藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」第15回
去る11/12(土)に、展覧会「建築と社会を結ぶ―大髙正人の方法」関連シンポジウム「広島基町高層アパートと大髙正人」が、広島市立基町小学校で行われました。
改めて基町アパートを訪れてみて、その迫力に圧倒されます。大髙正人はこの計画を「超建築」と名付けましたが、単なる建築の集合を超えて、都市スケールで計画されたプロジェクトだったことが身にしみて感じられます。
スケールは都市ですが、デザインの細部には強いこだわりがみられます。大髙のデザインには「角を落とす」という特徴があるのですが、アパートの階段室をみると、やはり。角の部分に細長く開口部を設けています。屋上の胸壁の角にも開口部が。小学校体育館屋根の角も切り取られたようなデザインがされています。厚ぼったい庇も特徴のひとつ。小学校のいくつもの小窓には、厚みのある庇がついています。そして、屋根。シンポジウム会場の基町小学校体育館も傾斜屋根がかけられていました。体育館としてはこぢんまりとしていますが、傾斜の分だけボリュームのある空間となっています。アパート屋上の集会場も方形屋根で、退屈になりがちな陸屋根に変化をつけています。
今回はシンポジウムに先立ち、予約制の見学会も行いました。屋上に上がり、大髙事務所で設計を担当された藤本昌也氏のお話を聞きます。多くの日本の陸屋根の上にはむきだしの設備が置かれていて美しくないことが大髙の不満であったそうです。1.4haもあるアパート屋上は活用が考えられ、集会所が設けられています。ル・コルビュジエが設計したマルセイユのユニテ・ダビタシオンには屋上プールがありますが、基町アパート設計時にはル・コルビュジェが考えたのと同じような公共空間の創出を計画していました。アパートは20階建から12階建までの棟がつながっています。屏風のように角度をつけながら各棟が配置されていることもあり、20階から12階まで屋上を降りながら辿っていくと、ル・コルビュジエが提唱した「プロムナード」のような、景色の変化が楽しめます。屋上から見渡す市内は圧巻で、安全管理の理由から一般には閉鎖されていることがもったいないような贅沢さです。


角に開口部のある階段室外観
2016.11.12 筆者撮影
このアパートの迫力は、スケールの大きさからというよりも、デザインや配置計画全体から、構築への意志がひしひしと伝わってくるからではないかと、この度思い直しました。どんな小さな部分にも手を抜かず、考え抜かれた建築は、明らかに他の高層住宅とは違っています。アパート建設に反対する住民が多くいる現場で、8.1haに3,000戸を収容するアパートをつくるという「重荷に私は押しつぶされそう」と大髙は書いています(『都市住宅』1973年7月号)。その重圧をはねのけるように設計された建築であるためか、並々ならぬ大高の使命感と意気込みが凝縮され、その威容―そして同時に異様さ―に現れているのではないでしょうか。地元のPC・鉄骨業者などと検討を重ねてコストを削減し、造形デザインにこだわりながら、高層公営住宅の先駆として都市生活環境の改善を目指す。まさに「PAU」の統合された、ひとつの到達点といえるでしょう。
基町アパートの敷地南に隣接する中央公園に、サッカースタジアムを建設しようという案が浮上してきているようです。今回のシンポジウムの中で、藤本昌也氏は、アパート周辺の減築も考えながら一帯を緑地とし、平和記念公園から続く公園にするべきだと提案されました。平和記念公園から原爆ドームを結んだ「平和の軸線」の先に、巨大なスタジアムが建設されることが本当によいことなのかどうか。平和記念公園整備の際にも色々な苦労があったでしょうが、今は平和を祈念するための中心地として大切な役割を担っています。今後の広島市民の決断を注視したいと思います。
文化庁国立近現代建築資料館で、「建築と社会を結ぶ―大髙正人の方法」展開催中(~2017.2.5)
http://nama.bunka.go.jp/kikak/kikak/1609/
次回イベントは大髙の出身地福島県三春町にて。資料館ではギャラリートークも順次行います!
http://nama.bunka.go.jp/kikak/kikak/1609/notice.html
展覧会のツイッター始めました↓
https://twitter.com/otakamasato2016/
(ふじもと たかこ)
■藤本貴子 Takako FUJIMOTO
磯崎新アトリエ勤務のち、文化庁新進芸術家海外研修員として建築アーカイブの研修・調査を行う。2014年10月より国立近現代建築資料館研究補佐員。
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藤本さんが担当した「PAU 建築と社会を結ぶ 大髙正人の方法」が2016年10月26日~2017年2月5日まで国立近現代建築資料館で開催中です。
●今日のお勧め作品は、ル・コルビュジエです。
ル・コルビュジエ
「雄牛#6」
1964年 リトグラフ
イメージサイズ:60.0×52.0cm
シートサイズ:71.7×54.0cm
Ed.150 サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は毎月22日の更新です。
去る11/12(土)に、展覧会「建築と社会を結ぶ―大髙正人の方法」関連シンポジウム「広島基町高層アパートと大髙正人」が、広島市立基町小学校で行われました。
改めて基町アパートを訪れてみて、その迫力に圧倒されます。大髙正人はこの計画を「超建築」と名付けましたが、単なる建築の集合を超えて、都市スケールで計画されたプロジェクトだったことが身にしみて感じられます。
スケールは都市ですが、デザインの細部には強いこだわりがみられます。大髙のデザインには「角を落とす」という特徴があるのですが、アパートの階段室をみると、やはり。角の部分に細長く開口部を設けています。屋上の胸壁の角にも開口部が。小学校体育館屋根の角も切り取られたようなデザインがされています。厚ぼったい庇も特徴のひとつ。小学校のいくつもの小窓には、厚みのある庇がついています。そして、屋根。シンポジウム会場の基町小学校体育館も傾斜屋根がかけられていました。体育館としてはこぢんまりとしていますが、傾斜の分だけボリュームのある空間となっています。アパート屋上の集会場も方形屋根で、退屈になりがちな陸屋根に変化をつけています。
今回はシンポジウムに先立ち、予約制の見学会も行いました。屋上に上がり、大髙事務所で設計を担当された藤本昌也氏のお話を聞きます。多くの日本の陸屋根の上にはむきだしの設備が置かれていて美しくないことが大髙の不満であったそうです。1.4haもあるアパート屋上は活用が考えられ、集会所が設けられています。ル・コルビュジエが設計したマルセイユのユニテ・ダビタシオンには屋上プールがありますが、基町アパート設計時にはル・コルビュジェが考えたのと同じような公共空間の創出を計画していました。アパートは20階建から12階建までの棟がつながっています。屏風のように角度をつけながら各棟が配置されていることもあり、20階から12階まで屋上を降りながら辿っていくと、ル・コルビュジエが提唱した「プロムナード」のような、景色の変化が楽しめます。屋上から見渡す市内は圧巻で、安全管理の理由から一般には閉鎖されていることがもったいないような贅沢さです。


角に開口部のある階段室外観
2016.11.12 筆者撮影
このアパートの迫力は、スケールの大きさからというよりも、デザインや配置計画全体から、構築への意志がひしひしと伝わってくるからではないかと、この度思い直しました。どんな小さな部分にも手を抜かず、考え抜かれた建築は、明らかに他の高層住宅とは違っています。アパート建設に反対する住民が多くいる現場で、8.1haに3,000戸を収容するアパートをつくるという「重荷に私は押しつぶされそう」と大髙は書いています(『都市住宅』1973年7月号)。その重圧をはねのけるように設計された建築であるためか、並々ならぬ大高の使命感と意気込みが凝縮され、その威容―そして同時に異様さ―に現れているのではないでしょうか。地元のPC・鉄骨業者などと検討を重ねてコストを削減し、造形デザインにこだわりながら、高層公営住宅の先駆として都市生活環境の改善を目指す。まさに「PAU」の統合された、ひとつの到達点といえるでしょう。
基町アパートの敷地南に隣接する中央公園に、サッカースタジアムを建設しようという案が浮上してきているようです。今回のシンポジウムの中で、藤本昌也氏は、アパート周辺の減築も考えながら一帯を緑地とし、平和記念公園から続く公園にするべきだと提案されました。平和記念公園から原爆ドームを結んだ「平和の軸線」の先に、巨大なスタジアムが建設されることが本当によいことなのかどうか。平和記念公園整備の際にも色々な苦労があったでしょうが、今は平和を祈念するための中心地として大切な役割を担っています。今後の広島市民の決断を注視したいと思います。
文化庁国立近現代建築資料館で、「建築と社会を結ぶ―大髙正人の方法」展開催中(~2017.2.5)
http://nama.bunka.go.jp/kikak/kikak/1609/
次回イベントは大髙の出身地福島県三春町にて。資料館ではギャラリートークも順次行います!
http://nama.bunka.go.jp/kikak/kikak/1609/notice.html
展覧会のツイッター始めました↓
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(ふじもと たかこ)
■藤本貴子 Takako FUJIMOTO
磯崎新アトリエ勤務のち、文化庁新進芸術家海外研修員として建築アーカイブの研修・調査を行う。2014年10月より国立近現代建築資料館研究補佐員。
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藤本さんが担当した「PAU 建築と社会を結ぶ 大髙正人の方法」が2016年10月26日~2017年2月5日まで国立近現代建築資料館で開催中です。
●今日のお勧め作品は、ル・コルビュジエです。
ル・コルビュジエ「雄牛#6」
1964年 リトグラフ
イメージサイズ:60.0×52.0cm
シートサイズ:71.7×54.0cm
Ed.150 サインあり
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◆藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は毎月22日の更新です。
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