読者の皆様こんにちは。光陰矢の如しとはよく言ったもので、2016年もあっと言う間に残り1週間を切った中、来年早々のシンガポール出張の出発日に、どうか今年の1月のように雪が降らないようにと切に願ってやまないスタッフSこと新澤です。
普段は現在開催中の海外アートイベントか、出展したフェアのレポートを掲載しているこの連載ですが、今回は、先月資生堂が3位を受賞した「CORPORATE ART AWARDS® 2016」について書かせていただきます。

そもそも「CORPORATE ART AWARDS® 2016」とはなんぞや? という方も多いと思われますが、これは芸術文化に積極的に関わる企業の活動を認め広く知らしめるために、今年初めて設けられた賞です。主催はイタリアに本拠を置き、クラウドソーシングで全世界2,000人のアーティストと彼らを必要とする企業・個人を仲介する「ppt Art」とこちらも2,000以上の国際・国内企業と繋がりのあるイタリア・ローマの名門大学、LUISSグイドカルリ大学の一部門である「LUISS BUSINESS SCHOOL」との共催で、イタリア文化財・文化活動・観光省も後援している、イタリア主体の賞となっています。
公式ウェブサイトでは「芸術文化活動はCSR(Corporate Social Responsibility:企業社会貢献)の究極の表現である。芸術文化活動に積極的に関わる企業は、道徳、環境、社会にも積極的に関わり、収益面でも成功しているケースが多い」と記載されており、個人では実現できない規模の芸術活動を推奨しています。
開催1回目の今年は22ヵ国から80の企業がエントリーし、各社が芸術文化活動に取り組むことになった経緯や、所蔵するコレクションには企業文化がどのように反映されているか、芸術文化活動をどのように経営に反映させているか、といった観点から選考が行われました。コカ・コーラやマスターカードという世界に名だたる企業が参加する中、「最も古くからギャラリーを運営し、幅広い芸術文化活動を行っている」という理由から資生堂が第3位に選出されました。
おめでとうございます!
以下は受賞企業とその選考理由です。
「CORPORATE ART AWARDS® 2016」上位入賞企業
【順位】第1位
【企業名】インテサ・サンパオロ銀行
【受賞理由】15世紀から現代までの美術作品を収集し、同行が所有するミラノ、ベネチア、ナポリにある宮殿で公開をしている。
【順位】第1位
【企業名】ドイツ銀行
【受賞理由】各リージョンのヘッドオフィスが主体的に、主に平面の作品・写真、絵画を収集。オフィス内で展示を行い、外部の美術館へ貸し出しをしている。
【順位】第2位
【企業名】アメリカン・エキスプレス
【受賞理由】イタリアの文化遺産の修復・発掘を支援している。
【順位】第3位
【企業名】資生堂
【受賞理由】最も古くからギャラリーを運営し、幅広い芸術文化活動を行っている。
(資生堂ギャラリーの歴史については<『資生堂ギャラリー七十五年史』の編纂を終えて>をお読みください。)
インテサ・サンパオロ銀行(Intesa Sanpaolo)はイタリア・トリノに本拠を置くユーロ圏有数の銀行グループでイタリア最大規模の金融機関の一つ。ミラノのGallerie di Piazza Scalaは8,300m2の敷地内にある4つの伝統建築内に、同行及び協賛者が所有する、19世紀~20世紀の美術品400点が無料で開放されています。
ドイツ銀行はその名に恥じないドイツ最大のメガバンクで、1870年の開行から二年後に、初の海外支店を横浜に開いた過去があります。最も、こちらは経営難で1875年に閉鎖されてしまっていますが。現在規模の大小はあれど900の支店で美術品の展示を行っており、フランクフルトのヘッドオフィスではビルの各階につき1名の作家作品を展示するという"Art in the Towers"を、60階に渡って展開しています。
1850年に荷馬車運送会社として開業し、現在ではいわずと知れたクレジットカード業界の巨人の一人であるアメリカン・エキスプレス、受賞理由は「イタリアの文化遺産の修復・発掘を支援している」とありますが、これは別にイタリアに限った話ではなく、援助している「ワールド・モニュメント・ウォッチ」プログラムは世界各地の文化資産の保護・振興に努めており、日本でも東日本大震災で損壊した宮城県雄勝の天雄寺本堂修復支援(2014年)や、名古屋城本丸御殿の障壁画の修復支援(2007年)を行っています。
かくも錚々たる面々の中に日本企業が肩を並べているというのも嬉しいですが、エコノミックアニマルだのワーカホリックだの揶揄されていた日本人が美術の本場にてその文化貢献を評価されたとなると、感動も一入です。海外に日本美術界を注目してもらうため、資生堂には是非今後も頑張っていただきたいです。
今年も一年、私の連載にお付き合いいただきありがとうございました。
いつまで続くのは分かりませんが、来年もお読みいただければ幸いです。
それでは皆様、良いお年を。
(しんざわ ゆう)
●本日の瑛九情報!
~~~
1988年(昭和63)の今日12月26日、瑛九の兄・杉田正臣さんが亡くなりました。享年89。
良き理解者として終生弟を支え、弟よりずっと長生きして「瑛九の会」発起人の一人としてその顕彰に尽力されました。私たちが初めて宮崎を訪ねた1975年頃はとてもお元気で、弟のことを語ってくれました。
正臣さんは、杉田直の長男として生まれ、父の眼科医院を継ぎ、父と同じく自由律の俳人でした。井蛙(せいあ)と号し、エスペラント語も学び、瑛九に大きな影響を与えました。
父とともに集めた俳諧関係の資料類は、1985年(昭和60)宮崎県立図書館に約1万2千点にのぼる杉田文庫として寄贈されました。

杉田正臣著
『父/暁天/瑛九抄』
2000年
鉱脈社刊行
父のこと、弟瑛九のことを深い愛情をもって書き残しています。

「現代美術の父 瑛九展」
会期:1979年6月8日~20日
会場=新宿・小田急グランドギャラリー、
主催=瑛九展開催委員会、後援=文化庁・瑛九の会

瑛九最晩年の点描の大作がずらり。このときはまだほとんどが個人蔵でした。

レセプション会場にて。左から杉田正臣さん(瑛九の兄)、郡司君さん(瑛九の姉)、杉田都さん(瑛九夫人)、靉嘔先生。

同展フライヤー
~~~
<瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展が東京国立近代美術館で始まりました(11月22日~2017年2月12日)。ときの忘れものは会期終了まで瑛九について毎日発信します。
●ときの忘れものは2016年12月28日(水)~2017年1月16日(月)まで冬季休廊です。
いつもより長い冬休みですが、お正月早々、ART STAGE SINGAPORE 2017に出展するためです。
また銀座のギャラリーせいほうで開催される「石山修武・六角鬼丈 二人展ー遠い記憶の形ー」(2017年1月10日~1月21日)に企画協力しています。
メールやネットでのお問合せ、ご注文には通常通り対応いたします(日・月・祝日を除く)。
◆スタッフSの「海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
普段は現在開催中の海外アートイベントか、出展したフェアのレポートを掲載しているこの連載ですが、今回は、先月資生堂が3位を受賞した「CORPORATE ART AWARDS® 2016」について書かせていただきます。

そもそも「CORPORATE ART AWARDS® 2016」とはなんぞや? という方も多いと思われますが、これは芸術文化に積極的に関わる企業の活動を認め広く知らしめるために、今年初めて設けられた賞です。主催はイタリアに本拠を置き、クラウドソーシングで全世界2,000人のアーティストと彼らを必要とする企業・個人を仲介する「ppt Art」とこちらも2,000以上の国際・国内企業と繋がりのあるイタリア・ローマの名門大学、LUISSグイドカルリ大学の一部門である「LUISS BUSINESS SCHOOL」との共催で、イタリア文化財・文化活動・観光省も後援している、イタリア主体の賞となっています。
公式ウェブサイトでは「芸術文化活動はCSR(Corporate Social Responsibility:企業社会貢献)の究極の表現である。芸術文化活動に積極的に関わる企業は、道徳、環境、社会にも積極的に関わり、収益面でも成功しているケースが多い」と記載されており、個人では実現できない規模の芸術活動を推奨しています。
開催1回目の今年は22ヵ国から80の企業がエントリーし、各社が芸術文化活動に取り組むことになった経緯や、所蔵するコレクションには企業文化がどのように反映されているか、芸術文化活動をどのように経営に反映させているか、といった観点から選考が行われました。コカ・コーラやマスターカードという世界に名だたる企業が参加する中、「最も古くからギャラリーを運営し、幅広い芸術文化活動を行っている」という理由から資生堂が第3位に選出されました。
おめでとうございます!
以下は受賞企業とその選考理由です。
「CORPORATE ART AWARDS® 2016」上位入賞企業
【順位】第1位
【企業名】インテサ・サンパオロ銀行
【受賞理由】15世紀から現代までの美術作品を収集し、同行が所有するミラノ、ベネチア、ナポリにある宮殿で公開をしている。
【順位】第1位
【企業名】ドイツ銀行
【受賞理由】各リージョンのヘッドオフィスが主体的に、主に平面の作品・写真、絵画を収集。オフィス内で展示を行い、外部の美術館へ貸し出しをしている。
【順位】第2位
【企業名】アメリカン・エキスプレス
【受賞理由】イタリアの文化遺産の修復・発掘を支援している。
【順位】第3位
【企業名】資生堂
【受賞理由】最も古くからギャラリーを運営し、幅広い芸術文化活動を行っている。
(資生堂ギャラリーの歴史については<『資生堂ギャラリー七十五年史』の編纂を終えて>をお読みください。)
インテサ・サンパオロ銀行(Intesa Sanpaolo)はイタリア・トリノに本拠を置くユーロ圏有数の銀行グループでイタリア最大規模の金融機関の一つ。ミラノのGallerie di Piazza Scalaは8,300m2の敷地内にある4つの伝統建築内に、同行及び協賛者が所有する、19世紀~20世紀の美術品400点が無料で開放されています。
ドイツ銀行はその名に恥じないドイツ最大のメガバンクで、1870年の開行から二年後に、初の海外支店を横浜に開いた過去があります。最も、こちらは経営難で1875年に閉鎖されてしまっていますが。現在規模の大小はあれど900の支店で美術品の展示を行っており、フランクフルトのヘッドオフィスではビルの各階につき1名の作家作品を展示するという"Art in the Towers"を、60階に渡って展開しています。
1850年に荷馬車運送会社として開業し、現在ではいわずと知れたクレジットカード業界の巨人の一人であるアメリカン・エキスプレス、受賞理由は「イタリアの文化遺産の修復・発掘を支援している」とありますが、これは別にイタリアに限った話ではなく、援助している「ワールド・モニュメント・ウォッチ」プログラムは世界各地の文化資産の保護・振興に努めており、日本でも東日本大震災で損壊した宮城県雄勝の天雄寺本堂修復支援(2014年)や、名古屋城本丸御殿の障壁画の修復支援(2007年)を行っています。
かくも錚々たる面々の中に日本企業が肩を並べているというのも嬉しいですが、エコノミックアニマルだのワーカホリックだの揶揄されていた日本人が美術の本場にてその文化貢献を評価されたとなると、感動も一入です。海外に日本美術界を注目してもらうため、資生堂には是非今後も頑張っていただきたいです。
今年も一年、私の連載にお付き合いいただきありがとうございました。
いつまで続くのは分かりませんが、来年もお読みいただければ幸いです。
それでは皆様、良いお年を。
(しんざわ ゆう)
●本日の瑛九情報!
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1988年(昭和63)の今日12月26日、瑛九の兄・杉田正臣さんが亡くなりました。享年89。
良き理解者として終生弟を支え、弟よりずっと長生きして「瑛九の会」発起人の一人としてその顕彰に尽力されました。私たちが初めて宮崎を訪ねた1975年頃はとてもお元気で、弟のことを語ってくれました。
正臣さんは、杉田直の長男として生まれ、父の眼科医院を継ぎ、父と同じく自由律の俳人でした。井蛙(せいあ)と号し、エスペラント語も学び、瑛九に大きな影響を与えました。
父とともに集めた俳諧関係の資料類は、1985年(昭和60)宮崎県立図書館に約1万2千点にのぼる杉田文庫として寄贈されました。

杉田正臣著
『父/暁天/瑛九抄』
2000年
鉱脈社刊行
父のこと、弟瑛九のことを深い愛情をもって書き残しています。

「現代美術の父 瑛九展」
会期:1979年6月8日~20日
会場=新宿・小田急グランドギャラリー、
主催=瑛九展開催委員会、後援=文化庁・瑛九の会

瑛九最晩年の点描の大作がずらり。このときはまだほとんどが個人蔵でした。

レセプション会場にて。左から杉田正臣さん(瑛九の兄)、郡司君さん(瑛九の姉)、杉田都さん(瑛九夫人)、靉嘔先生。

同展フライヤー
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<瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展が東京国立近代美術館で始まりました(11月22日~2017年2月12日)。ときの忘れものは会期終了まで瑛九について毎日発信します。
●ときの忘れものは2016年12月28日(水)~2017年1月16日(月)まで冬季休廊です。
いつもより長い冬休みですが、お正月早々、ART STAGE SINGAPORE 2017に出展するためです。
また銀座のギャラリーせいほうで開催される「石山修武・六角鬼丈 二人展ー遠い記憶の形ー」(2017年1月10日~1月21日)に企画協力しています。
メールやネットでのお問合せ、ご注文には通常通り対応いたします(日・月・祝日を除く)。
◆スタッフSの「海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
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