野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」 第24回
「ART OSAKA 2016に出展しました」
先日、大阪でのホテル型アートフェア、ART OSAKAに、Nii Fine Artsさんの部屋で展示させて頂きました。
出展作品は新作3点、コラボレーション1点、在庫手直し2点、在庫1点の合計7点でした。
昨年末に制作していた大作「Landscape#35-洛中洛外図-」が大画面に金箔を多く使った作品だったので、今年に入ってからどうも銀色の作品を作りたがる傾向があり、今回の新作もすべてプラチナ・銀ベースの作品ばかりです。
ART OSAKA展示風景
左「I wish」/右「Tulip」
まず、今年に入って始めた「Remembrance」シリーズを2点制作しました。
「Remembrance#C」の方は当初12号F(60.7×50cm)のパネルだったのですが、構想段階では空、海、砂浜の三層だったのが、箔を押し始めるとしっくりいかず、砂浜部分だけ箔を押しては剥がしを3回繰り返し、、こりゃダメかなと思ったのですが、ふと思いついてノコギリで下の10cm程をぶった切ったらイイ感じにまとまりました。
ぴったり正方形ではないのですが、写真で言うと35mmで撮った写真を良いとこだけ6×6で撮ったかのようにトリミングした感じでしょうか。
誰でも描けるシンプルなただの空と海の絵ですが、最近このシンプルさが好きです。
また、普段の箔画制作は机の上や畳の上でパネルを寝かせて作業するので、「描く」というよりは箔を押して「作る」という気分ですが、この「Remembrance」の引っ掻く工程はパネルをイーゼルに立て作業するので、デッサンでもしているような、描いているという感覚が新鮮です。
「Remembrance#B」
「Remembrance#C」
ちなみに、普段あまり作品価格の事などは書きませんが、このRemembranceシリーズはあまり細かく手間をかけた作業はせず、箔を押してから針で引っ掻き、石炭の粉末を撒いたシンプルな作品なので、油絵の作家さんがドローイングを別物として価格設定するように、このシリーズはドローイングのような扱いで、通常の作品の6×で価格設定しています。
次に3年ぶりに制作した「kotodama」(F4号)、このkotodamaは定期的に作りたくなるので、この作品で5点目になります。
今回は銀・プラチナバージョン、少し金も入れて良い作品になりました。
ご存知の方もおられると思いますが、作品のテーマはタイトルの通り言霊で、言葉には魂が宿るといいますが、以前、前向きな言葉を発するというのは大事な事だと感じた時に構想し、たくさん蓄積する言霊の中に蕾ができて、花が咲く(夢が叶う)というイメージを形にした作品です。
「kotodama」
そして今回Nii Fine Artsさんのオーナーからの提案で、ART OSAKAに向けて同じNii Fine Artsさんの取り扱い作家の稲田早紀さんとコラボレーション作品を制作してみる事になり、作家として他の作家さんとのコラボレーションは初めての経験だったので悩みましたが、チャレンジしてみました。
稲田さんは花をモチーフにした絵を主に描かれるので、まず打ち合わせで何の花にするかを考え、ここは特に迷い無く、稲田さんの作品の代表的なモチーフであるシロツメクサに決まり、サイズを6号に決めました。
そして美しい線で描かれたF6号サイズの下描きをもらって私の出番、花なら過去に数点制作した事もあるので意外に悩まずできるかなと思っていたのですが、まず想像以上の花びらの多さにゾッとし、他人の描いた下描きが自分の仕事部屋にある事自体が不自然で、どう箔で表現するか全然まとまらず、、数日は下描きを眺めながら仕事部屋に馴染ませる事から始めました。
ただ、ART OSAKAまでのタイムリミットがあったので、逆算するとギリギリの所まで来て、一度諦めかけて「今回はダメかもしれない」と稲田さんにメールをしたのですが、、ギリギリでイメージがまとまり、3日間かけて箔押しをしました。
まず背景と茎から押し、次に一輪ずつ、花びら一枚一枚に筆で漆を塗っては箔押しをする繰り返しで、花びらの境界をどうするか悩みましたが、プラチナ、銀で光らす部分と、砂子や銀泥のマットな部分とで質感を変えて変化を付け、稲田さんから花びらが硬い感じになり過ぎないようにして欲しいと言われていたので、あえて箔をシワシワにして押したりと工夫して、何とか全体的に良い雰囲気にまとめる事ができました。
そして漆の硬化後に稲田さんに作品を渡し、アクリル絵具で薄く影の部分に着色をしてもらって立体感を出し、無事完成しました。
左)稲田さん下描き
右)パネルに転写中
一日目、背景と茎のみ箔押し
二日目、左の花を箔押し
三日目、箔押し完了
稲田さんによる着色後完成「しろつめのこ」
左)稲田早紀さんの作品
中央)合作「しろつめのこ」
右)「kotodama」
コラボレーションというのは、双方の良さを生かしつつ高め合えた合作だからこその新たなものが生まれる良さがあるのだと思っていますが、世の中の様々な分野のコラボレーションで生まれたものを見ていると、とりあえず話題性でやってみた的なものや、中途半端なもの、下手すると互いの良ささえ潰し合っているようなものもあって、あまり素晴らしい成功例を見た事が少なかったので、今まであまり興味が持てずにいました。
ただ一昨年、友人の画家がコラボレーションして制作していた作品がとても素晴らしかったので、上手くいけば良いものが生まれるのだなと感じ、いつかやってみようかと思っていました。
今回、稲田さんにとっても初めてのコラボレーションで、最後の着色の時は、自分のせいで作品をダメにしたら…と思うと、もの凄く恐ろしくなったそうですが、勇気をもって良い仕上げをしてもらえて良かったです。
この作品「しろつめのこ」はそこまで真新しい作品ではないかもしれませんが、自分一人ではできなかった良い作品になったと思うので、今後また機会があれば他の作家さんともコラボレーションをしてみたいと思います。
それと、今回のブログとは関係ありませんが、下記URLより、7月2日に父が日帰りで東京へ行き、ゴールドフェスタ2016にて講演させて頂いた様子の動画をご覧頂けます。
西陣の仕事やクリムトの事について、面白く解りやすく話しておりますので、ぜひご視聴くださいませ。
↓↓↓↓↓
http://goldnews.jp/news/seminar/entry-4520.html
(のぐち たくろう)
■野口琢郎 Takuro NOGUCHI(1975-)
1975年京都府生まれ。1997年京都造形芸術大学洋画科卒業。2000年長崎市にて写真家・東松照明の助手に就く。2001年京都西陣の生家に戻り、家業である箔屋野口の五代目を継ぐため修行に入る。その後も精力的に創作活動を続け、2004年の初個展以来毎年個展を開催している。
●今日のお勧め作品は、野口琢郎です。

野口琢郎
「Landscape#30」
2013年
箔画(木パネル、漆、金・銀・プラチナ箔、石炭、樹脂、アクリル絵具)
91.0×182.0cm
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
「ART OSAKA 2016に出展しました」
先日、大阪でのホテル型アートフェア、ART OSAKAに、Nii Fine Artsさんの部屋で展示させて頂きました。
出展作品は新作3点、コラボレーション1点、在庫手直し2点、在庫1点の合計7点でした。
昨年末に制作していた大作「Landscape#35-洛中洛外図-」が大画面に金箔を多く使った作品だったので、今年に入ってからどうも銀色の作品を作りたがる傾向があり、今回の新作もすべてプラチナ・銀ベースの作品ばかりです。
ART OSAKA展示風景
左「I wish」/右「Tulip」まず、今年に入って始めた「Remembrance」シリーズを2点制作しました。
「Remembrance#C」の方は当初12号F(60.7×50cm)のパネルだったのですが、構想段階では空、海、砂浜の三層だったのが、箔を押し始めるとしっくりいかず、砂浜部分だけ箔を押しては剥がしを3回繰り返し、、こりゃダメかなと思ったのですが、ふと思いついてノコギリで下の10cm程をぶった切ったらイイ感じにまとまりました。
ぴったり正方形ではないのですが、写真で言うと35mmで撮った写真を良いとこだけ6×6で撮ったかのようにトリミングした感じでしょうか。
誰でも描けるシンプルなただの空と海の絵ですが、最近このシンプルさが好きです。
また、普段の箔画制作は机の上や畳の上でパネルを寝かせて作業するので、「描く」というよりは箔を押して「作る」という気分ですが、この「Remembrance」の引っ掻く工程はパネルをイーゼルに立て作業するので、デッサンでもしているような、描いているという感覚が新鮮です。
「Remembrance#B」
「Remembrance#C」ちなみに、普段あまり作品価格の事などは書きませんが、このRemembranceシリーズはあまり細かく手間をかけた作業はせず、箔を押してから針で引っ掻き、石炭の粉末を撒いたシンプルな作品なので、油絵の作家さんがドローイングを別物として価格設定するように、このシリーズはドローイングのような扱いで、通常の作品の6×で価格設定しています。
次に3年ぶりに制作した「kotodama」(F4号)、このkotodamaは定期的に作りたくなるので、この作品で5点目になります。
今回は銀・プラチナバージョン、少し金も入れて良い作品になりました。
ご存知の方もおられると思いますが、作品のテーマはタイトルの通り言霊で、言葉には魂が宿るといいますが、以前、前向きな言葉を発するというのは大事な事だと感じた時に構想し、たくさん蓄積する言霊の中に蕾ができて、花が咲く(夢が叶う)というイメージを形にした作品です。
「kotodama」そして今回Nii Fine Artsさんのオーナーからの提案で、ART OSAKAに向けて同じNii Fine Artsさんの取り扱い作家の稲田早紀さんとコラボレーション作品を制作してみる事になり、作家として他の作家さんとのコラボレーションは初めての経験だったので悩みましたが、チャレンジしてみました。
稲田さんは花をモチーフにした絵を主に描かれるので、まず打ち合わせで何の花にするかを考え、ここは特に迷い無く、稲田さんの作品の代表的なモチーフであるシロツメクサに決まり、サイズを6号に決めました。
そして美しい線で描かれたF6号サイズの下描きをもらって私の出番、花なら過去に数点制作した事もあるので意外に悩まずできるかなと思っていたのですが、まず想像以上の花びらの多さにゾッとし、他人の描いた下描きが自分の仕事部屋にある事自体が不自然で、どう箔で表現するか全然まとまらず、、数日は下描きを眺めながら仕事部屋に馴染ませる事から始めました。
ただ、ART OSAKAまでのタイムリミットがあったので、逆算するとギリギリの所まで来て、一度諦めかけて「今回はダメかもしれない」と稲田さんにメールをしたのですが、、ギリギリでイメージがまとまり、3日間かけて箔押しをしました。
まず背景と茎から押し、次に一輪ずつ、花びら一枚一枚に筆で漆を塗っては箔押しをする繰り返しで、花びらの境界をどうするか悩みましたが、プラチナ、銀で光らす部分と、砂子や銀泥のマットな部分とで質感を変えて変化を付け、稲田さんから花びらが硬い感じになり過ぎないようにして欲しいと言われていたので、あえて箔をシワシワにして押したりと工夫して、何とか全体的に良い雰囲気にまとめる事ができました。
そして漆の硬化後に稲田さんに作品を渡し、アクリル絵具で薄く影の部分に着色をしてもらって立体感を出し、無事完成しました。
左)稲田さん下描き右)パネルに転写中
一日目、背景と茎のみ箔押し
二日目、左の花を箔押し
三日目、箔押し完了
稲田さんによる着色後完成「しろつめのこ」
左)稲田早紀さんの作品中央)合作「しろつめのこ」
右)「kotodama」
コラボレーションというのは、双方の良さを生かしつつ高め合えた合作だからこその新たなものが生まれる良さがあるのだと思っていますが、世の中の様々な分野のコラボレーションで生まれたものを見ていると、とりあえず話題性でやってみた的なものや、中途半端なもの、下手すると互いの良ささえ潰し合っているようなものもあって、あまり素晴らしい成功例を見た事が少なかったので、今まであまり興味が持てずにいました。
ただ一昨年、友人の画家がコラボレーションして制作していた作品がとても素晴らしかったので、上手くいけば良いものが生まれるのだなと感じ、いつかやってみようかと思っていました。
今回、稲田さんにとっても初めてのコラボレーションで、最後の着色の時は、自分のせいで作品をダメにしたら…と思うと、もの凄く恐ろしくなったそうですが、勇気をもって良い仕上げをしてもらえて良かったです。
この作品「しろつめのこ」はそこまで真新しい作品ではないかもしれませんが、自分一人ではできなかった良い作品になったと思うので、今後また機会があれば他の作家さんともコラボレーションをしてみたいと思います。
それと、今回のブログとは関係ありませんが、下記URLより、7月2日に父が日帰りで東京へ行き、ゴールドフェスタ2016にて講演させて頂いた様子の動画をご覧頂けます。
西陣の仕事やクリムトの事について、面白く解りやすく話しておりますので、ぜひご視聴くださいませ。
↓↓↓↓↓
http://goldnews.jp/news/seminar/entry-4520.html
(のぐち たくろう)
■野口琢郎 Takuro NOGUCHI(1975-)
1975年京都府生まれ。1997年京都造形芸術大学洋画科卒業。2000年長崎市にて写真家・東松照明の助手に就く。2001年京都西陣の生家に戻り、家業である箔屋野口の五代目を継ぐため修行に入る。その後も精力的に創作活動を続け、2004年の初個展以来毎年個展を開催している。
●今日のお勧め作品は、野口琢郎です。

野口琢郎
「Landscape#30」
2013年
箔画(木パネル、漆、金・銀・プラチナ箔、石炭、樹脂、アクリル絵具)
91.0×182.0cm
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
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