中村茉貴「美術館に瑛九を観に行く」 第4回 埼玉県立近代美術館
Seeing Q Ei's works at museums Vol.4 - Museum of Modern Art, Saitama
「private, private-わたしをひらくコレクション」
今回は、改修工事を終え、リニューアルオープンした埼玉県立近代美術館へお邪魔した。
埼玉県立近代美術館 外観。実は国立新美術館とおなじ黒川紀章の設計。美術館前に広がる音楽噴水は必見。
生まれ変わったばかりの美術館では、
「private」(個人的な/私的な)という言葉をテーマに掲げ、下記の3つのセクションとインターセクション(幕間)で構成された企画展が開催されていた。
1. private passion:越境者の軌跡-瑛九と須田剋太
2. private collection:蒐集家の眼差-大熊家コレクション
3. private vision:美術家の作法-アナザー・ヴィジョン・サイタマ
インターセクションprivate to private:あなたのこだま
室内-卓上/回転
庭-愛でるもの/慈しむもの
外へ-天を見上げて/記憶の彼方
瑛九の作品はセクション1とインターセクション「室内-卓上/回転」に展示され、常設展示の1階吹き抜け周りのギャラリーでも「1」の延長として、瑛九(1911-1960)と須田剋太(1906-1990)の作品が公開されていた。
下記には、美術館で配布されている目録から瑛九のみピックアップしたが、須田剋太の場合もほぼ同じ分量の作品が御披露目されていることから、合わせてご覧いただきたい。
1. private passion:越境者の軌跡-瑛九と須田剋太
〈出品作品〉
《十三子姉》1929年 油彩、板にカンヴァス
《作品(71)》1932年 ゼラチン・シルバープリント
《女B》1935年 水彩、紙
《(Drawing-Block 1935,12月)》1935年 インク、紙 うらわ美術館蔵
《(CARNET CROQUIS 1936,2,13)》1936年 インク、紙 うらわ美術館蔵
《作品(40)》1936年 ゼラチン・シルバープリント
《作品(6)》1937年 ゼラチン・シルバープリント 谷口都氏寄贈
《作品Ⅰ》1937年 コラージュ、紙
《兄弟》1944年 油彩、紙(板に貼りこみ)
《ともだち》1944年 油彩、紙(板に貼りこみ)谷口都氏寄贈
《出発》1949年 油彩、カンヴァス
《眼》1951年 エッチング、紙
《リズム》1951年 ゼラチン・シルバープリント
《希望》1951年 ゼラチン・シルバープリント
《花》1956年 油彩、板
《森の中》1957年 リトグラフ、紙
《雲》1957年 リトグラフ、紙
《子供のプロフィール》1957年
《青の中の黄色い丸》1957-58年 油彩、カンヴァス
《雲》1959年 油彩、カンヴァス
〈史料(雑誌・書簡)〉
杉田秀夫「逝ける萬鐵五郎氏の藝術を論ず」『みづゑ』1927年6月号
杉田秀夫「フォトグラムの自由な制作のために」『フォトタイムス』1930年8月号
杉田秀夫「アマチュア・ポートレート」『フォトタイムス』1930年8月号
瑛九「北尾淳一郎宛書簡」1936年3月14日 うらわ美術館蔵
初期の瑛九の活動を伝える会場風景。
10代にして洋画家、写真家、美術評論家と多彩な表現活動をくりひろげていた瑛九。
フォトグラム、コラージュ、ペン画などを紹介するコーナー。
本名杉田秀夫から一変して「瑛九」と名乗る頃。
彼の特徴のひとつである浮遊感をともなう造型性は、この頃からあらわれはじめ、支持体が変わっても一様に見受けられる。
《出発》1949年 油彩、カンヴァス
幾何学的な抽象絵画を描いていた頃の作品。画面上で色と形が見事に調和している。
真っ白な壁面に色鮮やかな瑛九の晩年の作品が掛かっている。
左から《雲》、《花》、《青の中の黄色い丸》。
瑛九は「色彩家」と呼ばれたこともある。
「1.private passion:越境者の軌跡-瑛九と須田剋太」を企画した学芸員の吉岡知子氏は、2人の共通点を以下のように見出している。
(1)須田剋太は生まれが埼玉で晩年に大阪で活動した。瑛九も時期は異なるものの大阪や埼玉で活動した。
(2)収蔵品の中でも両者は抜きんでてコレクション数が多いということ
(3)両者とも長谷川三郎(洋画家、1906-1957)と親しくしていたこと
これまで瑛九と活動を共にした池田満寿夫や靉嘔などの作品が一緒に並べられていることはよくあったが、今回のように須田剋太と一緒に展示された例はあまりなかったのではないだろうか。
同時代に生きた瑛九と須田剋太。
こうして、2人の作品を並べて見ると作品の中に近しい表現があることが分かった。
たとえば、画面に点を打つ、複数の丸を描く、引っ掻くといった行為。
彼らは自己の感覚をたよりに執拗なほど画面に向かって制作に没頭したのであろう。
画面に出来た凹凸や引っ掻き傷、あるいは色や線で表現された奥行きは、絵画の平面性から脱却する試みのようであった。
しかし、表現の手法は似ていても出来上がった画面は、まったく異なる。
瑛九の豊かな色彩感覚や神経の通った線が特徴的なのに対し、須田剋太の表現は迷いのない力強い筆致が特徴としてみてとれる。
とりわけ接点のなかった2人だが、両者の作品を比較することで各々の個性や特徴、さらには作家の性格までもがみえてくる展示であった。
private(個)をテーマにすることで見えてきた「瑛九」と「須田剋太」の特徴。
2人の書簡は文字も違うと吉岡さんと笑いながら話したのが印象的だった。
文は人なり。
絵も人なり。
1階吹き抜け周りのギャラリー。こちらは無料で鑑賞できる。
MOMASコレクションI
ギャラリー(吹き抜け周り)※瑛九のみ転載
《オペラグラス》1953年 エッチング、紙
《光》1954年 アクアチント、紙
《嵐をつげる》1956年 リトグラフ、紙
《航海》1956年 リトグラフ、紙
《たたかい》1956年 エッチング、紙
《波のたわむれ(おどり)》1956年 アクアチント、紙
《落書》1956年 エッチング、紙
《風が吹きはじめる》1957年 リトグラフ、紙
《くもり日》1958年 エッチング、紙
《風景A》1958年 エッチング、紙
《作品(1)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリントに吹きつけ 谷口都氏寄贈
《作品(14)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント 谷口都氏寄贈
《作品(21)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(27)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(31)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(50)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(54)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリントに吹きつけ
《作品(61)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(62)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(77)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(78)》作年不詳 ゼラチン・シルバープリントに吹きつけ 谷口都氏寄贈
インターセクション private to private:あなたのこだま
〈室内-卓上/回転〉
《かぎ》1956年 ドライポイント、紙
《作品(32)》1952-53年 ゼラチン・シルバープリント
左側壁面1列目に展示されている。
このセクションでは、プライベートな空間を再現するような一風変わった展示の仕方をしている。
出品作家はさまざまで、タイトルを見ると私物やアイデンティティーを意識させる語感が多い。
かぎ、室内、卓上、蔵書票――。
隣り合う作品もどことなく関連性があり、
版画なら版画、写真なら写真、丸い物は丸い物
日常生活で無意識にモノの所定位置を決めてゆくように
あるいは、作家のふとした関心は私生活にある普遍的なものであり、
作家が次々と生み出すイメージの連鎖に「私」は迷い込んでゆくようだった。
***
ちょっと休憩....
埼玉県立近代美術館に行くと、
ユニークな椅子がそこかしこにある。
柳宗理《バタフライ・スツール》
トールスタイン・ニールセン《トーテム》
美術館では作品保護のため、ガラス越しに作品鑑賞をしなければいけない。
そんな状況下で初代館長の本間正義は、「美術品にふれることが出来ないとしても、ゆっくりくつろいで見ることは出来ないものか」とさまざまな椅子を美術館に導入した。(「美術館と椅子」『私の近代美術館論集』1997、美術出版社)
いまでもその意思は受け継がれ、展示担当学芸員や教育普及担当者が定期的に椅子の選定を行っている。
スタジオ65《マリリン》
***
ちょっと寄り道....
山田光春『瑛九-評伝と作品』408-409頁によると、瑛九は1955年6月コバルト画廊(現画房)で開催した個展が切っ掛けで、翌年、歌人 加藤克己の歌集『宇宙塵』の表紙をとつとめることになった。
コバルトは、埼玉の地に訪れた瑛九にとって重要な場所であった。
現在もさいたま市に残る「コバルト画房」
瑛九のペン画。サインは無い。都夫人が額をつくりにコバルトへ訪れたときの置き土産だという。
瑛九と須田剋太が住んでいた旧浦和市(さいたま市)は、美術家が多く集まった場所で、とくにこの別所沼周辺は人気スポットであった。須田剋太は一時期この近くに居を構えていた。
別所沼から武蔵浦和駅まで続く遊歩道には桜並木が続いている。
(なかむら まき)
●展覧会のご案内


「リニューアルオープン記念展:private, private-わたしをひらくコレクション」
会期:2015年4月11日[土]~5月24日[日]
会場:埼玉県立近代美術館
〒330-0061 埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
Tel. 048-824-0111
時間:10:00~17:30(入館は17:00まで)
月曜日休館
主催:埼玉県立近代美術館
協力:JR東日本大宮支社、FM NACK5
※「3. private vision:美術家の作法-アナザー・ヴィジョン・サイタマ」では、平成26度(第65回)芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した佐藤時啓の作品が展示されている。
※「MOMASコレクションⅠ」の会期は、2015年4月11日[土]~7月12日[日]
美術館で作品を見ることは、とても個人的な体験です。たとえ作品の前にたくさんの人がいても、誰かと一緒に美術館を訪れても、ある瞬間に作品と向き合って感じた思いは、「わたし」ひとりのものです。また、展示されている作品も、ある時代を生きた/生きている美術家という個人が制作しなければ、いまここに存在することはありません。ときには、個人コレクターが慈しみ、蒐集した作品が、まとまったかたちで美術館に受け継がれる場合もあります。このように、美術館は開かれた公の場でありながら、同時に時代や場所を超えた「個」と「個」の出会いによって成り立っていると言えるでしょう。
この展覧会では、「私的な/個人的な」という意味を持つ言葉「private」を手がかりに、核となる3つのセクションと、各セクションをゆるやかに繋ぐ作品群によって、当館のコレクションを紹介していきます。それは当館がこれまでに積み重ねてきた「個」と「個」の出会いを振り返る機会にもなるでしょう。(同展HPより転載)
◆このブログで瑛九に関連する記事は「瑛九について」でカテゴリーを作成しています。
・「美術館に瑛九を観に行く」は随時更新します。
●今日のお勧め作品は、瑛九です。
瑛九
「作品」
フォトデッサン
40.8×31.9cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
Seeing Q Ei's works at museums Vol.4 - Museum of Modern Art, Saitama
「private, private-わたしをひらくコレクション」
今回は、改修工事を終え、リニューアルオープンした埼玉県立近代美術館へお邪魔した。
埼玉県立近代美術館 外観。実は国立新美術館とおなじ黒川紀章の設計。美術館前に広がる音楽噴水は必見。生まれ変わったばかりの美術館では、
「private」(個人的な/私的な)という言葉をテーマに掲げ、下記の3つのセクションとインターセクション(幕間)で構成された企画展が開催されていた。
1. private passion:越境者の軌跡-瑛九と須田剋太
2. private collection:蒐集家の眼差-大熊家コレクション
3. private vision:美術家の作法-アナザー・ヴィジョン・サイタマ
インターセクションprivate to private:あなたのこだま
室内-卓上/回転
庭-愛でるもの/慈しむもの
外へ-天を見上げて/記憶の彼方
瑛九の作品はセクション1とインターセクション「室内-卓上/回転」に展示され、常設展示の1階吹き抜け周りのギャラリーでも「1」の延長として、瑛九(1911-1960)と須田剋太(1906-1990)の作品が公開されていた。
下記には、美術館で配布されている目録から瑛九のみピックアップしたが、須田剋太の場合もほぼ同じ分量の作品が御披露目されていることから、合わせてご覧いただきたい。
1. private passion:越境者の軌跡-瑛九と須田剋太
〈出品作品〉
《十三子姉》1929年 油彩、板にカンヴァス
《作品(71)》1932年 ゼラチン・シルバープリント
《女B》1935年 水彩、紙
《(Drawing-Block 1935,12月)》1935年 インク、紙 うらわ美術館蔵
《(CARNET CROQUIS 1936,2,13)》1936年 インク、紙 うらわ美術館蔵
《作品(40)》1936年 ゼラチン・シルバープリント
《作品(6)》1937年 ゼラチン・シルバープリント 谷口都氏寄贈
《作品Ⅰ》1937年 コラージュ、紙
《兄弟》1944年 油彩、紙(板に貼りこみ)
《ともだち》1944年 油彩、紙(板に貼りこみ)谷口都氏寄贈
《出発》1949年 油彩、カンヴァス
《眼》1951年 エッチング、紙
《リズム》1951年 ゼラチン・シルバープリント
《希望》1951年 ゼラチン・シルバープリント
《花》1956年 油彩、板
《森の中》1957年 リトグラフ、紙
《雲》1957年 リトグラフ、紙
《子供のプロフィール》1957年
《青の中の黄色い丸》1957-58年 油彩、カンヴァス
《雲》1959年 油彩、カンヴァス
〈史料(雑誌・書簡)〉
杉田秀夫「逝ける萬鐵五郎氏の藝術を論ず」『みづゑ』1927年6月号
杉田秀夫「フォトグラムの自由な制作のために」『フォトタイムス』1930年8月号
杉田秀夫「アマチュア・ポートレート」『フォトタイムス』1930年8月号
瑛九「北尾淳一郎宛書簡」1936年3月14日 うらわ美術館蔵
初期の瑛九の活動を伝える会場風景。10代にして洋画家、写真家、美術評論家と多彩な表現活動をくりひろげていた瑛九。
フォトグラム、コラージュ、ペン画などを紹介するコーナー。本名杉田秀夫から一変して「瑛九」と名乗る頃。
彼の特徴のひとつである浮遊感をともなう造型性は、この頃からあらわれはじめ、支持体が変わっても一様に見受けられる。
《出発》1949年 油彩、カンヴァス幾何学的な抽象絵画を描いていた頃の作品。画面上で色と形が見事に調和している。
真っ白な壁面に色鮮やかな瑛九の晩年の作品が掛かっている。左から《雲》、《花》、《青の中の黄色い丸》。
瑛九は「色彩家」と呼ばれたこともある。
「1.private passion:越境者の軌跡-瑛九と須田剋太」を企画した学芸員の吉岡知子氏は、2人の共通点を以下のように見出している。
(1)須田剋太は生まれが埼玉で晩年に大阪で活動した。瑛九も時期は異なるものの大阪や埼玉で活動した。
(2)収蔵品の中でも両者は抜きんでてコレクション数が多いということ
(3)両者とも長谷川三郎(洋画家、1906-1957)と親しくしていたこと
これまで瑛九と活動を共にした池田満寿夫や靉嘔などの作品が一緒に並べられていることはよくあったが、今回のように須田剋太と一緒に展示された例はあまりなかったのではないだろうか。
同時代に生きた瑛九と須田剋太。
こうして、2人の作品を並べて見ると作品の中に近しい表現があることが分かった。
たとえば、画面に点を打つ、複数の丸を描く、引っ掻くといった行為。
彼らは自己の感覚をたよりに執拗なほど画面に向かって制作に没頭したのであろう。
画面に出来た凹凸や引っ掻き傷、あるいは色や線で表現された奥行きは、絵画の平面性から脱却する試みのようであった。
しかし、表現の手法は似ていても出来上がった画面は、まったく異なる。
瑛九の豊かな色彩感覚や神経の通った線が特徴的なのに対し、須田剋太の表現は迷いのない力強い筆致が特徴としてみてとれる。
とりわけ接点のなかった2人だが、両者の作品を比較することで各々の個性や特徴、さらには作家の性格までもがみえてくる展示であった。
private(個)をテーマにすることで見えてきた「瑛九」と「須田剋太」の特徴。
2人の書簡は文字も違うと吉岡さんと笑いながら話したのが印象的だった。
文は人なり。
絵も人なり。
1階吹き抜け周りのギャラリー。こちらは無料で鑑賞できる。MOMASコレクションI
ギャラリー(吹き抜け周り)※瑛九のみ転載
《オペラグラス》1953年 エッチング、紙
《光》1954年 アクアチント、紙
《嵐をつげる》1956年 リトグラフ、紙
《航海》1956年 リトグラフ、紙
《たたかい》1956年 エッチング、紙
《波のたわむれ(おどり)》1956年 アクアチント、紙
《落書》1956年 エッチング、紙
《風が吹きはじめる》1957年 リトグラフ、紙
《くもり日》1958年 エッチング、紙
《風景A》1958年 エッチング、紙
《作品(1)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリントに吹きつけ 谷口都氏寄贈
《作品(14)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント 谷口都氏寄贈
《作品(21)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(27)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(31)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(50)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(54)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリントに吹きつけ
《作品(61)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(62)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(77)》制作年不詳 ゼラチン・シルバープリント
《作品(78)》作年不詳 ゼラチン・シルバープリントに吹きつけ 谷口都氏寄贈
インターセクション private to private:あなたのこだま
〈室内-卓上/回転〉
《かぎ》1956年 ドライポイント、紙
《作品(32)》1952-53年 ゼラチン・シルバープリント左側壁面1列目に展示されている。
このセクションでは、プライベートな空間を再現するような一風変わった展示の仕方をしている。
出品作家はさまざまで、タイトルを見ると私物やアイデンティティーを意識させる語感が多い。
かぎ、室内、卓上、蔵書票――。
隣り合う作品もどことなく関連性があり、
版画なら版画、写真なら写真、丸い物は丸い物
日常生活で無意識にモノの所定位置を決めてゆくように
あるいは、作家のふとした関心は私生活にある普遍的なものであり、
作家が次々と生み出すイメージの連鎖に「私」は迷い込んでゆくようだった。
***
ちょっと休憩....
埼玉県立近代美術館に行くと、
ユニークな椅子がそこかしこにある。
柳宗理《バタフライ・スツール》
トールスタイン・ニールセン《トーテム》美術館では作品保護のため、ガラス越しに作品鑑賞をしなければいけない。
そんな状況下で初代館長の本間正義は、「美術品にふれることが出来ないとしても、ゆっくりくつろいで見ることは出来ないものか」とさまざまな椅子を美術館に導入した。(「美術館と椅子」『私の近代美術館論集』1997、美術出版社)
いまでもその意思は受け継がれ、展示担当学芸員や教育普及担当者が定期的に椅子の選定を行っている。
スタジオ65《マリリン》***
ちょっと寄り道....
山田光春『瑛九-評伝と作品』408-409頁によると、瑛九は1955年6月コバルト画廊(現画房)で開催した個展が切っ掛けで、翌年、歌人 加藤克己の歌集『宇宙塵』の表紙をとつとめることになった。
コバルトは、埼玉の地に訪れた瑛九にとって重要な場所であった。
現在もさいたま市に残る「コバルト画房」
瑛九のペン画。サインは無い。都夫人が額をつくりにコバルトへ訪れたときの置き土産だという。
瑛九と須田剋太が住んでいた旧浦和市(さいたま市)は、美術家が多く集まった場所で、とくにこの別所沼周辺は人気スポットであった。須田剋太は一時期この近くに居を構えていた。
別所沼から武蔵浦和駅まで続く遊歩道には桜並木が続いている。(なかむら まき)
●展覧会のご案内


「リニューアルオープン記念展:private, private-わたしをひらくコレクション」
会期:2015年4月11日[土]~5月24日[日]
会場:埼玉県立近代美術館
〒330-0061 埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
Tel. 048-824-0111
時間:10:00~17:30(入館は17:00まで)
月曜日休館
主催:埼玉県立近代美術館
協力:JR東日本大宮支社、FM NACK5
※「3. private vision:美術家の作法-アナザー・ヴィジョン・サイタマ」では、平成26度(第65回)芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した佐藤時啓の作品が展示されている。
※「MOMASコレクションⅠ」の会期は、2015年4月11日[土]~7月12日[日]
美術館で作品を見ることは、とても個人的な体験です。たとえ作品の前にたくさんの人がいても、誰かと一緒に美術館を訪れても、ある瞬間に作品と向き合って感じた思いは、「わたし」ひとりのものです。また、展示されている作品も、ある時代を生きた/生きている美術家という個人が制作しなければ、いまここに存在することはありません。ときには、個人コレクターが慈しみ、蒐集した作品が、まとまったかたちで美術館に受け継がれる場合もあります。このように、美術館は開かれた公の場でありながら、同時に時代や場所を超えた「個」と「個」の出会いによって成り立っていると言えるでしょう。
この展覧会では、「私的な/個人的な」という意味を持つ言葉「private」を手がかりに、核となる3つのセクションと、各セクションをゆるやかに繋ぐ作品群によって、当館のコレクションを紹介していきます。それは当館がこれまでに積み重ねてきた「個」と「個」の出会いを振り返る機会にもなるでしょう。(同展HPより転載)
◆このブログで瑛九に関連する記事は「瑛九について」でカテゴリーを作成しています。
・「美術館に瑛九を観に行く」は随時更新します。
●今日のお勧め作品は、瑛九です。
瑛九「作品」
フォトデッサン
40.8×31.9cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
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