本日の瑛九情報は、12月27日の勝見美生のレポートに続くときの忘れもののスタッフたちによる瑛九展観覧記です。日ごろ「えいきゅう、エイキュウ」と亭主に言われ食傷気味の彼らが果たしてどんな感想を持ってくれるでしょうか。

皆さんこんにちは。
ときの忘れもののスタッフ、松下と申します。
さっそくですが、皆様もご存知の通り、ときの忘れものにとって超重要な作家である瑛九の展覧会<瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展が、東京国立近代美術館で開催中です。

瑛九1935-1937闇の中で「レアル」をさがす(表)瑛九1935-1937闇の中で「レアル」をさがす(裏)


「瑛九1935-1937 闇の中で『レアル』をさがす」
会期:2016年11月22日[火]~2017年2月12日[日]
会場:東京国立近代美術館 2Fギャラリー4
主催:東京国立近代美術館

今回は、スタッフ全員にレポート提出指令が下っため、大急ぎで展覧会を見てきました。
もちろん、ときの忘れものでは「瑛九」という名前を聞かない日は無いので、観ないわけにはいきません。
読者の皆様は、きっと私よりも瑛九について詳しい方々ばかりだと思いますので、駄文になりますがおつきあいください。

20161129_東京国立近代美術館「瑛九展 1935-1937」_14
左から「青の中の丸」「れいめい」

はじめに、私が瑛九を知ったのは、まさに東京国立近代美術館の所蔵品展でした。今回の展覧会にも出展されている瑛九の油彩画《れいめい》が、靉光やクレーなどに囲まれて展示されていたのです。初見の私は「渋い作家だなぁ」と画面を少しだけ覗いて帰りました。それ以降、何度も4階の常設展示室で《れいめい》と遭遇したのですが、私は注視することはありませんでした。瑛九のフォトデッサンを初めて見たのは、ときの忘れものに勤め始めてからです。とても大事な作品があるというので、梱包材で巻かれたマット装の作品をそっと机に広げました。そこには、深海で網に囚われたような人型。たちこめる煙。白く光る鎖のようなもの。黒地に白色のモチーフがゆらゆらと印画紙の中で浮かんでいました。なんだかその場の気温が1度ほど低くなったような、不思議な感覚だったのを覚えています。
その作品が、瑛九『眠りの理由』でした。

qei17-029瑛九
『眠りの理由』より
1936年
フォトデッサン(フォトグラム)
26.3×21.7cm
Ed.40


IMG_4134瑛九
『眠りの理由』(10点組)
from "Reason of Sleep"
1936年
フォトデッサン
*手前の展示台には『眠りの理由』表紙が展示されている。


この展覧会では、フォトデッサンのコンセプトは、機械文明によって移り変わる人々の現実の捉え方の探求であると語られています。つまり新しいリアリティの探求であると。情報化社会になった現代にも通じる考え方です。
瑛九(1911~1960 本名、杉田秀夫)はとても早熟で、16歳で美術雑誌に評論を発表し始め、25歳でフォトデッサン集『眠りの理由』を刊行しています。そしてエスペラント語という国際語を操っていたといいますから、昔のインテリは、凄まじかったのですね。『眠りの理由』を刊行する6年前からフォトデッサンの試作を行なっていたそうで、逆算すると10代頃から制作に熱を燃やしていたようで恐れ入ります。この『眠りの理由』の試作期間に、瑛九は年齢が一つ下の山田光春に出会っています。瑛九は山田光春との間で、何通もの書簡のやり取りをしているのですが、この書簡が今回の展覧会で展示されています。『眠りの理由』で輝かしいデビューをした彼でしたが、マン・レイとの比較などをうけて、彼は精神を追い込まれていきますが、その葛藤や苦悩を手紙から垣間見ることができます。(1937年4月23日書簡には、「この手紙は読んだら燃やしてくれ」など人間味ある文面ばかり。)

IMG_4120展示室の中心に書簡が置かれ、周囲の壁に作品が並びます。



私は『眠りの理由』刊行前後に注目したこの展覧会で、瑛九の《れいめい》をみたときの印象ががらっと変わりました。彼のフォトデッサンには、美術の技法だけではなく、真のリアルを問う信念が注ぎ込まれていたのです。また山田光春の存在がなければ、こんなにも瑛九の人間味ある生の声は残っていなかったことでしょう。まだ展覧会に行かれていない皆様には、書簡をじっくり読んでいただきたいと思います。ぜひ瑛九の世界をじっくり味わってみてください。
私事ですが、現在私は25歳。
瑛九が『眠りの理由』を刊行した年齢です。これはオチオチしていられません!
新しいレアルを探しに行かねば!

まつした けんた

◆ときの忘れものは「Circles 円の終わりは円の始まり」を開催しています。
会期:2017年1月18日[水]―2月4日[土] *日・月・祝日休廊
201701_Circlesオノサト・トシノブの油彩を中心に、円をモチーフに描かれた作品をご覧いただきます。
出品作家:オノサト・トシノブソニア・ドローネ菅井汲瑛九、高松次郎、吉原治良