小林美香のエッセイ「写真歌謡論」第1回

写真歌謡論 はじめに

01cameraer(図1)「CAMERAer」(表・裏・付録の御神籤)

02 (図2)荒井由美〈あの日にかえりたい〉(1975)

いつも当連載をご愛読いただき有難うございます。これまでに「写真集と絵本のブックレビュー」として執筆し、いろいろな書籍をその内容や蔵本、装丁などを含めて紹介して参りましたが、一つ区切りをつけてこの度新しく「写真歌謡論」という連載を始めさせて頂きたいと考えております。写真+歌謡という意外な組み合わせのように感じられるかも知れませんが、この連載の構想を思いついた一冊の本『CAMERAer』から連載の内容・構想を記しておきたいと思います。
『CAMERAer』(図1)は、美術家の野村浩 https://twitter.com/exdoranomu(1969- )の手によるコミックブックで、2018年7月に刊行されました。この作品は、野村が2013年から15年にかけてSNS上に不定期に連載した3コマ漫画をまとめたもので、カメラと写真のモモノケのようなさまざまなキャラクターが登場し、写真やカメラを取り巻く世界が描き出されています。私は、本書の解説を担当しておりますので、是非お読みいただければと思います(都内では POETIC_SCAPENADiff a/p/a/r/tNADiff BAITENSO BOOKSオリエンタルホビー、オンラインブックショップflotsambooksで扱っています)また、2019年1月から、横浜市民ギャラリーあざみ野にて、本作品と連動した横浜市所蔵カメラ・写真コレクション展「暗 くて明るいカメラーの部屋」の開催が予定されています。以下の文章は、解説の冒頭で書いた文章「『CAMERAer(カメラー)』から見る写真の世界」の中で記したものです。
「野村浩は1969年生まれ、私は1973年生まれでともに40代の中年である。幼少期から青少年期にはフィルムの写真に慣れ親しみ、成人した後にインターネットの普及と写真のデジタル化を経験し、現在はデジタル ネイティヴ、スマートフォン世代の子どもを育てる親でもある。フィルムの写真で育った世代として、写真を撮る・見る経験を通して「もの」としての写真への愛着が身体に深く刻み込まれている。子どもだった 1970年代、80年代を振り返ると、歌詞の中に写真が登場する歌謡曲のフレーズが過る。たとえば、荒井由美の〈あの日にかえりたい〉(1975)は、「泣きながら ちぎった写真を てのひらに つなげてみるの」(歌詞、楽曲へのリンクは下記参照)(図2)と歌い出し、松田聖子の〈蒼いフォトグラフ〉(1983)は、「一度破いてテープで貼った 蒼いフォトグラフ」とか「写真はセピア色に 褪せる日がきても」と、写真の状態をこと細かく描き出す(歌詞、楽曲へのリンクは下記参照)。 このような歌詞が示すのは、写真の「もの」としてのあり方が、それを所有し、見る人の感情に強く作用するということであり、写真が想いを寄せる相手を召還し、その縁(よすが)を証立てる大切な「もの」であるからこそ、ちぎったり、切れ端を掌にのせたり、テープで貼り合わせたりする行為や、褪色という写真の経年変化に、相手の存在や自分の感情が託されるということである。スマートフォンやPCの画面に表示される画像として写真に接することが圧倒的に多くなった現在、写真への想いの込め方、扱い方は変わっているのだろうか?「あの日の写真にかえりたい」、つまりフィルム写真の時代に戻りたいわけではないけれども、そもそも写真とはどのようなもので、これまでに自分たちは写真とどのような関わり方をしてきたのかということを、振り返って確かめてみたいという想いは、現在の中年(もしくはそれ以上の世代)の心の奥底に溜まっているのではないだろうか。」
03(図3)写真歌謡祭ポスター画像

04(図4)お土産として制作されたカセットテープ (中のテープは、未使用の状態で、ラベルの中にYoutube の再生リスト と、ミックステープへのリンクが記されている)

05(図5)カセットテープのラベル

上記のように書いた後に、『CAMERAer(カメラー)』についての解説を進めているのですが、文中で挙げた〈あの日にかえりたい〉や〈蒼いフォトグラフ〉のほかにも、歌詞の中に写真やカメラ、写真に関連す る言葉が登場する楽曲(それらを「写真歌謡」と名づけました)には以前から関心を持っていたので、この 文章を執筆した後にも検索したり、SNS上で友人や知人から教えてもらったりしてリサーチを進めていきま した。8月18日には、「CAMERAer 発売記念トーク&写真歌謡祭」と題したイベントを開催し、選曲した24曲を聴きながら、楽曲の歌詞を分析し、時代の変遷に伴い、社会と写真の関係がどう変化してきたのかを探りました。選んだ曲は、ポール・サイモンが1973年に発表した「Kodachrome(邦題:僕のコダクロー ム)」から、K-POPシンガー、DEAN が2017年に発表した「Instagram」までに及び、ジャンルは歌謡曲、 ロック、テクノポップ、J POP、ヒップホップなどジャンルも様々です。(図3、4、5)40年以上の時間の流れの中で、写真が辿ってきた技術的な進歩や、写真が歌詞の中に登場することで、ストーリーの時間軸が どのように設定されているのか、写真を介した歌の中の感情の動きなどを読み取ることができました。ポピュラーソングの歴史と写真の歴史を重ね合わせ、歌われた写真と写された写真を掛け合わせて写真のあり方を考える「歌謡写真論」を構想してみたいと思いが湧いてきたので、毎回一曲か二曲の楽曲を取り上げ、その時代背景、楽曲にちなむPVのような映像作品、歌詞の内容を連想させる写真家の作品を取り上げながら、 論じていきたいと考えております。どうぞよろしくおつきあいください。
荒井由実 あの日にかえりたい (1975)https://www.youtube.com/watch?v=36d-SKvLh4o
作詞・作曲:荒井由実(松任谷由実) 歌詞 http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=35507

松田聖子 蒼いフォトグラフ (1983)https://www.youtube.com/watch?v=ZXL3Xx0jXwQ
作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂(松任谷由実)歌詞 https://www.uta-net.com/song/176/
こばやし みか

■小林美香 Mika KOBAYASHI
写真研究者・東京国立近代美術館客員研究員。国内外の各種学校/機関で写真に関するレクチャー、ワークショップ、展覧会を企画、雑誌に寄稿。2007-08年にAsian Cultural Councilの招聘、及び Patterson Fellow としてアメリカに滞在し、国際写真センター(ICP)及びサンフランシスコ近代美術館で日本の写真を紹介する展覧会/研究活動に従事。
2010年より東京国立近代美術館客員研究員、2014年から東京工芸大学非常勤講師を務める。

●本日のお勧め作品は、吉田克朗です。
london-05
吉田克朗 Katsuro YOSHIDA
『LONDON II』より「Eaton Gate」
1975年 フォトエッチング  
シートサイズ:31.0x43.3cm
たとう入りオリジナルプリント12点組
各作品に限定番号と作者自筆サイン入り
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●小林美香のエッセイ「写真歌謡論」は毎月25日の更新です。

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