新連載・小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第1回
ときの忘れものさんのブログをご覧の皆様、はじめまして。「BOOKS青いカバ」の小国貴司と申します。駒込にて今年の1月から古書&セレクト新刊のお店を商っています。この度、ときの忘れものさんが、青山から駒込にお引越しをされ(おめでとうございます!)、ご縁をいただきました。「なにかブログに書いてみない?」というお誘いまで頂戴し、今、ドキドキしながらも、こうして原稿を書いている次第です。
駒込で初めてお会いしたときの忘れものさんですが、実は、私、開業前までは、新刊書店に13年ほど勤めており、ちょうど外苑前のお店にいたこともございます。10年ほど前のことです。おそらく、その頃にも社長ご夫妻はお店にお越しになり、ひょっとしたら私が接客させていただいたこともあるかもしれません。幸いお客様に怒られた記憶はないので、変な接客はしていないはず・・・です。(お互いに忘れているだけかもしれませんが・・・。)ですので、この度のご縁は、青山時代から温めてきたご縁、とも言えるかもしれません。青山時代のときの忘れものさんには、恥ずかしながら伺ったことはないのですが、ここ駒込の地では、足繁く通わせていただき、ご近所さんとしても仲良くさせていただきたい!と思っています。
さて、当店は、先ほども申し上げた通り、古書をメインに新刊も少し取り扱っているお店です。なぜ新刊も置いているのかというと、やはり一番の理由は、町の本屋の減少になんとか歯止めをかけたいという思いからです。アマゾンなどのネット書店は便利ですし、その便利さはなくなることはないと思うのですが、一方で、お店で本に出合う喜びもなくしたくはありません。また様々な理由から、ネット書店を利用できない(したくない)という方もいらっしゃいます。しかし、そうした方の受け皿であるべき書店の数は年々減少。その現状を打破すべく、古書店ではありますが、①新刊をセレクトして扱うこと②新刊書籍を店頭で取り寄せられること③本の買取や本に関する様々なご相談も承れること、という古書店・新刊書店の両面から、欲張ってみたいと思っています。
そして、このブログでは、古書・新刊問わず、一か月の間に入荷した面白い本を、私なりにご紹介していきたいなと思っています。末永くお付き合いいただければ、うれしいです。
今回取り上げたい当店新着本は、岩田宏『最前線』(青土社)です。
岩田宏『最前線』(青土社)

岩田宏さんは、「小笠原豊樹」という本名で翻訳も数多く手がけています。代表的な翻訳作品は、ブラッドベリ『火星年代記』ロス・マクドナルド『さむけ』やマヤコフスキー、プレヴェールなど多数。というか、ロシア語、英語、フランス語と、一体何か国語ができるんだー!と叫んでしまう驚異の翻訳家です。
と、同時に「岩田宏」という筆名で、詩人・小説家としても活躍されていました。その分野でもたくさんの作品を残されています。しかし、この『最前線』を最後に、ほとんど詩は発表せず、活動の場は小説と翻訳、評伝の分野が中心になっていきます。
いわば、『最前線』は岩田宏の詩と散文の過渡期の作品集。それを物語るかのように、この作品集は詩と掌編で構成されています。
この本の中で、私が好きな作品は「草の名前」「自動ピアノと海蛇」。いずれも散文ですが、捉えられないものを捉えようとした言葉の芸術です。「草の名前」は、ある日、自宅のトイレが詰まり、その修理のためにやって来た初老の男性との話です。修理が終わり、男性は、自分の過去を話しはじめます。わずか10ページの作品の中で、男性が語る自らの婚約者の話、戦争でのロシアからの引き揚げの話。そこで描かれているのは「人間の死」について、です。そして、その体験が、図らずも男性の言葉を磨き上げているようにも思えます。作者はこの掌編で、いわば、死と言葉、ひょっとしたら、死と詩について考え、自らの言葉を鍛えているのかもしれません。もう一つのお話も、やはり人の死が影を落としています。ぜひこちらも読んでいただきたいと思います。
ちなみに小笠原豊樹訳の『プレヴェール詩集』が、8月に岩波文庫にて復刊予定。こちらも当店イチ押しですので、ぜひ手に取ってみてください。
(おくに たかし)
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
*画廊亭主敬白
長年親しんだ青山を去る踏ん切りをつけた理由の一つに本屋がなくなってしまったことがあります。毎日のように通っていたリブロ青山が閉店したときはショックでした。
二ヶ月前、社長と下見にきたとき、東洋文庫の傍に「青いカバ」という不思議な名の本屋さんを発見! なんとリブロ青山に勤めていたというではないか、これを偶然というのか、必然というべきか。
本棚がとてもいい、古本が主ですが店主の目が選んだ新刊本もおいてあります。
漫画コミック類は無し、その潔さが気に入りました(亭主は漫画大好きですが、どこの本屋に行っても漫画一色というのは困る)。新連載の第一回だけは本日4日に掲載しますが、来月からは毎月5日の更新です。ときの忘れものにおいでの折にはどうぞ「BOOKS青いカバ」にも寄ってください。
さて、小国さんが最も新しい仲間とすると、40数年来の友人である柳正彦さんを招いて、駒込移転後の初のイベントを開催します。
◆柳正彦が語る
<プロジェクトとその記録、クリストとジャンヌ=クロードの隠れたライフワーク>
日時:2017年9月2日(土)16時~
長年クリストとジャンヌ=クロードのスタッフをつとめてきた柳さんが、世界各地で実現された大規模なプロジェクトを紹介しながら、短期間しか存在しない作品を、アーティスト自身がいかに記録に纏めていったかを、参考映像を交えて語ります。
*要予約/参加費1,000円
必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。
info@tokinowasuremono.com
同時に8月29(火)~9月9日(土)「特集展示:クリストとジャンヌ=クロード」を開催します。
クリスト
《The Museum of Modern Art Wrapped (Project for New York)(Schellmann 37),》
1971年
オフセットリトグラフ
シートサイズ:71.2×55.5cm
Ed.100 Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分、名勝六義園の正門からほど近く、東洋文庫から直ぐの場所です。
◆新連載・小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
ときの忘れものさんのブログをご覧の皆様、はじめまして。「BOOKS青いカバ」の小国貴司と申します。駒込にて今年の1月から古書&セレクト新刊のお店を商っています。この度、ときの忘れものさんが、青山から駒込にお引越しをされ(おめでとうございます!)、ご縁をいただきました。「なにかブログに書いてみない?」というお誘いまで頂戴し、今、ドキドキしながらも、こうして原稿を書いている次第です。
駒込で初めてお会いしたときの忘れものさんですが、実は、私、開業前までは、新刊書店に13年ほど勤めており、ちょうど外苑前のお店にいたこともございます。10年ほど前のことです。おそらく、その頃にも社長ご夫妻はお店にお越しになり、ひょっとしたら私が接客させていただいたこともあるかもしれません。幸いお客様に怒られた記憶はないので、変な接客はしていないはず・・・です。(お互いに忘れているだけかもしれませんが・・・。)ですので、この度のご縁は、青山時代から温めてきたご縁、とも言えるかもしれません。青山時代のときの忘れものさんには、恥ずかしながら伺ったことはないのですが、ここ駒込の地では、足繁く通わせていただき、ご近所さんとしても仲良くさせていただきたい!と思っています。
さて、当店は、先ほども申し上げた通り、古書をメインに新刊も少し取り扱っているお店です。なぜ新刊も置いているのかというと、やはり一番の理由は、町の本屋の減少になんとか歯止めをかけたいという思いからです。アマゾンなどのネット書店は便利ですし、その便利さはなくなることはないと思うのですが、一方で、お店で本に出合う喜びもなくしたくはありません。また様々な理由から、ネット書店を利用できない(したくない)という方もいらっしゃいます。しかし、そうした方の受け皿であるべき書店の数は年々減少。その現状を打破すべく、古書店ではありますが、①新刊をセレクトして扱うこと②新刊書籍を店頭で取り寄せられること③本の買取や本に関する様々なご相談も承れること、という古書店・新刊書店の両面から、欲張ってみたいと思っています。
そして、このブログでは、古書・新刊問わず、一か月の間に入荷した面白い本を、私なりにご紹介していきたいなと思っています。末永くお付き合いいただければ、うれしいです。
今回取り上げたい当店新着本は、岩田宏『最前線』(青土社)です。
岩田宏『最前線』(青土社)
岩田宏さんは、「小笠原豊樹」という本名で翻訳も数多く手がけています。代表的な翻訳作品は、ブラッドベリ『火星年代記』ロス・マクドナルド『さむけ』やマヤコフスキー、プレヴェールなど多数。というか、ロシア語、英語、フランス語と、一体何か国語ができるんだー!と叫んでしまう驚異の翻訳家です。
と、同時に「岩田宏」という筆名で、詩人・小説家としても活躍されていました。その分野でもたくさんの作品を残されています。しかし、この『最前線』を最後に、ほとんど詩は発表せず、活動の場は小説と翻訳、評伝の分野が中心になっていきます。
いわば、『最前線』は岩田宏の詩と散文の過渡期の作品集。それを物語るかのように、この作品集は詩と掌編で構成されています。
この本の中で、私が好きな作品は「草の名前」「自動ピアノと海蛇」。いずれも散文ですが、捉えられないものを捉えようとした言葉の芸術です。「草の名前」は、ある日、自宅のトイレが詰まり、その修理のためにやって来た初老の男性との話です。修理が終わり、男性は、自分の過去を話しはじめます。わずか10ページの作品の中で、男性が語る自らの婚約者の話、戦争でのロシアからの引き揚げの話。そこで描かれているのは「人間の死」について、です。そして、その体験が、図らずも男性の言葉を磨き上げているようにも思えます。作者はこの掌編で、いわば、死と言葉、ひょっとしたら、死と詩について考え、自らの言葉を鍛えているのかもしれません。もう一つのお話も、やはり人の死が影を落としています。ぜひこちらも読んでいただきたいと思います。
ちなみに小笠原豊樹訳の『プレヴェール詩集』が、8月に岩波文庫にて復刊予定。こちらも当店イチ押しですので、ぜひ手に取ってみてください。
(おくに たかし)
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
*画廊亭主敬白
長年親しんだ青山を去る踏ん切りをつけた理由の一つに本屋がなくなってしまったことがあります。毎日のように通っていたリブロ青山が閉店したときはショックでした。
二ヶ月前、社長と下見にきたとき、東洋文庫の傍に「青いカバ」という不思議な名の本屋さんを発見! なんとリブロ青山に勤めていたというではないか、これを偶然というのか、必然というべきか。
本棚がとてもいい、古本が主ですが店主の目が選んだ新刊本もおいてあります。
漫画コミック類は無し、その潔さが気に入りました(亭主は漫画大好きですが、どこの本屋に行っても漫画一色というのは困る)。新連載の第一回だけは本日4日に掲載しますが、来月からは毎月5日の更新です。ときの忘れものにおいでの折にはどうぞ「BOOKS青いカバ」にも寄ってください。
さて、小国さんが最も新しい仲間とすると、40数年来の友人である柳正彦さんを招いて、駒込移転後の初のイベントを開催します。
◆柳正彦が語る
<プロジェクトとその記録、クリストとジャンヌ=クロードの隠れたライフワーク>
日時:2017年9月2日(土)16時~
長年クリストとジャンヌ=クロードのスタッフをつとめてきた柳さんが、世界各地で実現された大規模なプロジェクトを紹介しながら、短期間しか存在しない作品を、アーティスト自身がいかに記録に纏めていったかを、参考映像を交えて語ります。
*要予約/参加費1,000円
必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。
info@tokinowasuremono.com
同時に8月29(火)~9月9日(土)「特集展示:クリストとジャンヌ=クロード」を開催します。
クリスト《The Museum of Modern Art Wrapped (Project for New York)(Schellmann 37),》
1971年
オフセットリトグラフ
シートサイズ:71.2×55.5cm
Ed.100 Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分、名勝六義園の正門からほど近く、東洋文庫から直ぐの場所です。
◆新連載・小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
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