中村茉貴「美術館に瑛九を観に行く」第26回(前半)

埼玉県立近代美術館
「2019 MOMASコレクション 第4期 瑛九と光春―イメージの版/層」

会期:2019年1月12日~4月14日


瑛九の作品に見られる様々な表現技法を多角的に捉え、作品の不思議な魅力に迫る展覧会が埼玉県立近代美術館で開催されている。展示は2部構成で、近年立て続けに新収蔵となった重要なコレクションの公開と、特別出品されている瑛九の最晩年の大作《田園》を目玉とし、体系的に瑛九の作品を鑑賞し、関心を広げようとする試みである。取材時には、展示の企画者である学芸員梅津元氏が各コーナーの作品の見どころについて、会場を回りながら詳細に解説してくださり、質問にも丁寧にご回答をいただいた。

埼玉県立近代美術館01埼玉県立近代美術館の外観。
取材は午後1時から、気がつけば美術館はすっかり夜の風景に包まれていた。


「瑛九と光春―イメージの版/層」
【1.瑛九《面影》と光春の素描を中心に―杉田秀夫から瑛九へ】

このコーナーでは、瑛九(1911-1960)の新収蔵となった作品および瑛九と親交のあった山田光春(1912-1981)の作品を紹介している。

埼玉県立近代美術館02初期に制作された作品。向かって左2点は《十三子姉》1929年、油彩、カンヴァス(板で裏打ち)、《女性像》年代不詳、油彩、カンヴァス(板で裏打ち)、左上には瑛九の本名杉田秀夫のイニシャル「H・S」のサインが認められる。まだ「瑛九」と名乗る前の作品である。

qei_omokage新収蔵品で今回が初公開となった《面影》1936年、ゼラチン・シルバー・プリント
梅津学芸員は、この作品について、瑛九が命名した「フォト・デッサン」と、一般的な「ストレート・フォトグラフィ」の間を埋める作品として重要な一点であると話す。


パネルでは、山田光春が瑛九と出会ったときの様子を紹介している。典拠先は山田光春著『瑛九―作品と評伝』(1976年、青龍洞)の「序章 大いに語ろう」(pp.23-26)で、ピカソをはじめとする芸術談義に花を咲かせ、2人は次第に距離を縮める。これをみると、瑛九が芸術を志す仲間と出会い、互いにブラシュアップしようとする姿が浮かび上がってくる。


埼玉県立近代美術館03瑛九と光春の交流関係が分かるスケッチ類が平台に広げられている。左側が瑛九に関するコーナーで右側が山田光春のコーナーである。ご遺族の山田光一氏から寄贈を受けた光春のスケッチ類と、都夫人の協力で以前から美術館で所蔵していた瑛九の作品が並べられた。


瑛九のコーナーで一番手前に展示されているインクによるデッサン《作品Ⅰ》《作品Ⅱ》は、東京国立近代美術館が所蔵する1936年頃のデッサンと同時期に制作されたシリーズである。瑛九と名乗りはじめた直後のようで、「Q Ei」のサインが大きく書き込まれている。
(参考:「瑛九1935-1937 闇の中で『レアル』をさがす」2016年11月22日~2017年2月12日、東京国立近代美術館)

これらの作品については、光春の自著『瑛九―作品と評伝』の中で確認された1934年12月から翌1935年の始めにかけて鹿児島県の指宿に写生旅行時に制作された可能性が高いと紹介されている。同書に書かれた光春と瑛九の思い出話が、スケッチによって立体的に示されたことは、当時の2人が密接に関係していたことを生々しく感じとることのできる、素晴らしい発見である。

展示されている雑誌は、杉田秀夫「フォトグラムの自由な制作のために」『フォトタイムス』1930年8月号および杉田秀夫「アマチュア・ポートレート」『フォトタイムス』1931年10月号である。通常ならば、ポートレート写真からフォトグラムの技法へと移り変わることを想像するが、雑誌の発行年を見ると逆であると、梅津学芸員は指摘する。このことから、瑛九は、必ずしも新しい表現だけを目指したわけではないことが分かる。


【2.瑛九《声》と光春のガラス絵を中心に―技法の開拓と共鳴】
会場では、瑛九と光春の作品を比較しやすいように展示されている。両者の同時期の表現には類似性が見受けられるものの、それぞれの描き方――特に「線」に着目すると、違いが見えてくるだろう。筆触の太さ、圧力、ストロークの速さ、ボリューム感、奥行き感、バランスなどはどうだろうか。光春の「線」は、全体的に静謐かつ滑らかであり、数式のような秩序だっている表現に見える。光春は線を引く行為や運動から表出されるイメージに面白みを感じているように思える。瑛九の場合は、素材の特性――モノを写し取る力――を造形に活かしながら、絵画的な画面に仕上げようとしている。

埼玉県立近代美術館04山田光春《作品》1936-1937年頃、油彩、ガラス
新収蔵の作品で、今回が初公開となる。
銀河の模様を纏うアケビコノハの幼虫に似た不気味なガラス絵。よく見ると目玉や背骨のような形が認められる。
パネルでは「ガラスに油彩で描画を重ね、ガラスを裏返して、描画が施された面とは逆の面から見るガラス絵では、層の重なり方と見え方が、一般的な油絵とは逆の関係になります。その意味で、ガラス絵は、絵画であっても、版画のように層やレイヤーを意識的に活用する技法といえます。」と解説されている。

光春がガラス絵を制作していた当時、瑛九はフォト・デッサンやコラージュを発表していた。2人は「新しい技法の開拓という点において共鳴していた」といえる。

埼玉県立近代美術館051936~37年頃に制作された瑛九の作品。
左上から下に、
瑛九《作品(45)》年代不詳、ゼラチン・シルバー・プリント
瑛九《作品(7)》1937年、ゼラチン・シルバー・プリント
中央に、瑛九《作品(69)》年代不詳、ゼラチン・シルバー・プリントに彩色
右上から下に、
瑛九《風》1937年、ゼラチン・シルバー・プリント
瑛九《作品(40)》1936年、ゼラチン・シルバー・プリント


埼玉県立近代美術館061937~39年頃に制作された瑛九の作品。
左上から下に
瑛九《作品Ⅱ》1939年、コラージュ、紙
瑛九《作品Ⅰ》1937年、コラージュ、紙
中央に、瑛九《声》1937年頃、コラージュ、紙
右上から下に
瑛九《作品Ⅴ》年代不詳、コラージュ、紙
瑛九《作品Ⅳ》1937年、コラージュ、紙

qei_koeこれも新収蔵品となった《声》1937年頃、コラージュ、紙

カメラを使用したイメージ(《作品(45)》)では、目の前の事物がそのまま印画紙に写し取られるが、作家の意図や絵画性が弱くなる。カメラを使用せず、透過性のあるレースやセロファンなどを印画紙に置いて感光したイメージ(《作品(69)》《風》)を生成する方法がある。さらに、コラージュ作品(《作品Ⅰ》《作品Ⅱ》《声》《作品Ⅴ》)のように、既存の図にハサミを入れて、再構成する作品があり、中でも今回が初公開となる瑛九の作品《声》は、近代的なビル群のイメージを背景に据えた新即物主義的な画面にまとめられている作品である。また、印画紙に彩色を施す作例(《作品(69)》)もあり、実に表現が多彩である。

埼玉県立近代美術館07瑛九《作品(31)》年代不詳、ゼラチン・シルバー・プリント
瑛九《作品(51)》年代不詳、ゼラチン・シルバー・プリント

印画紙を用いたフォトグラムの典型的な作例と見なすこともできる《作品(51)》と、フォト・デッサンのひとつのタイプ(型紙によらないもの)の典型的な作例である《作品(31)》の比較は興味深い。特に、《作品(31)》に見られる、画面全体に筆跡が残る抽象絵画のような表現は、絵の具の物質性を取り払って作家のアウラが写し取られたかのような印象を受ける。


【3. 風、雲、宇宙―点描の夢から《田園》へ】
このコーナーでは、瑛九が色彩分割法を絵画表現に取り入れ、具象から抽象的な画面構成に向かっていく過程をたどることができる。

埼玉県立近代美術館08瑛九《兄妹》1944年、油彩、紙(合板裏打ち)
瑛九《ともだち》1944年、油彩、紙(板に裏打ち)

淡い色調の点で描かれた《兄妹》や《ともだち》の姿。平和な生活を祈るように、一筆一筆おいている真摯な姿を想像すると、込み上げてくるものがある。描かれた人物に向ける愛情が感じられる素直な作品だと思う。


ところで、今回の「MOMASコレクション」では、瑛九の他にも点描を絵画制作に取り入れた画家の作品が多数出品されている。

1階展示室入口側からはじまる瑛九の展示コーナーを奥に進むと、新収蔵のポール・シニャックをはじめ、クロード・モネ、モーリス・ユトリロなどの海外の巨匠たちの作品と、埼玉県の出身画家である斎藤豊作、斎藤与里、森田恒友も展示されている。斎藤豊作・斎藤与里は、印象派の色彩分割法を駆使し、色面構成の要素が強い華やかな画面を制作している。森田恒友は、印象派風の画面に水墨画の点苔を織り交ぜた世界観をみせている。様々な「点描」を一堂に鑑賞できるところも、今回の「MOMASコレクション第4期」のみどころである。


埼玉県立近代美術館09瑛九《風》1956年、油彩、カンヴァス
原色を使った荒々しい筆触で描かれた《風》。左上方部にある円形や四方に発光するイメージは、最晩年の作品の徴候として見てとれる。何か手応えを得たかのような思い切りのいい作品である。


埼玉県立近代美術館10次の2点は、リトグラフと油彩画と媒体は異なるが、制作年が近く、共通のイメージがいくつか認められる。赤・黄・青で色分けされた層が重なりあい、画面中心部にはアメーバのように浮遊するモチーフがある。
瑛九《海と少年》1956年、リトグラフ、紙、右下に「Q Ei」のサインあり
瑛九《子供のプロフィール》1957年、油彩、カンヴァス


埼玉県立近代美術館11こちらの3点は、美術館で展示される機会の多い作品。
左から、
瑛九《花》1956年、油彩、板
瑛九《雲》1959年、油彩、カンヴァス、左下に「Q Ei 1959」のサインあり
瑛九《青の中の黄色い丸》1957-1958年、油彩、カンヴァス、左下に「1957-8 Q」のサインあり


《花》は、青い水面に色水が落ちて放射線状に波紋を広げているような筆跡を残す作品。タイトルのように、キク科の花びらや夜空の花火を連想する。画面いっぱいに敷き詰められた大小二重丸の色面は、直感で色を置いているように見えるが、よく見るといくつかの組み合わせが認められ、実はシステマティックである。例えば、黒に近い紺を二重丸の中心部に使う時には、外側に同系色の少し明度の高い青を置き、反対に外側で紺を使用するときには、発色の強い黄を中心に置いているパターンがいくつか認められる。ここからひとついえるのは、瑛九の頭に「色相環」が入っていたことである。ベースカラーとしての青と「補色」の関係である橙を効果的に入れている例を見ると、色の性質をよく理解した上で、扱う色の配置や画面を占める割合が整理されている。一見すると単純な画面構成に見えるが、絶妙なバランスで色面が配置され、気持ちよく見える作品であり、瑛九の色彩に対する知識や経験が十分に発揮された作品といえるのではないだろうか。

このような色彩実験は、《青の中の黄色い丸》や《雲》の中でも試みられ、晩年の瑛九が夢中になった一つの表現技法であったのだろう。瑛九はフォト・デッサンや吹付けの作品制作の経験を経て、「色点」の置き方によって、「レイヤー」を出現させる方法を編み出したのだ。「レイヤー」は、モノのイメージが重なり合って焦点を鈍らせ、眩暈を起こすような不思議な感覚を生み出す。

実は、私にとって瑛九の作品で得られた最初の神秘体験は、現在展示されている《雲》であった。大きい画面に描かれている無数の点――青・藍・黄・赤・サーモンピンクの色点――を見るうちに、絵が立体的に膨れて、前後に動きはじめたように感じた。このころ美術作品を鑑賞するのが趣味になっていたが、瑛九の作品に見た光景は、どの作品を観ても得られない感覚であった。画面に描かれた無数の点を見て、描かれたイメージを探ろうとすると、焦点が定まらなくなり、自分自身の記憶(内面)からイメージをつかもうとし、意識が曖昧になってくる。
現実から一歩引いてみたイメージは、早朝、陽光が差し込む湯船の中で、寝惚け眼で湯気を追ったときの光景に似ていた。小さな水の粒子は、周囲の色を内包しながら集まって水蒸気となる。朝の柔らかい光でキラキラと発光する水蒸気は、やがてうねり乍ら上昇してゆく。夢心地で自分がどこにいて、立っているのか座っているのかも分からなくなるような感覚である。


埼玉県立近代美術館12瑛九《宇宙》1959年、油彩、カンヴァス、右上に「QEi 59」のサインあり
瑛九《海》1955年、エッチング、紙、右下に「Q」のサインあり
瑛九《くもり日》1958年、エッチング、紙

上昇する風船のようなイメージが表現された作品と、無限に広がる海や空(宙)のタイトルがつけられた作品。瑛九が意図していたかどうかは定かではないが、リトグラフの作品《旅人》(1957年)が第1回東京国際版画ビエンナーレ展に出品されたことを鑑みれば、瑛九の中でこのイメージは世に出したいモノであったと考えられる。このような同様のイメージが作品に繰り返し表現される行為について、梅津学芸員は「飛翔への願望、現実からの超出の願望があったのではないか」と推測する。このコーナーは、今回特別出品されている《田園》にも通じる表現のひとつとして、注意深く見たいところである。


【4. 瑛九《手》と光春のガラス絵を中心に―イメージの版/層】
このコーナーでは、瑛九と光春のそれぞれの「版/層」に着目し、作品などに残された痕跡から制作過程を想像する試みがなされている。

埼玉県立近代美術館13こちらの壁に展示されているエッチング、印画紙、油彩画の作品に「手」のイメージが表現されている。それぞれ作品のどこの部分にあるのか探してみてほしい。

瑛九《かぎ》1956年、ドライポイント、ルーレット、紙
瑛九《落書》1956年、エッチング、紙
瑛九《オペラグラス》1953年、エッチング、紙
瑛九《タバコ》年代不詳、ゼラチン・シルバー・プリント
瑛九《手》1957年、油彩(吹き付け)、板
瑛九《作品(1)》年代不詳、ゼラチン・シルバー・プリントに吹き付け
瑛九《コンポジションA》1948年、水彩、インク、紙
瑛九《作品(78)》年代不詳、ゼラチン・シルバー・プリントに吹き付け、右下に「Q Ei marto/48」のサインあり
瑛九《作品(61)》1954年、ゼラチン・シルバー・プリント

埼玉県立近代美術館14《手》1957年、油彩(吹き付け)、板
2017年度に購入された作品である。
覗きケースには《手》に使用されたと思われる型紙も展示されている。


型紙は、印画紙を用いた作品の制作過程で生成されたものが多く、都夫人から寄贈された。
うらわ美術館宮崎県立美術館北九州市立美術館などでも型紙が所蔵されており、まだ作品と照合できていないものが沢山あるという。型紙の使用例を特定することは、パズルを合わせるような細かな作業ではあるが、照合作業によって作品の制作時期や制作工程などの情報をすくいとれるかもしれない。

梅津学芸員が東京国立近代美術館へ寄せられた文章に「ある時期の作品だけ見ても瑛九を見たことにはならない。層を貫通させて掬い上げる行為を繰り返すことでパフェを味わうことができるように、瑛九の魅力を味わうには、時代やジャンルを越境する見方を繰り返さなければならない。」(梅津元「ガラスの光春―瑛九の乱反射」『現代の眼』622号、2017年2月)とある。これまで見てきたとおり、瑛九の作品はとても同じ人物が制作したとは思えないほど作品が変化するが、俯瞰すると一本の筋が通ってみえるのは確かで、私が瑛九に関心を持つようになったのも、その秘密に迫りたいという思いからであった。

今回の展示は、1階展示室の約半分のスペースを活用した小規模企画ではあるが、瑛九の作家活動のすべてをカバーできるくらいバリエーションに富み、選りすぐりの作品が出品されている。近年、瑛九作品の購入や寄贈が重なったことや、まだ整理のつかない写真表現の技術的な面が梅津学芸員の深い洞察により細分化されたかたちで鑑賞する機会を得られた。さらには昨年購入された型紙を使い吹き付け技法による《手》(1957年)のように、戦後の印画紙の作品に用いていた表現が油彩画にも併用していた例が発見され、瑛九が突発的なひらめきや偶然、興味に流されるばかりではなく、意図して作品制作の実験を積み重ねていたことが展示によって明らかとなる画期的な企画であった。

瑛九の目まぐるしく変化する多数の作品を観ていると、頭が混乱することもあるため、ここで一旦、梅津学芸員が取材の中でお話されたことを踏まえながら、瑛九の作品の造形に関わる特徴について情報を整理しておきたい。

1)線による造形力は乏しいが、面や点を構成する色彩表現には長けているため、年代を追うにつれて、アカデミックな具象絵画よりも抽象性が際立つ絵画表現に傾倒していくようである。

2)プレス機で刷る工程を踏む版画、予め切っておいた型紙を用いる作品、裏面に絵の具を重ねるガラス絵、点を繰り返し打つことでキャンバスに図像を浮かび上がらせる点描法のように、瑛九は、即刻完成する作品というよりは、いくつかの工程を経てから最終的にイメージが形成される作品を好んだ。

3)類似するモチーフや同形の型紙(人物・鳥・猫など)に見受けられるように、同様のイメージを別の媒体に転用しながら、様々な表現にチャレンジする作例が多い。

4)ガラス、セロファン、スプレー、型紙、印画紙、色彩(色点)などを駆使し、多層(レイヤー)的な画面を表現しようと試みている。このことで、平面的な画面に立体的なイリュージョンを見せる効果が期待できる。

5)絵の中心となるモノが左上方部に表現され、画面に浮遊感が備わっている作例が多い。特に晩年の作品は、光源に現れる「残像」のようなイメージと重なって見える。

6)光のイメージ、または光を利用する表現活動に軸を置き、造形に係る表現は絵画的なものを目指している。

瑛九は、ひとつの表現メディアに囚われない実験的な制作行為を繰り返し行うため、鑑賞する側が捉えるイメージは散漫になりがちである。しかし、作品制作の経験を積むにつれて洗練されていった部分も、瑛九作品に見ることが出来て、そこに類似性や特徴を見出すことも出来る。

なお、瑛九が大阪の個展に寄せた文章には、新しい表現に取り組む姿勢について、自ら解説しているため、次に紹介しておきたい。

私が求めているものは二十世紀的な機械の交錯の中に作られるメカニズムの絵画的表現なのであります。
 自動車のまっ黒な冷やかな皮膚の光や、夜の街頭のめまぐるしく交錯した人工的な光と影は、われわれの機械文化の中に咲いた花なので、われわれの視覚による美もそういった感覚になければならぬと信じ、そういった面を表現する絵画の分野がなければならぬわけであります。
 そこでそういった新しい表現の手段を私は光の原理、光のもつ最も微妙な秘密をつかむ印画紙に求めたのであります。

〔後略〕
【瑛九「私の作品に関して」(「瑛九フォト・デッサン個展」1936年6月3日~6日、三角堂)】

以上の展示を観覧したあとで最後のコーナー「特別展示:瑛九の部屋」を鑑賞すると、様々に実験を重ねて作り上げられた画面であることが分かるだろう。決して一言では言い切れない作品を前にして息を飲んでしまうだろう。印象派から再スタートを果たし、そのまま色点を用いたオール・オーバーな画面へと終結するように見えるが、それだけではないということを鑑賞体験から感じ取ってもらいたい。


【特別展示:瑛九の部屋】
MOMASコレクション「特別展示:瑛九の部屋」では、梅津元学芸員が所蔵者加藤氏から提案を受けた特別な展示方法で、瑛九の《田園》(1959年、油彩、カンヴァス、加藤南枝氏蔵)を鑑賞できる。

埼玉県立近代美術館15《田園》の展示のために設えたという「瑛九の部屋」の入口。この暗幕を抜けると光のベールに包まれた神々しく見える作品を目にすることになる。
同館二階企画室での「インポッシブル・アーキテクチャー展」は24日で終了したが、一階のMOMASコレクションの瑛九展示は4月14日まで開催しているので、ぜひ展示室に足を運んで実物を観てほしい。

なかむら まき
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埼玉県立近代美術館・広報紙ソカロ
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●本日のお勧め作品は瑛九です。
qei_115瑛九 Q Ei
《風景》
板に油彩
23.7×33.0cm(F4)
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


◆いよいよ本日<アートバーゼル香港2019>が開幕し、ときの忘れものは「瑛九展」を開催します。海外で瑛九の個展が開催されるのは今回が初めてで、現地スタッフからの第一報では会場はもちろん、ブースも広く、それぞれの画廊のレベルが格段に高くいやがうえにも気持ちが高ぶっているようです。初日プレビューの様子は明日以降にご報告します。
basel19会期:2019年3月27日(水)-31日(日)
会場:Convention & Exhibition Centre, HK
ときの忘れものブースナンバー:3D27
公式サイト:https://www.artbasel.com/hong-kong/

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第28回カタログ表『第28回 瑛九展』(アートバーゼル香港)図録
2019年 ときの忘れもの
B5版 36頁 作品17点、参考図版27点掲載
執筆:大谷省吾(東京国立近代美術館)
編集:尾立麗子(ときの忘れもの)
デザイン:岡本一宣デザイン事務所
翻訳:Polly Barton、勝見美生(ときの忘れもの)
価格:800円 *送料250円

●瑛九の資料・カタログ等については1月11日ブログ「瑛九を知るために」をご参照ください。
埼玉県立近代美術館では「特別展示:瑛九の部屋」で120号の大作「田園」を公開、「瑛九と光春―イメージの版/層」では山田光春の新収蔵作品とともに、40点以上の油彩、フォトデッサン、版画他を展示しています(4月14日まで)。
宮崎県立美術館でも<瑛九 -宮崎にて>で120号の大作「田園 B」などを展示しています(4月7日まで)。

●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
駒込外観1TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。
*日・月・祝日は休廊。