佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」
第10回 インドの先住民Santal-Kheladangaの人々の家づくりについて-その3
今年の3月にインド・シャンティニケタン郊外のケラダンガ村で開校したIn-Field Studioの動画を最近になってようやく公開した。なぜ半年も出し渋っていたのかと自分自身をいぶかしむが、結果この半年にも様々な思考の展開もあったのではとも思うのでそう悪いものでもないかもしれない。今回はこのあたりをもう一度ぐるぐると振り返ってみたい。
秋に差し掛かったころから、ほとんど毎日北千住のアートセンターBUoYという現場の改修工事を大工の青島雄大さんと一緒にやっており、そこではいくらか木工についての知見というか工夫の知恵を得ることができた。彼とは来月の12月末ころからインド・シャンティニケタンの家の建設も一緒にやってもらうことをお願いしているので、短期間ではあるがある連続した共同創作の径をたどることになる。日本からは鑿や鉋などの手道具だけを持って行き、インドの家の中である軸組の架構を組み立てる予定。先方には使用する材木の手配をすでにお願いしているが、実際にどんな材料がくるかは正直分からない。万が一、ヤシの木などのような恐ろしく硬い材が取り揃えられでもすれば、もちろん想定していた納まりの変更が必要となるだろうし、デザイン自体も変えざるをえない。けれども、現場でデザインを変えられる、洗練させられるということはとても重要なことだとも感じる。その作業は決して即興ではない。現場に身を置いて、四六時中一つのディテールデザインに注力するわけであるから、一般の事務所内設計の作業よりはよほど考えている。そして何よりも、隣の職人さん作業を見て、彼の墨付けや材料取りや刻みの入れ方などが自分の頭に叩き込まれるので、おのずと描いた図面の横にはその作り手の姿が想像され、デザインもごくごく自然に生まれてくる。そして部分の詳細は、昼メシや休憩などの合間にサッと相談して決めていく。
昨今の建築設計と施工とが乖離した状況はなかなかに厄介な問題だなと思う。設計、実施設計、そして監理業務を別の人間が行い、申請の手間などからもあらかじめ作成された図面通りに工事を進めざるをえない状況に変わっていっている。設計と工事との距離が離れてしまえばしまうほどに、互いの作業を想像する力が欠乏し、その無関心さ自体が実物となって表れ出てしまう。
それは明らかに建築の質に関わる問題だ。
インドでは、そんな機械的分業が未徹底な状況がまだ在る。というよりもそれぞれの職分が流動的で、現場でも職人らは皆多能工として基礎工事から仕上げまで一貫して関わり続ける。特殊な専門技術を要さない作り方で建築が作られ、プリミティブの原則が貫徹されているとも言える。行政への申請もA4の用紙数枚程度で、詳細の多くは現場が始まってから決定され、外壁工事が終わった今でも、まだ未決定の部分は多そうなので、来月ようやく現場入りができる我々からすればとてもありがたい。そんな環境があるインドがとても羨ましい。そんな魅力も感じてインドに積極的に入り込もうとしている。
シャンティニケタンで建設している家の内部、未だ仕上げ工事はしていないが、この荒さをどう残すかが一番の肝かとも思っている。
庭からの外観。窓廻りの金物の納まりというか、埋め込みの潔さと、使用する材料の少なさは、内部での木造架構でも応用したい。
そんなプリミティブの探求を、3月のIn-Field Studioで試みようとしていた。期間中に行った村内での建設作業は、地元のSantal族の村出身で大工を生業としているケレンという名の青年に、資材の調達や材料取りを教えてもらいながら行った。彼はガタリと現地で呼ばれる曲がった短刀のような刃物とを使ってなんでも切っていたし、持ち手を反対にしてトンカチとしても使いこなしていた。ちなみにガタリはほとんど同じ形のものが床に固定されて、キッチンでの包丁にもなっている。

竹の調達と材料取りを行う大工ケレン。
ガタリという刃物。
先に紹介した動画の中では、参加者も含めて、材料と道具の単純さから生まれ出る様々な工夫が随所に記録されている。それらをどのように組み立てていくのか(論理的にも、ものづくりにおいても)が今後の課題である。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
●今日のお勧め作品は、安藤忠雄です。
安藤忠雄
「テート・モダン」
2002年
シルクスクリーン
イメージサイズ:33.0x86.0cm
シートサイズ:75.0x106.0cm
Ed.15
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
第10回 インドの先住民Santal-Kheladangaの人々の家づくりについて-その3
今年の3月にインド・シャンティニケタン郊外のケラダンガ村で開校したIn-Field Studioの動画を最近になってようやく公開した。なぜ半年も出し渋っていたのかと自分自身をいぶかしむが、結果この半年にも様々な思考の展開もあったのではとも思うのでそう悪いものでもないかもしれない。今回はこのあたりをもう一度ぐるぐると振り返ってみたい。
秋に差し掛かったころから、ほとんど毎日北千住のアートセンターBUoYという現場の改修工事を大工の青島雄大さんと一緒にやっており、そこではいくらか木工についての知見というか工夫の知恵を得ることができた。彼とは来月の12月末ころからインド・シャンティニケタンの家の建設も一緒にやってもらうことをお願いしているので、短期間ではあるがある連続した共同創作の径をたどることになる。日本からは鑿や鉋などの手道具だけを持って行き、インドの家の中である軸組の架構を組み立てる予定。先方には使用する材木の手配をすでにお願いしているが、実際にどんな材料がくるかは正直分からない。万が一、ヤシの木などのような恐ろしく硬い材が取り揃えられでもすれば、もちろん想定していた納まりの変更が必要となるだろうし、デザイン自体も変えざるをえない。けれども、現場でデザインを変えられる、洗練させられるということはとても重要なことだとも感じる。その作業は決して即興ではない。現場に身を置いて、四六時中一つのディテールデザインに注力するわけであるから、一般の事務所内設計の作業よりはよほど考えている。そして何よりも、隣の職人さん作業を見て、彼の墨付けや材料取りや刻みの入れ方などが自分の頭に叩き込まれるので、おのずと描いた図面の横にはその作り手の姿が想像され、デザインもごくごく自然に生まれてくる。そして部分の詳細は、昼メシや休憩などの合間にサッと相談して決めていく。
昨今の建築設計と施工とが乖離した状況はなかなかに厄介な問題だなと思う。設計、実施設計、そして監理業務を別の人間が行い、申請の手間などからもあらかじめ作成された図面通りに工事を進めざるをえない状況に変わっていっている。設計と工事との距離が離れてしまえばしまうほどに、互いの作業を想像する力が欠乏し、その無関心さ自体が実物となって表れ出てしまう。
それは明らかに建築の質に関わる問題だ。
インドでは、そんな機械的分業が未徹底な状況がまだ在る。というよりもそれぞれの職分が流動的で、現場でも職人らは皆多能工として基礎工事から仕上げまで一貫して関わり続ける。特殊な専門技術を要さない作り方で建築が作られ、プリミティブの原則が貫徹されているとも言える。行政への申請もA4の用紙数枚程度で、詳細の多くは現場が始まってから決定され、外壁工事が終わった今でも、まだ未決定の部分は多そうなので、来月ようやく現場入りができる我々からすればとてもありがたい。そんな環境があるインドがとても羨ましい。そんな魅力も感じてインドに積極的に入り込もうとしている。
シャンティニケタンで建設している家の内部、未だ仕上げ工事はしていないが、この荒さをどう残すかが一番の肝かとも思っている。
庭からの外観。窓廻りの金物の納まりというか、埋め込みの潔さと、使用する材料の少なさは、内部での木造架構でも応用したい。そんなプリミティブの探求を、3月のIn-Field Studioで試みようとしていた。期間中に行った村内での建設作業は、地元のSantal族の村出身で大工を生業としているケレンという名の青年に、資材の調達や材料取りを教えてもらいながら行った。彼はガタリと現地で呼ばれる曲がった短刀のような刃物とを使ってなんでも切っていたし、持ち手を反対にしてトンカチとしても使いこなしていた。ちなみにガタリはほとんど同じ形のものが床に固定されて、キッチンでの包丁にもなっている。

竹の調達と材料取りを行う大工ケレン。
ガタリという刃物。先に紹介した動画の中では、参加者も含めて、材料と道具の単純さから生まれ出る様々な工夫が随所に記録されている。それらをどのように組み立てていくのか(論理的にも、ものづくりにおいても)が今後の課題である。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
●今日のお勧め作品は、安藤忠雄です。
安藤忠雄「テート・モダン」
2002年
シルクスクリーン
イメージサイズ:33.0x86.0cm
シートサイズ:75.0x106.0cm
Ed.15
サインあり
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●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
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