「いとしの国ブータン紀行」第5回

アートフル勝山の会 荒井由泰

観光立国ブータン
ブータンは基本的には農業国だが、外貨を稼いでいる一番手が水力発電による売電である。インドに電気を送っている。次なるのが観光産業である。ブータンは公定料金を決めて、観光客の数を増やすというより、付加価値を高めた形で観光客を受け入れる政策を取っている。8月はシーズンオフで一人一日200ドル(ガイド・ホテル・食事・マイクロバス込み)、秋祭りのはじまる9月からは250ドルにアップする。国の税金として40%を取り、税収が国の貴重な財源になっている。年間目標10万人(次なる目標20万人)は達成としていると言っているが、インドの観光客も含んでいるようだ。現在一番多いのが米国人、次が中国人(増えることをあまり喜んでいないようだが)、そして日本人。日本人は年間4~5千人程度で、2011年に国王が来日された翌年は7000人近くになったが、現在は減り勾配だ。西岡京治氏が30年にわたりブータン農業の近代化に貢献したこともあり、日本そして日本人に対する親愛の情は篤い。ブータンは日本人観光客がもっと増えることを望んでいる。公定レートの関係で多少料金が高くなるが、ブータンの魅力を真に理解できるのは日本人だと思うので、ぜひとも、皆さんにもブータンを訪ねて欲しい。
皆さんは食事のこと、特に料理が辛い(唐辛子が中心で、香辛料でなく、野菜である)ことを心配されるが、ホテルやレストランではビュフェ形式で、お米が主食でもあり、また外国人用に味付けもされており、一部のブータン料理を除き、辛さは心配しなくて大丈夫だ。
ブータンの旅はマイクロバスに乗り、ガイドさんとともに、舗装のしていない峠道をひたすら上り、そして下り、目的地・街にたどり着く旅だ。途中には稲作の棚田が広がる景色が見渡せるビューポイントがあり、ほっと一息つくことができる。また、経文旗のダルシンやルンタが至る所にあり風景に彩りをつけてくれる。一方、トイレが完備された休憩場所が少ないので、時には男性も女性も自然の中で用をたすことになるが、これもまた楽しい体験だ。今回は雨季のシーズンということで雲(霧)の中を走ることが多かったが、至る所に崖崩れが発生しており、ときどき交通渋滞に出くわした。それに道にも牛が放牧されており、進路を邪魔することも何度かあった。これもブータンの風景として楽しませてもらった。車中ではガイドさんが流ちょうな日本語でブータンの日常生活や恋愛ばなしまで話をしてくれ、ぐっとブータンの暮らしが身近になる。彼らのおだやかで、やさしい人間性が我々を癒してくれる感じだ。ガイドさんとのふれあいがブータン旅行の大きな魅力の一つだ。今回の旅ではすでに記したように、各地でゾンと言われる行政・宗教の拠点や僧院をいくつか訪れ、たくさんのマニ車(お経が書いてあり、一回、廻すとお経を読んだことになる)を廻し、祈りを捧げてきたので、少しは徳が積めたのではと思っているのだが・・・

01ガイドとともに畦道を歩く


02ガイドとともに(ドゥゲ・ゾンにて)


03峠でのレスト: 農家が売りに来たゆでたトウモロコシを味わう



04峠のビューポイントからみた棚田のある風景


閑話休題:ブータンまつたけ
今回は雨季ということで残念ながらヒマラヤの山々そして満天の星を見ることができなかったが、雨季ならではの山の幸にありつけた。「まつたけ」だ。最近、「ブータンまつたけ」が日本でも出回っているようだが、ブータンでは「まつたけ」はほとんど食べない。日本人が「まつたけ」大好きということで、日本にも輸出されている。今回もお土産として、輸出手続きをした形で1キロ購入したが価格は約1万円だった。市内のバザールではキロ2000円程度で売られていたから相当割高になってしまう。バザールで購入した「まつたけ」をホテルに持ち込み、スープそして焼きまつたけにして賞味した。香りについては日本のものより少ない感じだが、食感や味はまずまずで十分楽しめた。

05市場にて: ブータンの代表的野菜・トウガラシ


06市場にて: ブータンまったけ


福井とブータン
福井県は全国で幸福度NO.1ということから、幸福つながりで県レベルでブータンと交流をはかっている。GNHの生みの親でもあるブータン王立研究所のカルマ・ウラ所長を招聘し、講演会も開催している。また、知事や経済界の代表もブータンを訪問している。さらには福井の実業家・野坂氏がブータンのGNHの考え方に共感され、ブータンの伝統や文化を広く知ってもらうとともに、幸せが実感出来る持続可能な社会の創造および国際交流を目的として、自社ビルの1階に「ブータンミュージアム」を開設している。このミュージアムを支えるのが特定非営利活動法人「幸福の国」で、私も理事として末席を汚している。今回、ブータンにはじめて旅することができ、「知識としてブータンを知っていても、実際のブータンを知らない」という胸のつかえが取れ、ほっとしている。とにかく福井県とブータンは不思議なご縁で結ばれている。

07プナカ・ゾンを訪ねて


08プナカ・ゾンへつながる木造の橋で


09タクツアン僧院への途中にあるマニ車とルンタ



10カルマ・ウラ氏とブータンミュージアムの野坂氏(福井市にて)


11ブータン国王と西川福井県知事(2011年の歓迎レセプションにて)


観光立国ブータンから福井の観光を考える
今回の旅の目的の一つが観光立国ブータンから観光後進県、特に外国人観光客が極めて少ない(全国ワーストに近い)福井への処方箋を考えることであった。
福井は全国では1周遅れのフロントランナー。ブータンは世界から見ると2周遅れのフロントランナーで似たところが多くあり、古き良きもの(人・自然・文化)がまだ残っており、そこを自分たちの魅力として認識すべきではと勝手に思っている。
先にお話ししたように、ブータンは外貨獲得を観光に求める観光立国だ。今回、観光立国ブータンのガイドシステムなど、福井のインバウンド(海外特に欧米の旅行者)の対応に活用できないか検証すべく、自分が福井を訪れた欧米人の気持ちで観光を体験してみた。(福井の魅力を評価してくれるのはやっぱり欧米の人であろうと思うから。)ブータンでは旅行者・観光客の受け入れに公定レートを設定することにより、観光の質を保ち、外貨を獲得する仕組みを取っている。日本では入り込み数という考え方が強く、観光客数を優先する考え方が主流だが、人数を制限し、ブランドイメージを高め、高付加価値で対応する戦略だ。このシステムではガイドが重要な役割を果たしている。日本では通訳というかたちでツアーの案内人をつとめることが多いが、ブータンでは通訳兼ガイドで観光スポットでの説明を一人でやっている。福井でも人材教育の問題はあるが、有効なシステムに違いない。というのも福井は公共交通が発達していないので、マイクロバス(定員20名ぐらいまで)で地域を巡り、堪能な英語でガイドできればお客様の満足度も高まるはずだ。一部ローカル線(えちぜん鉄道)の旅を組み込むことも可能だろう。「ガイドと行く福井HAPPYツアー」とでも名付けよう。ガイドは和の雰囲気のある法被(はっぴ:HAPPYにつながる)姿が望ましい。訪問先は禅の拠点・永平寺、一乗谷朝倉遺跡(中世の城下町史蹟)、白山平泉寺(白山信仰の拠点・中世の宗教都市史蹟)、福井県立恐竜博物館等々で、福井の代表的の観光地巡りとなる。加えて、教育県として全国的に有名な福井でもあるので、小学校や保育園そして真宗王国福井の農家(大きな仏壇がある農家)なども加えるべきだろう。里山や水田風景の中の散策もいい。トンボやホタルや蝶とも出会える。食事は地酒に和食・田舎料理、宿泊は温泉。春祭り・秋祭りの見学もぜひ入れたい。いろいろ夢が広がる。お客様のご希望に応じてコース設定ができる旅だ。ブータンを訪ねて、いままで観光資源だと思っていなかった身近のモノやコトが観光資源になることを実感した。観光後進国福井を逆手にとって、ユニークであったかい旅が提案できたら共感を得られるのではと思う。そのためにはそれぞれの歴史的物語や日々の暮らしをきっちり英語でガイドできる人材がどうしても必要だ。働きがいのある仕事としてのステイタスと収入が保証される仕組みができないか、ぜひとも県内の方に提案していこうと思う。

いとしの国ブータン紀行を最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。近代化が進むなかで課題はあるものの、ブータンには日本が高度成長のなかで失ってしまった自然や人の心がまだまだ残っている。そこに我々は癒しや魅力を感じる。本当のブータンの価値が分かるのは経済発展が決して心の豊かさを生み出す唯一の価値では無いことを一番感じ取っている日本人ではなかろうか。福井もブータンに対する同じような気持ちを抱ける地域になることを願ってやまない。

最後の最後にもう一言。ブータンに関心をもたれた方はぜひブータンへの旅を実行して下さい。ブータンの国民は日本人の来訪を心より待っていますから。加えて、米原駅や東京駅で「ブータンミュージアム」の広告を見かけたら、福井を思い出してください。そして、ご縁がありましたら、わがふるさと越前福井へも足を運んで下さい。お待ちしています。
(あらいよしやす

●今日のお勧め作品は、野田哲也 Tetsuya NODAです。
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野田哲也 Tetsuya NODA
"Diary; June 19th '92 (b)"
1992年
木版・シルクスクリーン
イメージサイズ:36.1×50.8cm
シートサイズ:45.2×60.5cm
Ed.45
サインと拇印あり

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野田哲也 Tetsuya NODA
"Diary; Oct. 1st '92"
1992年
木版・シルクスクリーン
イメージサイズ:61.8×40.8cm
シートサイズ:74.0×52.8cm
Ed.40
サインと拇印あり

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◆2015年10月19日の第一回から、毎月19日更新で連載した荒井由泰さんのエッセイ「いとしの国ブータン紀行」は今回で終了です。ご愛読、ありがとうございました。
恩地孝四郎、駒井哲郎、ルドンなどのコレターである荒井さんにはいずれ次の連載を期待しましょう。