野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」 第22回

ART BUSANに向けて/大阪個展の事

4月30日~5月14日まで開催していた大阪のNii Fine Artsさんでの個展も終わり、のんびりする暇も無く17日には釜山に発ちます。
ときの忘れものさんのブースから初の「ART BUSAN」に出展させて頂ける事になり、今回新作は無いのですが、大作3点と15号1点の計4点を出展致します。
今まで出展させて頂いたアートフェアでの展示の中でもっとも広い面積を頂いての展示になるので楽しみです。
ソウルでのアートフェアKIAFにはここ4年連続で出展させて頂きましたが、釜山へは行くのも初めて、同じ韓国でもフェア全体の雰囲気や、出展される作品には違いがあるのか、色々と感じてこようと思っています。
また、釜山は海沿いの街、空いた時間に海も眺められるかなと思うのでそれも楽しみです。

出展作品は
「Landscape#32」「Landscape#32」
2014年作
(227.3×145.5cm)


「Landscape#30」「Landscape#30」
2013年作
(91×182cm)


「Remember me」「Remember me」
2015年作
(110×200cm)


「Quiet wish」「Quiet wish」
2015年作
(65.2×53cm)


4月30日から開催していた大阪のNii Fine Artsさんでの個展会場にはいつも通り15日間毎日通い、色々なお客様とお話させて頂きました。
長丁場の個展中、特に記憶に残っているお客様は自分より少し年下の男性で、凄く目を近づけて熱心に観て頂いているので、「何かモノ作りをされているんですか?」と尋ねると、「実は僕、野口さんのご実家と同業で、西陣の箔屋なんです」と、ただ彼の父は西陣の引箔仕事だけでやってきたそうですが、今はもうそれだけではやっていけないので、彼はお箸をメインに色々なものに箔を押し、試行錯誤の日々を送っているそうです。
昔の自分の事を思い出しました。
優れた技術を持ちながらも西陣の中だけでは食べていくのは厳しく、何か新しい事ができないのかと試行錯誤している若手の職人さんは多いそうで、そんな職人さん達が集まって色々な情報交換をしたり、協力し合ったり相談する集まりがあるそうなのですが、彼曰く、「野口さんは西陣でも有名人ですよ、その職人の集まりではいつも野口さんの名前が出ます、皆凄く刺激をもらっていますよ」と、これはかなりびっくりしました。

DSC_9856Nii Fine Artsでの個展風景


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13年程前に、不景気で厳しかった西陣の箔屋の仕事を早々に諦め、父に頭を下げ箔画作家の道一本に絞った自分ですが、その後は西陣内でのお付き合いもほとんど無く、西陣と何かしら仕事で絡むような事も無かったので、私が作家活動をしている事など、地元ではほとんど知られていないのだと思っていました。

その後徐々に色々なメディアにも取り上げて頂ける事も増え、取材などで何度か質問をされた事がありました。
「野口さんは西陣の為にもがんばっていらっしゃるのですか?」
その問いに対してはいつも、「西陣の為という事は意識はしていませんが、高い技術を持ちながら西陣ではなかなか仕事が無く、その技術を生かして何か新しい事ができないのかと日々もがいている職人さんはおられると思うので、そんな職人さん達の刺激になるような存在になれたらいいなとは思ってがんばっています。
と答えていました。

なので、あぁ…がんばってきてよかったと本当に思いました。
それで彼に「箔画もやったらええやん!見たらわかると思うけど、技術的にそんな難しい事してるわけちゃうし!」と勧めておきました。
時々思うのですが、私が箔画を始めてもう15年程経ち、それなりに色々な所で展示もさせて頂いたり、メディア露出などもしているので、他に箔画を始める作家さんが出てきても面白いのにと待っているのですが、金箔や漆を使う特殊な技術でもあるので、独学で始めるのは難しいのかなと思います。

まだ日々自分の制作で精一杯で人に教えたりという事は考えられないのですが、日本画や油画のように、いつか箔画作家も増えたらいいなと、そしてもっと西陣の職人さん達の刺激にもなれるようにがんばっていこうと思います。

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のぐち たくろう

野口琢郎 Takuro NOGUCHI(1975-)
1975年京都府生まれ。1997年京都造形芸術大学洋画科卒業。2000年長崎市にて写真家・東松照明の助手に就く。2001年京都西陣の生家に戻り、家業である箔屋野口の五代目を継ぐため修行に入る。その後も精力的に創作活動を続け、2004年の初個展以来毎年個展を開催している。

●今日のお勧め作品は、野口琢郎です。
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野口琢郎
「Quiet hope」
2014年
箔画(木パネル、漆、金・銀箔、石炭、樹脂、透明アクリル絵具)
42.5x91.0cm
サインあり

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◆野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。