マイダイアリー:野田先生夫妻との思い出に残る二日間

アートフル勝山の会 荒井由泰


福井市のE&Cギャラリーでの「野田哲也展」がスタートした。初日である6月18日にギャラリートークとレセプションを企画し、当日、野田先生ご夫妻を福井駅に迎え、ギャラリーへお連れした。今回は北陸新幹線を利用して金沢経由で福井に入っていただいたが、北陸新幹線の東京駅の場所や金沢での乗り換え等、不安をお持ちだったようだ。とにかく、無事、予定通りの福井着で、主催者の一人としては一安心だった。
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今回の「野田哲也展」は私のコレクションから25点、そして柏わたくし美術館から代表作および新作を7点お借りして、総数32点の展覧会となった。1969年作から近作までということで回顧展的な展示となった。

私と野田作品の出会いは1970年代にさかのぼる。商社マンとして1972年から77年まで、ニューヨークで生活するチャンスがあったが、そのときはじめた版画コレクションのなかに野田作品が含まれる。当時からニューヨークでも野田作品が見られた。当時、私はどちらかというと銅版画に魅力を感じていたが、野田作品には不思議と惹かれるものがあった。理由は分からなかったが、今となれば写真・シルクスクリーン・木版という技法的な組み合わせと日記という物語性の得も言われぬ融合が私を刺激したのかもしれない。当時ニューヨークにあったAAAギャラリーやスズキギャラリーで何点か購入した。また、1984年と2001年の2回にわたり、アートフル勝山の主催で「野田哲也版画展」を開催し、野田先生との出会いを楽しませてもらった。その時に購入した作品も会場に並んだ。

ギャラリートークは15時にスタートした。湊先生(E&Cギャラリー)が司会役そして私と湊先生が質問をする形式ですすめた。野田先生オリジナルの版画技法について話していただきたかったこともあり、パソコンを持参いただき、プロジェクターで説明をいただいた。どれくらいの来場者があるのか不安であったが、会場がいっぱいになり、立ち見が出る状態で、胸をなでおろした。特に若い方がたくさん来ていただいたのは嬉しかった。

IMG_5436スピーチする野田哲也先生

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日記シリーズの由来や版画技法については詳しく話をしていただいた。日記シリーズの原点は子供時代の「絵日記」だったようだ。会場からの質問に対し、現在のスマホで皆さんが情報発信をするのと同じく、自己表現として「日記シリーズ」があるとの発言もされた。
また、「間(ま)」の大切さなども話をされた。まさに日本の伝統美に通ずる「間」の表現により、野田作品を引き立たせていることも理解できた。また、若い学生に対し、福井にはすばらしい越前和紙があることから、環境にも優しい水性の版画インクと木版画の技法を使って、もっと作品制作にチャレンジしてほしいと話されたことが印象的であった。みなさん、トークに満足頂いたようだった。主催者の一人としてほっと胸をなでおろした。

トーク後、簡単なレセプションを行ったが、たくさん残っていただき、先生と熱心に話をされていた。野田作品の魅力を届けるよい機会となったのではと思っている。

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野田夫妻と荒井さん(中央)

当日、先生といろいろ話をしていて、野田作品では自分で撮った写真を謄写版処理して、シルクスクリーン技法で表現し、木版画と組み合わせているが、摺りを含め、すべての工程を先生自らが行っていることもあり、たいへんな作業(労働)の末に、作品が出来上がっていることを、改めて認識した。そのうえ、先生は完璧主義なところもあって、ご苦労も多いことも知った。手間と作品の芸術性とは関係がないかもしれないが、実際の手作り感が作品の魅力として表出しているように感じる。そこに惹かれるのだろう。先生はどこにでもある技法を組み合わせただけ、謙虚におっしゃるが、ある人に言わせると「ノーベル賞ものの発見」であり、私流に言うと「野田マジック」である。まさに偉大な発見であり、日記シリーズが少しずつ変化をしながら、美しさを失うことなく継続していることに敬意を表したい。また、展示作品について日付にともなう物語や思いを直接お聞きしたが、作品の思いや魅力が増幅して心に伝わってくる。あまり説明的になることは「よし」としないものの、そんな思いがつまっているから、作品に力があるのだろう。作品それぞれの物語を知ることは、実のところ楽しい。「知るもよし、知らぬもよし」の世界だ。

夕食はE&Cギャラリーの宮崎先生や湊先生らと日本海の海の幸と福井の地酒を楽しんでいただいた。私と家内もご一緒させていただき、楽しい時間を過すことができた。

翌日は私が案内役で野田夫妻を一乗谷朝倉氏遺跡と永平寺を訪れた。小雨模様のなかであったが、美しい新緑とおいしい空気を楽しんでいただけたようだ。アップダウンのある場所が多かった行程であったが、お二人とも健脚で軽やかに歩かれるのに驚いた。お昼は一乗谷にある利休庵で「越前おろしそば」を味わっていただいたが、140年前に建てられた旧家の空間のなか、ゆったりとした時間を楽しませてもらった。私にとっては野田先生とドリット夫人との芸術の漂う、楽しく、思い出に残る2日間となった。
あらい よしやす

20160618野田哲也展20160618野田哲也展 裏
「野田哲也展~日記シリーズ:切り取られた日常が綴る美しき絵物語」
会期:2016年6月18日[土]~7月18日[月・祝日]
会場:E&Cギャラリー
   〒918-8231 福井県福井市問屋町3-111 永和システムマネジメント1F
   TEL. 0776-27-0207
時間:12:00~19:00(金曜は21:00まで) *火・水休廊
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NC_cover_600福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み―中上光雄・陽子コレクションによる―』図録
2015年 96ページ 25.7x18.3cm
発行:中上邸イソザキホール運営委員会(荒井由泰、中上光雄、中上哲雄、森下啓子)
出品作家:北川民次、難波田龍起、瑛九、岡本太郎、オノサト・トシノブ、泉茂、元永定正、 木村利三郎、丹阿弥丹波子、吉原英雄、靉嘔、磯崎新、池田満寿夫、野田哲也、関根伸夫、小野隆生、舟越桂、北川健次、土屋公雄(19作家150点)
執筆:西村直樹(福井県立美術館学芸員)、荒井由泰(アートフル勝山の会代表)、野田哲也(画家)、丹阿弥丹波子(画家)、北川健次(美術家・美術評論)、綿貫不二夫(ときの忘れもの)
編集:ときの忘れもの
価格:1,200円 ※送料250円
ときの忘れもので扱っています。メールにてお申し込みください。

先日ご案内したとおり、福井で野田哲也先生の個展が開催されています。
展覧会に関わった「アートフル勝山の会」の荒井由泰さんから初日オープニングのレポートが送られてきました。会期は18日までなので、お近くの方、ぜひお運びください。
野田作品のコレクター荒井さんの「マイコレクション物語」もあわせてお読みください(全11回の目次はコチラ)。

●野田哲也の50年間にわたる全作品を収録したカタログレゾネ(特装版)が刊行されました。
野田哲也_レゾネ_表紙『野田哲也全作品 Tetsuya Noda The Works 1964-2015』
2016年4月4日発行
著者 野田哲也
発行 阿部出版株式会社
29.7×22.2cm(A4判)
263ページ
特装版:75,000円(+税)
※特装版には下記のオリジナル版画が一点挿入されています。

日記 2014年1月22日野田哲也
「Diary; Jan. 22nd '14」

2014年
木版・シルクスクリーン
イメージサイズ:20.9×17.0cm
シートサイズ:26.5×20.5cm
Ed.100  Signed

ときの忘れもので扱っています。
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●今日のお勧め作品は、野田哲也です。
20160708_noda_18野田哲也
「Diary; June 19th '92 (b)」
1992年
木版・シルクスクリーン
イメージサイズ:36.1×50.8cm
シートサイズ:45.2×60.5cm
Ed.45  サインと拇印あり

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