藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」第12回
誰の目にもその貢献が明らかなのに、いざそれを具体的に証明しようとすると難しい、そんな存在があります。建築家アルヴァ・アアルトの妻であったアイノ・アアルトは、そのような存在だったと言っていいかもしれません。そのアイノについての展覧会が、ギャラリーエークワッドで開かれています。
アイノはフィンランドで女性に教育を受ける権利が与えられるようになってほどなく1913年にヘルシンキ工科大学に入学し、建築を学びます。1920年に卒業した後、いくつかの建築事務所勤務を経て1924年にアルヴァの事務所で働き始め、その半年後にはアルヴァと結婚します。それから1949年に亡くなるまでの25年間、アルヴァの公私にわたるパートナーとして、主に家具やインテリアの仕事で活躍しました。アルヴァはアイノの没後も1976年に亡くなるまで多くの素晴らしい仕事を完成させましたから、アイノの名前があまり語られなくなったのも仕方ないことだったのかもしれません。しかし、近年になってアイノについての研究が進んできたようです。
二人の名前が記されたプロジェクトは数多くありますが、どこまでがアイノのデザインでどこからがアルヴァのものか、その功績を腑分けして解明しようと思っても、アイノの研究者が既に述べているように、それを完全に明らかにすることは不可能でしょう。そして、それはあまり意味のあることとも思えません。アイノが亡くなるまで作品には二人がサインし、展覧会は二人の名前で発表されていたように、まさにそれは二人の構想の結実であったと考えてよいでしょう。二人の関係は、アイノあってのアルヴァ、アルヴァあってのアイノだったと言えます。交友関係においても、二人がそれぞれに友人たちからの刺激を仕事に反映させた様子がうかがえます。1930年代初頭に二人は、バウハウスで教鞭をとっていた芸術家のモホリ・ナギと懇意になっています。ナギと知り合った後にアイノが撮った写真作品からは、明らかにナギの手法に倣おうとしていたことが見てとれます。この時期は、モダニズムを標榜してアアルト夫妻がグリクセン夫妻らとインテリア・デザインの会社アルテックを立ち上げる直前です。ちょうどアルヴァがCIAM(近代建築国際会議)に参加し始めた頃で、二人が多岐にわたる芸術分野からモダニズムの薫陶を受けたことが想像されます。アルヴァとアイノは、問題意識と関心を共有し続けたからこそ、共同で作品をつくっていけたのでしょう。
リーヒティのアアルト邸ダイニング・キッチン、2014年、筆者撮影
アイノがデザインした正面の戸棚は、手前のダイニングと奥にあるキッチンの両側から開けることができます。
エークワッドの展示には、アイノが関わった作品が一通り紹介されていますが、その足跡を詳しく知るためには、展覧会に合わせて翻訳・刊行された『アイノ・アールト』(TOTO出版)に目を通すことをお勧めします。
また、アイノの仕事をより理解するには、アイノがデザインにおいて力量を発揮したアルテックの軌跡を辿る必要がありそうです。現在、アルテックとアアルト夫妻に焦点をあてた展覧会 Artek and the Aaltos: Creating a Modern World がニューヨークの Bard Graduate Center Gallery で開かれています。この展示には、アイノの学生の頃のスケッチブックや、近年発見されたアルテック設立直前の旅日記を含む、これまで展示されたことのない作品が多く出展されているとのことです。ニューヨーク旅行の際には是非お立ち寄りを。
AINO AALTO Architect and Designer 展(2016.8.12-10.31、GALLERY A4)開催中↓
http://www.a-quad.jp/exhibition/exhibition.html
『アイノ・アールト』(TOTO出版)
http://www.toto.co.jp/publishing/detail/A0359.htm
Artek and the Aaltos: Creating a Modern World 展(2016.4.22-9.25、Bard Graduate Center Gallery)こちらも開催中↓
http://www.bgc.bard.edu/gallery/gallery-at-bgc/artek-and-aaltos.html
(ふじもと たかこ)
■藤本貴子 Takako FUJIMOTO
磯崎新アトリエ勤務のち、文化庁新進芸術家海外研修員として建築アーカイブの研修・調査を行う。2014年10月より国立近現代建築資料館研究補佐員。
●今日のお勧め作品は、磯崎新です。
磯崎新
「FOLLY-SOAN 2」
1984年
木版
イメージサイズ:30.0×37.2cm
シートサイズ:57.0×76.0cm
Ed.50
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は毎月22日の更新です。
●ときの忘れものは、ただいま夏季休廊中です(2016年8月21日[日]~8月29日[月])。
休み中のお問合せ等への返信は直ぐにはできませんので、ご了承ください。
誰の目にもその貢献が明らかなのに、いざそれを具体的に証明しようとすると難しい、そんな存在があります。建築家アルヴァ・アアルトの妻であったアイノ・アアルトは、そのような存在だったと言っていいかもしれません。そのアイノについての展覧会が、ギャラリーエークワッドで開かれています。
アイノはフィンランドで女性に教育を受ける権利が与えられるようになってほどなく1913年にヘルシンキ工科大学に入学し、建築を学びます。1920年に卒業した後、いくつかの建築事務所勤務を経て1924年にアルヴァの事務所で働き始め、その半年後にはアルヴァと結婚します。それから1949年に亡くなるまでの25年間、アルヴァの公私にわたるパートナーとして、主に家具やインテリアの仕事で活躍しました。アルヴァはアイノの没後も1976年に亡くなるまで多くの素晴らしい仕事を完成させましたから、アイノの名前があまり語られなくなったのも仕方ないことだったのかもしれません。しかし、近年になってアイノについての研究が進んできたようです。
二人の名前が記されたプロジェクトは数多くありますが、どこまでがアイノのデザインでどこからがアルヴァのものか、その功績を腑分けして解明しようと思っても、アイノの研究者が既に述べているように、それを完全に明らかにすることは不可能でしょう。そして、それはあまり意味のあることとも思えません。アイノが亡くなるまで作品には二人がサインし、展覧会は二人の名前で発表されていたように、まさにそれは二人の構想の結実であったと考えてよいでしょう。二人の関係は、アイノあってのアルヴァ、アルヴァあってのアイノだったと言えます。交友関係においても、二人がそれぞれに友人たちからの刺激を仕事に反映させた様子がうかがえます。1930年代初頭に二人は、バウハウスで教鞭をとっていた芸術家のモホリ・ナギと懇意になっています。ナギと知り合った後にアイノが撮った写真作品からは、明らかにナギの手法に倣おうとしていたことが見てとれます。この時期は、モダニズムを標榜してアアルト夫妻がグリクセン夫妻らとインテリア・デザインの会社アルテックを立ち上げる直前です。ちょうどアルヴァがCIAM(近代建築国際会議)に参加し始めた頃で、二人が多岐にわたる芸術分野からモダニズムの薫陶を受けたことが想像されます。アルヴァとアイノは、問題意識と関心を共有し続けたからこそ、共同で作品をつくっていけたのでしょう。
リーヒティのアアルト邸ダイニング・キッチン、2014年、筆者撮影アイノがデザインした正面の戸棚は、手前のダイニングと奥にあるキッチンの両側から開けることができます。
エークワッドの展示には、アイノが関わった作品が一通り紹介されていますが、その足跡を詳しく知るためには、展覧会に合わせて翻訳・刊行された『アイノ・アールト』(TOTO出版)に目を通すことをお勧めします。
また、アイノの仕事をより理解するには、アイノがデザインにおいて力量を発揮したアルテックの軌跡を辿る必要がありそうです。現在、アルテックとアアルト夫妻に焦点をあてた展覧会 Artek and the Aaltos: Creating a Modern World がニューヨークの Bard Graduate Center Gallery で開かれています。この展示には、アイノの学生の頃のスケッチブックや、近年発見されたアルテック設立直前の旅日記を含む、これまで展示されたことのない作品が多く出展されているとのことです。ニューヨーク旅行の際には是非お立ち寄りを。
AINO AALTO Architect and Designer 展(2016.8.12-10.31、GALLERY A4)開催中↓
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『アイノ・アールト』(TOTO出版)
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(ふじもと たかこ)
■藤本貴子 Takako FUJIMOTO
磯崎新アトリエ勤務のち、文化庁新進芸術家海外研修員として建築アーカイブの研修・調査を行う。2014年10月より国立近現代建築資料館研究補佐員。
●今日のお勧め作品は、磯崎新です。
磯崎新「FOLLY-SOAN 2」
1984年
木版
イメージサイズ:30.0×37.2cm
シートサイズ:57.0×76.0cm
Ed.50
サインあり
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