<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第70回
写真集『LONESOME COWBOY』(ボイジャー刊)より
https://kataokayoshio.com/
(画像をクリックすると拡大します)
ターミナルは不思議なところだ。
どこかに向かうための場所でありながら、来たるべきものを待つ場所でもある。
一直線に歩いていく人がいる横で、諦観の境地でたたずむ人がいる。
両者は同じ空間にいながら、まったく別の価値世界にいる。
乗り遅れまいと”急ぐ人”には一分一秒がものすごく貴重で、”待つ人”はその時間が少しでも早く過ぎてほしいと願う。
人間の能動性と受動性が顕著にあらわれ、居合わせた人の心が真逆の方向をむいているところに、ターミナルの奇妙さがある。
写真に目をむけてみよう。
写っているのは”待つ人”のほうである。ぜんぶで5人。”急ぐ人”はひとりもいない。
荷物を股のあいだに挟んで座り込む太り気味の女は、右手をギターケースに添えている。
だれかに持っていかれたら困る、そう思って把手をつかんでいるのだろう。
すぐそばにいるのだから心配ない、と思うのは安全な日本にいる人の考えることで、日本の一歩外にでれば、持ち物からいっときも目を放さないのは常識である。
彼女から一メートルほど離れたところには黒人の男女がいる。
女はスーツケースの上にコートを置いて腰をおろし、男のほうは床に片膝を立てて座っている。
女の手に傘が握られているのに注目。
床に置いてもよさそうなのに、そうしないのは、やはり持っていかれるのが心配なのだろう。
しかも傘を逆さまに持って、柄の部分で手提げ鞄を上から押さえているのがさすがである。
彼らから少し離れたところには白人の男が腕組みをして立っている。
彼には持ち物がない。5人のなかでいちばんリラックスして見えるのは、そのためだろうか。
荷物に気を配る必要がないから、疲れのないうららかな表情をしている。
彼の後ろにはもうひとり別の男がロッカーによりかかっている。
荷物はなさそうだが、フレームアウトされて写っていないのかもしれない。
片足を前に出してうつむいているしぐさは、気がかりなことに心を奪われているとも、ただ退屈しているともとれる。
荷物の多い人たちは行き先が遠いと考えていいだろう。
もしかしたらここが初乗りではなく、どこから乗ってきて、ここで別のバスに乗り換えるのかもしれない。
このようなトランジットの客は、”待つ人”が抱く所在のなさをもっとも強く味わう立場にある。
後もどりはできないが、行く手はまだ見えてこず、ふたつの狭間に宙吊りになり、先の運命が知れない漠とした不安にとらわれる。
背後にずらりと並ぶ、無機質で等価な、機能のみを考えて造られた鉄の函は、”待つ人”のそうした感情を無視しており、その冷淡さに彼らの理不尽さはよりいっそう際立っている。
壁のサインから、ここがグレーハンドのバスターミナルだと知れる。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●作家紹介データ
佐藤秀明
1943年6月27日新潟生まれ 日本写真家協会会員
日本大学芸術学部写真学科を卒業の後、フリーのカメラマンになる。1967年より3年間ニューヨークに在住。1970年代前半から波を追いかけサーフィン雑誌を中心に活躍し、その後北極、アラスカ、チベット、ポリネシアなど辺境を中心に撮影活動を続け、数多くの作品を発表。最近は日本の雨の風景などにも取り組んでいる。
●展覧会のご紹介
写真展『ロンサムカウボーイ』
会期 :2018年11月14日(水)~26日(月)
会場 :リコーイメージングスクエア新宿
時間 :10:30~18:30(最終日のみ16:00終了)
休館日:火曜日定休
1967年から撮り続けてきた作品を眺めてみると、時代が変わっても変わる事のないアメリカの風景が見えてくる。そんなアメリカの風景を独自のカメラアイで捉えた作品カラー、モノクロ合計約40点で構成。
●写真集のご紹介
『LONESOME COWBOY』
出版社:ボイジャー
発売日:2018年10月26日(金)
価 格:4,800円(税抜き)
過去40年間のアメリカの旅から。タイトルは「ロンサムカウボーイ」
------------------------------------------
●本日のお勧め作品は篠田守男です。
篠田守男
「TC7013」
2001年 金属彫刻
サイズ:32.7×38.8×1.8㎝
Ed.10
サインあり・木箱入り
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊です。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

写真集『LONESOME COWBOY』(ボイジャー刊)よりhttps://kataokayoshio.com/
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ターミナルは不思議なところだ。
どこかに向かうための場所でありながら、来たるべきものを待つ場所でもある。
一直線に歩いていく人がいる横で、諦観の境地でたたずむ人がいる。
両者は同じ空間にいながら、まったく別の価値世界にいる。
乗り遅れまいと”急ぐ人”には一分一秒がものすごく貴重で、”待つ人”はその時間が少しでも早く過ぎてほしいと願う。
人間の能動性と受動性が顕著にあらわれ、居合わせた人の心が真逆の方向をむいているところに、ターミナルの奇妙さがある。
写真に目をむけてみよう。
写っているのは”待つ人”のほうである。ぜんぶで5人。”急ぐ人”はひとりもいない。
荷物を股のあいだに挟んで座り込む太り気味の女は、右手をギターケースに添えている。
だれかに持っていかれたら困る、そう思って把手をつかんでいるのだろう。
すぐそばにいるのだから心配ない、と思うのは安全な日本にいる人の考えることで、日本の一歩外にでれば、持ち物からいっときも目を放さないのは常識である。
彼女から一メートルほど離れたところには黒人の男女がいる。
女はスーツケースの上にコートを置いて腰をおろし、男のほうは床に片膝を立てて座っている。
女の手に傘が握られているのに注目。
床に置いてもよさそうなのに、そうしないのは、やはり持っていかれるのが心配なのだろう。
しかも傘を逆さまに持って、柄の部分で手提げ鞄を上から押さえているのがさすがである。
彼らから少し離れたところには白人の男が腕組みをして立っている。
彼には持ち物がない。5人のなかでいちばんリラックスして見えるのは、そのためだろうか。
荷物に気を配る必要がないから、疲れのないうららかな表情をしている。
彼の後ろにはもうひとり別の男がロッカーによりかかっている。
荷物はなさそうだが、フレームアウトされて写っていないのかもしれない。
片足を前に出してうつむいているしぐさは、気がかりなことに心を奪われているとも、ただ退屈しているともとれる。
荷物の多い人たちは行き先が遠いと考えていいだろう。
もしかしたらここが初乗りではなく、どこから乗ってきて、ここで別のバスに乗り換えるのかもしれない。
このようなトランジットの客は、”待つ人”が抱く所在のなさをもっとも強く味わう立場にある。
後もどりはできないが、行く手はまだ見えてこず、ふたつの狭間に宙吊りになり、先の運命が知れない漠とした不安にとらわれる。
背後にずらりと並ぶ、無機質で等価な、機能のみを考えて造られた鉄の函は、”待つ人”のそうした感情を無視しており、その冷淡さに彼らの理不尽さはよりいっそう際立っている。
壁のサインから、ここがグレーハンドのバスターミナルだと知れる。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●作家紹介データ
佐藤秀明
1943年6月27日新潟生まれ 日本写真家協会会員
日本大学芸術学部写真学科を卒業の後、フリーのカメラマンになる。1967年より3年間ニューヨークに在住。1970年代前半から波を追いかけサーフィン雑誌を中心に活躍し、その後北極、アラスカ、チベット、ポリネシアなど辺境を中心に撮影活動を続け、数多くの作品を発表。最近は日本の雨の風景などにも取り組んでいる。
●展覧会のご紹介
写真展『ロンサムカウボーイ』会期 :2018年11月14日(水)~26日(月)
会場 :リコーイメージングスクエア新宿
時間 :10:30~18:30(最終日のみ16:00終了)
休館日:火曜日定休
1967年から撮り続けてきた作品を眺めてみると、時代が変わっても変わる事のないアメリカの風景が見えてくる。そんなアメリカの風景を独自のカメラアイで捉えた作品カラー、モノクロ合計約40点で構成。
●写真集のご紹介
『LONESOME COWBOY』出版社:ボイジャー
発売日:2018年10月26日(金)
価 格:4,800円(税抜き)
過去40年間のアメリカの旅から。タイトルは「ロンサムカウボーイ」
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●本日のお勧め作品は篠田守男です。
篠田守男「TC7013」
2001年 金属彫刻
サイズ:32.7×38.8×1.8㎝
Ed.10
サインあり・木箱入り
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊です。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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