<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第73回
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気象の変化はシャッターチャンスをもたらす。
入道雲がでる、稲妻が走る、霧がかかる、雲間から陽が差し込む、などの一瞬の変化があたりの空気を一変させ、怪しい気配すらただよわせる。
この写真からもそのような瞬間が伝わってくる。
重たく横たわっていた雲が風に吹かれて移動し、雲の切れ間から太陽がのぞいたのだ。
雲の厚みは一定ではなく、薄い箇所とそうでない箇所がある。
それが陽の落ち方に影響し、細い管を通ってきたような光の線にしている。
光の落ちている場所は山脈になっていて、雪の残った山容がうねうねとつづいている。光は平地よりも山並みに当たったほうがはるかに劇的で、奇跡の場面を描いた宗教画のような雰囲気を見せている。
撮影者はふたつの道が交わった場所に立ち、その様子を眺めている。
右の道は土のままの農道で、左のほうは舗装された公道だ。
後ろからずっとつづいてきた舗装道に土の道が合流したのだろう。
どちらの道にも人影がいる。
右の道には遠くのほうにぽつんと小さく、左のほうの人はもっと手前にいて大きい。
小さい人影はこちらに歩いてくるところのように見える。
かたや、左の人は背中を見せて歩き去っているところだ。
両方の人影を見比べているうちに、ふたつの道がつながり、円環しているような錯覚がおきた。
行って帰ってくる道、そんな連想が生まれたのだった。
どちらの道も白いラインに縁取られているが、この連想はそれに加勢されているのではないか。
右の道の白い部分を見たとき、はじめは空が反射して光っているのだと感じ、何が光っているかを考える以前に、まぶしい光を感受した。
改めてよく見れば雪が残っているから白いのだが、まぶしさの理由はそれだけではなくて、雲間から差し込む光がこの白に連鎖するためのように思う。
一方、左の道の白いラインは公道によく見られるものだ。
これが引かれているがために、もしなければさほど目立たない道の蛇行が際立っている。
そればかりか、発光するような右の白とつながり、循環路のイメージを屹立させているのだ。
どちらの道にも行く手に山がそびえていることも見逃せない。
だれかがやってきて帰っていく場所として山ほどふさわしい場所はなく、その円環のイメージを山に落ちる光が主張している。
もしふたりの位置が逆で、右の道の人がもっと手前で大きく、左の道の人が遠く小さかったとしたら、この連想は崩れるような気がする。
土の道を通ってやってくる人影が小さいことがたぶん重要なのだ。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●掲載写真のクレジット
© 田中昭史「風景秩父Ⅱ」より
●掲載写真のデータ
2003年撮影 2018年プリント
8×10inch ゼラチンシルバープリント
●作家紹介
田中昭史 Tanaka Akifumi
1948年埼玉県生まれ。信州大学工学部および東京綜合写真専門学校卒業。
個展「多摩景」「秩父巡礼行1990-1998」(ニコンサロン他)、「90sCHINA」「都市」他(こどじ)、「風景秩父」(ギャラリー冬青)など国内外で多数開催。グループ展「東川国際写真フェスティバル」「日本のこども60年」他多数開催。写真集に『多摩景』(冬青社)がある。
2000-2017年武蔵野美術大学非常勤講師。
●写真展のご紹介


田中昭史 写真展「風景秩父Ⅱ」
会期=2019年2月1日(金) -23日(土)
会場=ギャラリー冬青 〒164-0011 東京都中野区中央5-18-20
埼玉県西部に位置する秩父地方は、荒川の本流・支流に沿っ て秩父、小鹿野、吉田の三つの盆地で成り立っている。
荒川の出口である寄居方向以外は東西南の三方すべて山で囲まれ、多くの峠で外部との交流を保ってきた。
荒川の本・支流によって削られた複雑な地形には多くの集落が点在し、それぞれに美しい山村風景が見られる。
また厳しい山村の生活を慰めるように数多くの祭りが各地で催されている。
秩父に生まれた私は、その独自の風景、祭りそして生活を40数年にわたって幅広く記録してきた。
今回はその中から4年前に展示した「風景秩父」に続き、再度風景を選び出し「風景秩父Ⅱ」として展示する。(冬青社HPより)
●大竹昭子先生からのお知らせです。
「ピエール・バルーの詩と旅と音楽」
日程:2月5日(火)19:30 START(19:00 OPEN)
場所:駒込・Books青いカバ
定員:25名
参加費:1,500円(1ドリンク付き)
ご予約、問い合わせ先
info@bluekababooks.net
03-6883-4507
7年前にピエール・バルーの誕生日月の2月にオープンしたサラヴァ東京が、2月いっぱいで閉店になります。サラヴァでは「ことばのポトラック」をはじめとして、さまざまなイベントをさせていただきましたが、これからもピエールの一期一会のスピリットを心に留めていきたいと思い、「Books青いカバ」でブックフェアとトークショーをおこないます。
ピエールの著作と、彼と親交のあったジャック・プレヴェールやドアノーの本を並べ、
あわせて、彼が何度も行き来したブラジル関係の書物もそろえます。
トークのゲストは、旅する詩人、管啓次郎さんです。
音楽をかけたり、詩を朗読したり、寒さにかじかんだからだがほかほかするような宵にご期待ください。
※追伸
今年の「ことばのポトラック」は3月9日(土)に渋谷のアップリンクでおこないます。
大震災の日から福島市内を、自分の目の高さで撮影し、記録してきた写真家の赤城修司さんをお迎えします。また日が近づいたらお知らせいたしますが、心に留めておいていただけるとうれしいです。
●本日のお勧め作品は倉俣史朗です。
倉俣史朗 Shiro KURAMATA
「Flower Vase #1301」(薄いピンク)
アクリル
W8.0xD8.0xH22.0cm
撮影:桜井ただひさ
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆「第27回瑛九展 」は1月26日に終了しましたが、3月末のアートバーゼル香港2019に「瑛九展」で初出展します。
・瑛九の資料・カタログ等については1月11日ブログ「瑛九を知るために」をご参照ください。
・現在、各地の美術館で瑛九作品が展示されています。
埼玉県立近代美術館:「特別展示:瑛九の部屋」で120号の大作「田園」を公開、他に40点以上の油彩、フォトデッサン、版画他を展示(4月14日まで)。
横浜美術館:「コレクション展『リズム、反響、ノイズ』」で「フォート・デッサン作品集 眠りの理由」(1936年)より6点を展示(3月24日まで)。
宮崎県立美術館:<瑛九 -宮崎にて>で120号の大作「田園 B」などを展示(4月7日まで)。
●ジョナス・メカスさんが1月23日亡くなられました。
追悼の心をこめてジョナス・メカス上映会を開催します。
会期:2019年2月5日[火]―2月9日[土]
代表作「リトアニアへの旅の追憶」は毎日上映するほか、「ショート・フィルム・ワークス」、「営倉」、「ロスト・ロスト・ロスト」、「ウォルデン」の4本を日替わりで上映します。
上映時間他、詳しくはホームページをご覧ください。
2月9日17時よりのトーク「メカスさんを語る」(要予約、ゲスト:飯村昭子さん、木下哲夫さん)は既に満席となり受付を終了しました。
●ときの忘れもののブログは年中無休です。昨年ご寄稿いただいた方は全部で51人。年末12月30日のブログで全員をご紹介しました。
●2019年のときの忘れもののラインナップはまだ流動的ですが、昨2018年に開催した企画展、協力展覧会、建築ツアー、ギャラリーコンサートなどは年末12月31日のブログで回顧しました。
●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

(画像をクリックすると拡大します)気象の変化はシャッターチャンスをもたらす。
入道雲がでる、稲妻が走る、霧がかかる、雲間から陽が差し込む、などの一瞬の変化があたりの空気を一変させ、怪しい気配すらただよわせる。
この写真からもそのような瞬間が伝わってくる。
重たく横たわっていた雲が風に吹かれて移動し、雲の切れ間から太陽がのぞいたのだ。
雲の厚みは一定ではなく、薄い箇所とそうでない箇所がある。
それが陽の落ち方に影響し、細い管を通ってきたような光の線にしている。
光の落ちている場所は山脈になっていて、雪の残った山容がうねうねとつづいている。光は平地よりも山並みに当たったほうがはるかに劇的で、奇跡の場面を描いた宗教画のような雰囲気を見せている。
撮影者はふたつの道が交わった場所に立ち、その様子を眺めている。
右の道は土のままの農道で、左のほうは舗装された公道だ。
後ろからずっとつづいてきた舗装道に土の道が合流したのだろう。
どちらの道にも人影がいる。
右の道には遠くのほうにぽつんと小さく、左のほうの人はもっと手前にいて大きい。
小さい人影はこちらに歩いてくるところのように見える。
かたや、左の人は背中を見せて歩き去っているところだ。
両方の人影を見比べているうちに、ふたつの道がつながり、円環しているような錯覚がおきた。
行って帰ってくる道、そんな連想が生まれたのだった。
どちらの道も白いラインに縁取られているが、この連想はそれに加勢されているのではないか。
右の道の白い部分を見たとき、はじめは空が反射して光っているのだと感じ、何が光っているかを考える以前に、まぶしい光を感受した。
改めてよく見れば雪が残っているから白いのだが、まぶしさの理由はそれだけではなくて、雲間から差し込む光がこの白に連鎖するためのように思う。
一方、左の道の白いラインは公道によく見られるものだ。
これが引かれているがために、もしなければさほど目立たない道の蛇行が際立っている。
そればかりか、発光するような右の白とつながり、循環路のイメージを屹立させているのだ。
どちらの道にも行く手に山がそびえていることも見逃せない。
だれかがやってきて帰っていく場所として山ほどふさわしい場所はなく、その円環のイメージを山に落ちる光が主張している。
もしふたりの位置が逆で、右の道の人がもっと手前で大きく、左の道の人が遠く小さかったとしたら、この連想は崩れるような気がする。
土の道を通ってやってくる人影が小さいことがたぶん重要なのだ。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●掲載写真のクレジット
© 田中昭史「風景秩父Ⅱ」より
●掲載写真のデータ
2003年撮影 2018年プリント
8×10inch ゼラチンシルバープリント
●作家紹介
田中昭史 Tanaka Akifumi
1948年埼玉県生まれ。信州大学工学部および東京綜合写真専門学校卒業。
個展「多摩景」「秩父巡礼行1990-1998」(ニコンサロン他)、「90sCHINA」「都市」他(こどじ)、「風景秩父」(ギャラリー冬青)など国内外で多数開催。グループ展「東川国際写真フェスティバル」「日本のこども60年」他多数開催。写真集に『多摩景』(冬青社)がある。
2000-2017年武蔵野美術大学非常勤講師。
●写真展のご紹介


田中昭史 写真展「風景秩父Ⅱ」
会期=2019年2月1日(金) -23日(土)
会場=ギャラリー冬青 〒164-0011 東京都中野区中央5-18-20
埼玉県西部に位置する秩父地方は、荒川の本流・支流に沿っ て秩父、小鹿野、吉田の三つの盆地で成り立っている。
荒川の出口である寄居方向以外は東西南の三方すべて山で囲まれ、多くの峠で外部との交流を保ってきた。
荒川の本・支流によって削られた複雑な地形には多くの集落が点在し、それぞれに美しい山村風景が見られる。
また厳しい山村の生活を慰めるように数多くの祭りが各地で催されている。
秩父に生まれた私は、その独自の風景、祭りそして生活を40数年にわたって幅広く記録してきた。
今回はその中から4年前に展示した「風景秩父」に続き、再度風景を選び出し「風景秩父Ⅱ」として展示する。(冬青社HPより)
●大竹昭子先生からのお知らせです。
「ピエール・バルーの詩と旅と音楽」日程:2月5日(火)19:30 START(19:00 OPEN)
場所:駒込・Books青いカバ
定員:25名
参加費:1,500円(1ドリンク付き)
ご予約、問い合わせ先
info@bluekababooks.net
03-6883-4507
7年前にピエール・バルーの誕生日月の2月にオープンしたサラヴァ東京が、2月いっぱいで閉店になります。サラヴァでは「ことばのポトラック」をはじめとして、さまざまなイベントをさせていただきましたが、これからもピエールの一期一会のスピリットを心に留めていきたいと思い、「Books青いカバ」でブックフェアとトークショーをおこないます。
ピエールの著作と、彼と親交のあったジャック・プレヴェールやドアノーの本を並べ、
あわせて、彼が何度も行き来したブラジル関係の書物もそろえます。
トークのゲストは、旅する詩人、管啓次郎さんです。
音楽をかけたり、詩を朗読したり、寒さにかじかんだからだがほかほかするような宵にご期待ください。
※追伸
今年の「ことばのポトラック」は3月9日(土)に渋谷のアップリンクでおこないます。
大震災の日から福島市内を、自分の目の高さで撮影し、記録してきた写真家の赤城修司さんをお迎えします。また日が近づいたらお知らせいたしますが、心に留めておいていただけるとうれしいです。
●本日のお勧め作品は倉俣史朗です。
倉俣史朗 Shiro KURAMATA「Flower Vase #1301」(薄いピンク)
アクリル
W8.0xD8.0xH22.0cm
撮影:桜井ただひさ
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆「第27回瑛九展 」は1月26日に終了しましたが、3月末のアートバーゼル香港2019に「瑛九展」で初出展します。
・瑛九の資料・カタログ等については1月11日ブログ「瑛九を知るために」をご参照ください。
・現在、各地の美術館で瑛九作品が展示されています。
埼玉県立近代美術館:「特別展示:瑛九の部屋」で120号の大作「田園」を公開、他に40点以上の油彩、フォトデッサン、版画他を展示(4月14日まで)。
横浜美術館:「コレクション展『リズム、反響、ノイズ』」で「フォート・デッサン作品集 眠りの理由」(1936年)より6点を展示(3月24日まで)。
宮崎県立美術館:<瑛九 -宮崎にて>で120号の大作「田園 B」などを展示(4月7日まで)。
●ジョナス・メカスさんが1月23日亡くなられました。
追悼の心をこめてジョナス・メカス上映会を開催します。会期:2019年2月5日[火]―2月9日[土]
代表作「リトアニアへの旅の追憶」は毎日上映するほか、「ショート・フィルム・ワークス」、「営倉」、「ロスト・ロスト・ロスト」、「ウォルデン」の4本を日替わりで上映します。
上映時間他、詳しくはホームページをご覧ください。
2月9日17時よりのトーク「メカスさんを語る」(要予約、ゲスト:飯村昭子さん、木下哲夫さん)は既に満席となり受付を終了しました。
●ときの忘れもののブログは年中無休です。昨年ご寄稿いただいた方は全部で51人。年末12月30日のブログで全員をご紹介しました。
●2019年のときの忘れもののラインナップはまだ流動的ですが、昨2018年に開催した企画展、協力展覧会、建築ツアー、ギャラリーコンサートなどは年末12月31日のブログで回顧しました。
●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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