光嶋裕介のエッセイ「幻想都市風景の正体」

07 -生命力の高い空間
~ポエジーと造形~


ただいま開催中の個展のために
「幻想都市風景の正体」と題して書かせて
もらっている連載も、いよいよ最終回。
改めて、手を動かせながら考えることについて
まとめる機会を得て、ドローイングに対する理解が
ほんの少しだけまた深まったように感じています。
ただ、
まだまだはっきりとしない混沌の中からの歩みで
あることも実感し、「継続は力なり」というように、
これからも描き続けることで
まったく新しい風景を
これからもみつけたいと思っています。

建築家として設計している空間において、
「生命力の高い空間」を常々目指しています。
生命力とは、数値化できるものではありませんし、
ほかのものと比較する類のものでもありません。
私は合気道のお稽古をするようになって、
生命力について意識的に考えるようになりました。
もちろん、
どのようにしたら生命力の高い空間がつくられるのかは、
模索している最中ですが、空間を知覚する「身体」と
強い関係性があることは、きっと間違いありません。
空間と身体がどのように響きあうのか?
どのような造形を、どのような素材で、
どのようなスケールによってつくり出すことが、
生命力を高めることにつながるのかを、日々考えています。

このとき、
大切になってくるのは、
ポエジーの力ではないかと直感しています。
何かをつくり出すときに、想像(妄想)力をもって、
機能や技術、予算、法律などの与条件をクリアするだけでは、
決して生命力の高い空間はつくれません。
そこに、デザインの強度となる「飛躍」が必要になります。
たくさんの要素を統合しながら、空間を飛躍させるのが、
ポエジーの力だと思っているのです。
それは、デザインの根拠を言葉で説明することを超えて、
無条件に伝達し得る、非言語的な力がポエジーには
宿っているからにほかなりません。
ポエジーをまとうことで、
想像を超える創造が可能になると、私は強く信じています。
それを、無意識への接近と言い換えてもいいかもしれません。

あるいは、圧倒的な質と量によってうまれる過剰性も
作品が飛躍するためには必要な気がしています。
誤解を恐れずに言えば、
作品の過剰性の先にあるものは、
ある種の不気味なものとしての「毒」を宿し、
人を強く惹きつけるように思えてなりません。

私は、和紙を漉くことによる液体の「予測不能性」や、
野口さんに金箔を押してもらうことによる「他者性」を
自らの作品をつくるための種としています。
ここが出発点なのです。
ドローイングを描くための大切な要素。
自分なりの読み解きとしての思考のプロセスを
こうして文章を書くことと、
非言語による無意識への接近として
ドローイングを描くこと、
空間を設計することが、「建築家の仕事」における
大切な三本の軸であることで、
それぞれがそれぞれの営みを補完しているのです。

●「光嶋裕介新作展―幻想都市風景 GOLD」展示風景
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こうしま ゆうすけ

光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA(1979-)
建築家。一級建築士。1979年米国ニュージャージー州生。1987年に日本に帰国。以降、カナダ(トロント)、イギリス(マンチェスター)、東京で育ち、最終的に早稲田大学大学院修士課程建築学を2004年に卒業。同年にザウアブルッフ・ハットン・アーキテクツ(ベルリン)に就職。2008年にドイツより帰国し、光嶋裕介建築設計事務所を主宰。
神戸大学で客員准教授。早稲田大学などで非常勤講師。内田樹先生の凱風館を設計し、完成と同時に合気道入門(二段)。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの全国ツアーの舞台デザインを担当。著作に『幻想都市風景』、『みんなの家。』、『建築武者修行』、『これからの建築』など最新刊は『建築という対話』。

◆光嶋裕介のエッセイ「幻想都市風景の正体」は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

●今日のお勧め作品は、光嶋裕介です。
koshima_2018-07光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA
"幻想都市風景2018-07" 
2018年
和紙にインク、箔画
61.0x40.0cm
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


ときの忘れものは光嶋裕介新作展―幻想都市風景 GOLDを開催しています。
会期:2018年11月8日[木]―11月18日[日]11:00-19:00 ※会期中無休
4回目となる光嶋裕介新作展を開催します。
幻想都市風景を描き続ける光嶋裕介は、2014年より度々越前和紙の本場・福井県武生に赴き、描くための和紙を自ら漉いています。今年からその和紙に箔画作家・野口琢郎さんが箔押ししたコラボレーションによる幻想都市風景を多数制作。畳一畳分の和紙に描いた大作を含め新作13点をご覧いただきます。
11月17日(土)17時より、ゲストに中谷礼仁さん(建築史、歴史工学(アーキオロジー)、早稲田大学教授)を迎えてギャラリートークを開催します。
要予約、参加費1,000円 メールにてお申し込みください。
作家在廊予定日: 11月8日(木)、9日(金)、10日(土)、11日(日)、17日(土)、18日(日)
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●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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