主力スタッフがジャカルタ出張の中、留守を預かる新人スタッフ松下の奮闘で、6日から菅井汲展が静かに始まりました。
今回、倉庫を整理して用意した菅井作品は38点です。作品画像とデータは8月4日のブログに掲載しましたが、それは亭主が手がけた(エディションした)約半数にあたります。長い間、倉庫に積まれ眠っていた作品群です。だから、いらした方が驚くほどに「コンディションは完璧」であります(ぶっちゃけた話、売れないからそのまま冷凍保存されていました)。

バブル崩壊後、日本の美術市場は悲惨なことになりました。日本画や版画は売る人ばかりで買う人がいなくなってしまった。
ときの忘れものは業者の交換会などには全く入っていないので正確なところはわかりませんが、某氏によれば「ワタヌキさん、ボクは会には2万円しか持っていかないんだ。2万円あると車いっぱいの版画が買える」というような一時は暴落状態でした。

援軍は以外なところからやってきました。
具体」や「もの派」が先ず海外で再評価の機運が盛り上がり、吉原治良白髪一雄リー・ウーハンなどのタブローは世界中から引っ張りだこになりました。どんどん名作は海外に流出しています。
それにつられて(というのが少々情けないのですが)、国内でもにわかに「具体」「もの派」はじめ戦後1960~70年代の現代美術が注目を浴びます。
グッゲンハイムの具体展の前には、一枚数千円からせいぜい2万円で買えた白髪一雄の版画があれよあれよという間に数十万円に高騰します。とはいえ、具体の多くの作家は、(当時は売れませんでしたから、金のかかる)版画をほとんどつくっていません。
ただ一人、膨大な数の版画をつくっていたのが、元永定正先生でした。
おかげさまで、棚からぼたもちでときの忘れものの「元永定正展」は大ヒットしました。

制作されてから何十年、長い眠りから覚めた版画がいまようやく新たな購買層に受け入れられ、静かに浸透し始めています。
亭主が40年前から手がけ、数十点単位でエディションした作家は菅井汲、元永定正ばかりではなく、関根伸夫、島州一、草間彌生靉嘔オノサト・トシノブ磯崎新宮脇愛子たちですが、それら世界ではとうに高い評価を獲得していた作家の版画が、新しい市場(日本の若い世代、そして海外のアートフェア)で着実に売上げを延ばしています。
始まったばかりの菅井汲展ですが、珍しく初日から赤丸がつきました。嬉しいです。

ときを同じくして群馬県桐生の大川美術館でオノサト・トシノブの特集展示が行なわれていることは先日の小此木先生のエッセイでもご紹介しました。
亭主が「不運なオノサト、強運の瑛九」と嘆いたのはちょうど一年前ですが、どうやら風向きが少し変わってきたらしい。

「丸ひとすじ」と思われているオノサト先生ですが、もちろん具象の時代もあり、「丸」と言ってもその生涯で幾度かスタイルを変えています。その変遷については、<大川美術館「生誕100年 オノサト・トシノブ」展を見て2>に、オノサト・コレクターの故藤岡時彦さんによる時代区分を引用していますので、お読みください。

第1期 戦前の模索時代(1931~1942年)
第2期 戦後の模索時代(1949~1954年)
第3期 ベタ丸の時代(1955~1959年)
第4期 丸の分割の時代(1960~1968年)
第5期 多様化の時代(1969~1980年)
第6期 総合の時代(1981~1986年)

オノサト油彩の市場評価が高騰していると書きましたが、少し前までは1955年~59年までの僅か5年の間に制作された「べた丸」のみが高額で、それ以降の作品には値がつかなかったというのが正直なところでした。
ところが、「べた丸」がどんなに小品(油彩、水彩)でも数百万円以上するようになったせいか、また東京都現代美術館の福原コレクション(オノサト)の影響か、1960年代の「丸の分割」または私たちが曼荼羅風といっている時代の作品もどんどん高くなってきました。
昨年のシンワオークションで、曼荼羅風のぼろぼろになった傷だらけの油彩が1,000万円を超えて落札されたのには驚きました。あれで一気にオノサト後期の作品にも注目が集まりだしたようです。
タブローが高騰し、なかなか普通の人たちには手が届かなくなると、必然的に版画作品の需要が高まります。

オノサト先生は、初めて版画を手がけた1958年のリトグラフから、没後の夫人によるエディションまで220点の版画作品を残しました。
220点もあると思うか、220点しかないと思うか。

ピカソでも、ウォーホルでも、高騰した市場の要請に幅広く応えられるのは版画しかありません。
シャガールは3000点以上の版画を残しました。
ウォーホルはありすぎて正確なところは不明。
菅井汲は405点。

版画家でいうと、
日本の長谷川潔は、初期の木版やクリスマスカードを含めても634点。
駒井哲郎はモノタイプを加えてもまあ600点前後でしょう。

今後の世界の市場でオノサト人気が高まれば高まるほど「版画の需要」が増えます。それに応じられるのは僅か200種類前後です。

オノサトの初期のリトグラフ(1958~1966)は18種類しかありません。うち「べた丸」版画は3点のみ、これが一番市場価格も高く、入手はなかなか難しい。
次に1966年からいわゆる「四人組(尾崎正教、高森俊、大野元明、岡部徳三)」が版元となってシルクスクリーンの制作が始まります。刷りは名プリンター岡部徳三さんでした。
後年には岡部さん以外の刷り師が刷ったものもありますが、大半は岡部刷りです。

今後オノサト版画がどういう市場(コレクター)の評価を受けて行くでしょうか。特に若い世代の人たちがオノサトの世界をどう感じるかによって、随分と違ってくるでしょう。
せめて亭主の生きているうちに、「ともに強運のオノサトと瑛九」になって欲しいと切望しています。
さて、亭主が倉庫でアトランダムに選んだオノサト版画21点、じっくりと見ていただき、ご注文をお待ちしています。

オノサト65-A
オノサト・トシノブ Toshinobu ONOSATO
"65-A"
1965年  リトグラフ
イメージサイズ:17.0×24.0cm
Ed.120  Signed
※レゾネ(アートスペース 1989年)No.15。レゾネにはEd.150とあるが誤記、正しくはEd.120。


オノサト65-B
オノサト・トシノブ Toshinobu ONOSATO
"65-B"
1965年  リトグラフ
30.0×40.0cm
Ed.120  Signed
サインあり
※レゾネNo.16


onosato "Silk-2"
1966年
シルクスクリーン
31.0×40.0cm
Ed.120 Signed
*レゾネNo.20


onosato "Silk-7"
1967年
シルクスクリーン
50.2×50.2cm
Ed.150 Signed
*レゾネNo.27


Onosato "Silk-32"
1970年
シルクスクリーン
40.0×40.0cm
Ed. 100 Signed
*レゾネNo.55


Onosato "Silk-40"
1971年
シルクスクリーン
32.0×41.0cm
Ed. 160 Signed
*レゾネNo.64


Onosato "Silk-48"
1971年
シルクスクリーン
50.0×50.0cm
Ed. 100 Signed
*レゾネNo.72


Onosato "Silk-52"
1972年
シルクスクリーン
27.2×40.5cm
Ed.150 Signed
*レゾネNo.76


Onosato "Silk-103"
1979年
シルクスクリーン
30.0×30.0cm
Ed. 150 Signed
*レゾネNo.165


Onosato "Silk-105"
1980年
シルクスクリーン
30.0×30.0cm
Ed. 150 Signed
*レゾネNo.173


Onosato "A.S.-2"
1981年
シルクスクリーン
20.0×20.0cm
Ed.88(レゾネにはEd.80と誤記)
Signed
*レゾネNo.177


Onosato "A.S.-3"
1981年
シルクスクリーン
20.0×20.0cm
Ed.88 Signed
*レゾネNo.178


Onosato "A.S.-4"
1981年
シルクスクリーン
20.0×20.0cm
Ed.88 Signed
*レゾネNo.179


Onosato "A.S.-5"
1981年
シルクスクリーン
20.0×20.0cm
Ed.88 Signed
*レゾネNo.180


オノサト"F-2"
1981年
シルクスクリーン
50.0×50.0cm
Ed.80 Signed
*レゾネNo.185


Onosato "A.S.-9"
1982年
シルクスクリーン
30.0×30.0cm
Ed.150 Signed
*レゾネNo.187


Onosato "A.S.-12"
1982年
シルクスクリーン
20.0×20.0cm
Ed.150 Signed
*レゾネNo.190


Onosato "A.S.-13"
1982年
シルクスクリーン
20.0×20.0cm
Ed.150 Signed
*レゾネNo.191


Onosato "A.S.-17"
1984年
シルクスクリーン
60.5×72.5cm
Ed.100 Signed
*レゾネNo.200


Onosato "F-8"
1984年
シルクスクリーン
60.5×72.5cm
Ed.100 Signed
*レゾネNo.201


Onosato "A.S.-21"
1986年
リトグラフ
35.0×42.0cm
Ed.70 Signed
*レゾネNo.208

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◆「ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサート第3回 独奏チェロによるJ.S.バッハと20世紀の音楽」を9月17日(土)夕方4時(16時)より開催します。いつもより早い開演時間です。
プロデュース:大野幸、チェロ:富田牧子によるプログラムの詳細は8月18日にこのブログで発表します。
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