芸術大賞展」(川崎市岡本太郎美術館・神奈川)、「デジタルアートフェスティバル東京2007」(パナソニックセンター東京・東京)、2006年「第9回岡本太郎現代芸術大賞展」(川崎市岡本太郎美術館・神奈川)、1998年「ヤング・ポートフォリオ展」(清里フォトアートミュージアム・山梨)
主な受賞歴:2012年第14回三木淳賞奨励賞受賞、2007年第10回岡本太郎現代芸術大賞特別賞受賞、2006年第9回岡本太郎現代芸術大賞特別賞受賞。
◆大竹昭子さんのエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
◆ときの忘れものは2014年1月8日[水]―1月25日[土]「瀧口修造展 Ⅰ」を開催します。
2014年、ときの忘れものでは3回に分けて瀧口修造作品をご覧いただきます。このブログでは関係する記事やテキストを「瀧口修造の世界」として紹介します。土渕信彦のエッセイ「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。
●瀧口修造 Shuzo TAKIGUCHIの出品作品を順次ご紹介します。

「出品番号 I-1」
墨、紙
イメージサイズ:30.5×24.7cm
シートサイズ :35.3×24.7cm

「出品番号 I-2」
墨、紙
イメージサイズ:27.5×25.5cm
シートサイズ :35.3×26.5cm
左下にサインあり
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