スタッフSのギャラリートーク・レポート
「尾崎森平×喜夛孝臣」


 読者の皆様こんにちは。30年続いた平成が幕を下ろし、令和が始まり早4日、皆様いかがお過ごしでしょうか? 振るわぬ天気もなんのその。読書三昧にゲーム三昧、ついでに買ったまま放置していたプラモデルも組立三昧と休日を満喫させていただいております、スタッフSこと新澤です。

 本日は先月末に終了いたしました「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展」より、4月20日(土)に開催した尾崎森平さん×喜夛孝臣先生(練馬区立美術館学芸員)のギャラリートークのレポートです。
 当初は作家毎に計三回予定されていた週末毎のギャラリートークでしたが、最後のギャラリートークは作家の谷川桐子さんの体調不良のため中止となりましたので、今回が最後となります。

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 尾崎森平さんは仙台を拠点に活動されている方で、今回の三人展に出展されたのがときの忘れものとは初めての関わりなのですが、久しぶりの亭主による前語りで意外な縁が明らかになりました。
 ときの忘れものの前身は、亭主を筆頭に日本に版画を広めることを目的に1974年から1985年まで活動していた「現代版画センター」ですが、なんとエディションした作家の一人、尾崎志郎先生が尾崎さんのおじい様だったのです! この事についてはこちらも完全に予想外で、単なる同姓と思っていた亭主も意外な繋がりに仰天。つくづく世の中って狭いんだなぁと実感させられました。

DSC_0697 現代版画センター発行のカタログで尾崎志郎先生の作品を紹介する亭主
 今回講師として来廊いただいた喜夛孝臣先生は、普段から大変お世話になっており、ブログでも桐生の大川美術館で開催された松本竣介展について書いていただいたこともある方です。

DSC_0699_600 練馬区立美術館学芸員の喜夛孝臣先生
 前回のギャラリートークとは違い、今回はインタビューではなく対談形式での進行でした。
 まずは喜夛先生より、尾崎さんの作品を実見した感想について。学芸員故の職業病で、作品を見るとつい「自分ならどのように展示するか」と考えてしまうそうで、雑踏のイメージでやや乱雑に、資料のように規則正しく、或いは親身に感じられるよう低めに展示するなど様々なアイデアがあるものの、尾崎さんの大作については一部屋に一点のみ展示して、ライトを当てて浮かび上がるように展示するのが一番似合うのではないかと感じたそうです。理由は作品の持つ宗教画にも通じる静謐さと、描かれたモチーフの奥に垣間見えるメッセージ。極力作品から自分のタッチを消しているのは何故? そしてどうやって? という所で尾崎さんにバトンタッチ。

DSC_0706_600 作家の尾崎森平さん
 尾崎さん曰く、使用しているメディウムには特に変わった物はなく、ごく普通のアクリル絵具と絵筆を使用して制作しているが、他の作家と大きく違うのは、着色の際にマスキングを多用することだそうで。一色重ねる度にマスキングテープを貼り、カッターで形を切り出してその中を塗る、という工程で作業を進めるため、必然普通の制作よりも時間はかかるとのこと。オブジェクトとは別に、唯一グラデーションがかかっている空の部分は筆塗りではなくエアブラシ(スプレーによる吹き付け)を使用しており、筆塗りに比べて吹き付けは画面が凸凹になりやすく、光が乱反射することで画面がマット調になり、奥行きを演出し易いのだとか。ちなみに着色より前の段階では、PCを使って下絵を描くそうなのですが、興味深いのはあらかじめ「このくらいのサイズの作品を描こう」ではなく、下絵を描いている段階で「この作品はサイズがこのくらいになりそう」というように、構想段階では最終的な作品のサイズに頓着されていないこと。自由かつ簡単にサイズを変更できるPCを使っているからこその制作方法ですね。
 とはいえ、最終的にキャンバスに描くなら何故下絵を? とは喜夛先生でなくとも疑問に思いそうですが、尾崎家は祖父、父と版画作家の家系なので、尾崎さんもクレヨンを握る頃から版画に触れて育ってきており、最早尾崎さんにとって作品を作る=下書きを作ってそれをなぞるという工程が心身に沁み込んでおり、曰く「キャンバス等に直接画を描くのは違和感を感じて自分には合わない」とのこと。そもそも、アンディ・ウォーホル横尾忠則などの作品に見られるフラットな色合いの出し方を学びたいがために岩手大学の美術科に入ったものの、結局目当ての技法を学ぶことができず(理由が退官間際の教授が先輩のやらかしのせいで面倒事を嫌って機材の使用を許可しなかったというのだから何ともはや)、そこからアクリル画での作品制作を始めたという中々の紆余曲折ぶり。その経験が一作家としての個性を培ったのだから人生どう転ぶか分からないものです。

DSC_0708 この後は尾崎さんにポートフォリオを見せてもらいながら技法の変遷やモチーフについて話していただき、喜夛先生にその所感や、作品内には背景としての植物以外は生物が描かれていないことなどについて質問していただき、あっと言う間の一時間でした。
(しんざわ ゆう)

●本日のお勧め作品は尾崎森平です。
ozaki_昨日の世界尾崎森平
昨日の世界
2018年
アクリル、キャンバス、パネル
サイズ:144.5x163.5cm
サインあり

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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください
4月28日(日)から5月6日(月)まで休廊しています。連休中のお問い合わせには5月7日(火)以降にお返事いたしますので、ご了承ください。


◆ときの忘れものでは「第311回企画◆葉栗剛展 」を開催します。
会期:2019年5月24日[金]―6月8日[土]11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
葉栗展
ときの忘れものは毎年アジアやアメリカのアートフェアに出展し、木彫作家・葉栗剛の作品をメインに出品しています。今回は、2014年以来二回目となる個展を開催し、国内未公開作品11点をご覧いただきます。
初日5月24日[金]17時よりオープニングを開催します。

●『DEAR JONAS MEKAS 僕たちのすきなジョナス・メカス
会期:2019年5月11日(土)~6月13日(木)
会場:OUR FAVOURITE SHOP 内 OFS gallery
〒108-0072 東京都港区白金5-12-21 TEL.03-6677-0575
OPEN 12:00-19:00(ただし展示最終日は17:00まで)
CLOSE: 月・火(祝日を除く)

●『光嶋裕介展~光のランドスケープ
会期:2019年4月20日(土)~5月19日(日)
会場:アンフォルメル中川村美術館
[開館時間]火・木・土・日曜日 祝日 9時~16時(連休中は全日開館しています

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。
*日・月・祝日は休廊。