「ジョナス・メカス と チバクローム」

松本綾子


 今回、弊廊 nap gallery で、ジョナス・メカスさんの展覧会を開催する運びとなりました。企画自体は、ずいぶん以前からあったのですが、日程が具体化した矢先にメカスさんの訃報が飛び込み、結果として「追悼展」となってしまいました。
 私は、東京工芸大学写真学科の細江英公研究室で学んだ後、zeit-foto に就職。2011年に独立し、アーツ千代田3331に nap gallery を開いて今年で8年になります。学生時代から写真一筋ではきたものの、ギャラリストとしては駆け出しの私が、背伸びしてメカスさんというレジェンドの展覧会を開催するに至ったのは、メカスさんのチバクローム・プリントが存在することを知ったからにほかなりません。

公園3331の外観
©3331 Arts Chiyoda

 チバクロームは、1963年にイギリスの写真用品メーカー、イルフォード社によって開発され、「チバクロームペーパー」の名で商品化された印画紙のことで(その後「イルフォクロームペーパー」と改名)、発売以来、その鮮やかな発色と色の耐久性で、たちまち人気商品となりました。しかし、同社は2004年に破産。翌年買収されるも、チバクロームペーパーは製造中止になり、やがてその技法も過去のものとなってしまいました。
 先月、「ときの忘れもの」さんで、メカスさんの残した作品に対面。なかでも、チバクローム・プリントの作品は、制作当時の輝きそのままに、キラキラと光沢を放っていました。私は、開廊以来、「The Manners of Photography」という写真をコレクションする面白さを伝えるグループショーと関連付けて展覧会を企画してきましたが、今回、貴重なチバクローム・プリントと、作家性が色濃く出てくるtype-cプリントを比較展示する場をつくることができたことは、写真コレクションという視点からも重要なことだったと思っています。
 デジカメや高性能カメラを搭載したスマートフォンの出現で、「写真を撮る」という作業がとても簡単にできるようになりました。その反面、写真の構図、写真原盤の大きさ、フィルムの種類、カメラ、レンズ、プリント方法など、写真を構築してきた多くの要素が画一化され、撮る人はその選択肢を手放そうとしています。企業がカメラに設定した色、形に写真は限定されていき、写真というメディは「思考停止」に陥りつつあると感じずにはいられません。
 今回、メカスさんのチバクローム・プリント作品と、30年前、高橋恭司という稀有な作家が自問自答を繰り返し、自分の納得する色を見つけるために自作した引き伸ばし機でプリントした作品も展示しています。
「写真」は、簡単になんとなくいい感じに写るものかもしれませんが、一筋縄ではいかないと思いませんか。

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まつもと あやこ

■松本綾子(nap gallery ディレクター)
東京工芸大学写真学科、細江英公ゼミを卒業後、日本の写真画廊の老舗である株式会社ZEIT-FOTO SALONに入社。その後、独立行政法人東京芸術大学 写真センターに入社し、学生、教員の方々への共通工房として写真のフィルム現像、プリント、展覧会の作り方などを指導する。2011年より、ギャラリーを開廊。戦後の日本写真のヴィンテージプリントから、写真のメディアに捉われない現代を示唆する作品の取扱いなど、幅広い日本のアーティストを紹介している。

●展覧会のお知らせ
『ジョナスメカス、高橋恭司 Chibacrome / type-c [ The manners of Photography #5 ]』
会期:2019年 3月6日(水)~4月6日(土)
場所:nap gallery 千代田区外神田 6-11-14 3331アーツ千代田 206号
連絡先:090-7400-6361

●今日のお勧め作品は、ジョナス・メカスです。
0909-19ジョナス・メカス Jonas MEKAS
「写真を撮るウーナ、ニューヨーク、1977(いまだ失われざる楽園)」
2009年
CIBA print
35.4×27.5cm
signed
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追悼 ジョナス・メカス
3月11日 「1996年日本でのメカスさん」
3月9日 「メカスさんを語る」レポート
2月28日 1983年のインタビュー(再録)
2月19日 井戸沼紀美「東京と京都で Sleepless Nights Stories 上映会」
2月16日 佐伯誠「その人のこと、少しだけ_追憶のジョナス・メカス」
2月13日 「メカスさんの版画制作」
2月6日 井戸沼紀美「メカスさんに会った時のこと」
2月4日 植田実『メカスの映画日記 ニュー・アメリカン・シネマの起源1959―1971』
2月2日 初めてのカタログ
1月28日 木下哲夫さんとメカスさん
1月25日 追悼ジョナス・メカス上映会


●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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