H氏による作品紹介3
運命は勇者に微笑む -コマーシャルギャラリーで写真を買う(1)- ~荒木経惟、石内都、大竹昭子~
図書館に写真集が並ぶような写真家であれば、作品の売り買いで成り立っているコマーシャルギャラリー(商業ギャラリー)が作品を扱っているのが普通である。ギャラリーと名前がつくものは少なくないが、その中で作家から直接作品を仕入れ、というか作品を依頼し、値段を付けて(つまり評価して)、世に送り出しているギャラリーがプライマリーギャラリー(一次ギャラリー、企画ギャラリー)である。新人の発掘や育成を志しているところも少なくなく、近現代における美術の重要な担い手である。狭い意味(本来の意味)で「ギャラリー」と呼ばれるのがこのプライマリーギャラリーで、もちろん我が「ときの忘れもの」は日本を代表するというか今や世界的なプライマリーギャラリーである。
作家からではなく第三者(市場、コレクター)から作品を仕入れる場合にはセカンダリーギャラリー(二次ギャラリー)と呼ばれるが、大きな資本を元手に流行の作品を右から左に流してビルを建てるギャラリーもあれば(この場合はどんなに大きなビルを建てても美術の分野からはあまり評価されない)、生前に充分な評価が得られなかったり、時の流れの中で忘れられていた作家の再評価と顕彰のために作品を扱う(この場合はビルは建たないかも知れないが-むしろ倒産の憂き目に遭ったりもするが-歴史的には高く評価される)ギャラリーもある。あれ、それって「ときの忘れもの」のことじゃないか。
日本だと、純粋なプライマリーギャラリーというのはなかなか成立しにくい。ギャラリー専属の作家の発掘と育成、新作の発表と取り扱いだけでやっていくには、市場の規模となにより目利きのコレクターが必要だが、「誰かのお墨付きがないと博打は張らない」コレクターばかりでは無理である。「画廊主のエッセイ」に頭を掻くしかない。
そんな凡庸な小コレクターではあったが、それでも「同時代の作家を」、「支持することは買うことだ」との金言を胸に、とにもかくにもバッターボックスに立った上でのリザルトが今回のオークションである。空振りもしたし見逃しも多かった。ホームランが打てたとは思わないが、ポテンヒットぐらいになったものはあったと思いたい。偉大な先達たちにはエキビジョンマッチ、未来のある新人にはオープン戦程度ではあるけれど、バッターボックスに立っていただき、バットを振っていただければ幸いである。
Lot.8 荒木経惟
写真集『写真私情主義』
2000年
サイン入り
Lot.9 荒木経惟
「写真私情主義」より(145-6)
2000年
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ: 26.6x31.5cm
シートサイズ:28.5x35.5cm
私の一番好きな写真集は、洋書だとベロックの『ストリービル・ポートレイト』、和書では荒木経惟の『東京は、秋』である。写真のベストテンなど選びようもないが、写真集だとこの2冊がオールタイムベストである。感覚が若い作家さんについていけてないだけなのだが、この2冊が傑作であることは誰も否定しないと思う。
好きすぎて、当時は3年に2回の割合で荒木さんの個展が開かれていたイル・テンポの石原和子さんに、アジェ展をやったんですから、こんどは日本のアジェ荒木経惟の「東京は、秋」をやってくださいとお願いしたことがある。さすがに展覧会は無理だったが、それでもプリントをお願いできることになって、写真集の中でも一番好きだった「行き止まり」をお願いした。
作家にとってはいつも「最高の作品は次回作」なわけだから、どんなに愛着のある作品でも再プリントのお願いはあまりいい顔をされない。まして(今でもそうだか)次々に新しい試みをされていた当時の荒木さんには迷惑な話しだったと思う。
ブックマット・消費税サービスで11万円。さすがに後払いというわけにはいかず、前金の分割払いという情けない仕儀となった。思えば、この時点で何人かのコレクター諸氏に声をかけてくださっていたのだと思う。ある程度オーダーがまとまった時点で依頼して、可能ならギャラリーのコレクション用にも何枚かということだったのではないだろうか。
恐らくオーダーが集まらなかったのだと思う。2回目の支払が終わった時点で、「1枚だと難しいみたいだから、5枚ぐらいまとめてお願いできないかしら」との話となった。さすがにそれだけの金額は用意できないのでこの話はおじゃんとなった。思えば、定期を解約してでもお願いすればよかったのである。運命は勇者に微笑む。Faint heart never won fair lady.である。
しょんぼりと落ちこんだ意気地なしを慰めるように「荒木さんの作品はヌードから売れるの」と、今や御禁制(?)の「少女世界」シリーズ(当時でも、アメリカのコレクターから、チャイルドポルノ所持で訴追されたので、アジェやフリードランダーを扱うちゃんとしたギャラリーから購入した美術品であるという証明が欲しいというFAXが届いたりしていた)を見せてくださった。よかったら代わりにということだったのだと思う。
荒木さんは私にとっては「アッジェとかエバンスに凝って」電通を辞めて三脚を付けたペンタックス6×7にネオパンSSを詰めて街を彷徨ったシリアスフォトグラファーなので、少女には手を出さなかった(勇気が無かっただけという話もある)。
今年で開廊25周年を迎え、今や日本を代表する写真ギャラリーの一つであるタカ・イシイギャラリーは、ロサンゼルスで個人ディーラーとして活動されていた石井孝之さんが、1994年に東京・大塚の自宅を改装して開廊(地図ソフトもスマートフォンもなかった当時、辿り着くまでが大変だった)。第1回展示はラリー・クラークの「タルサ」。同年の荒木さんの個展以来、荒木さんのマザーギャラリー的なポジションで毎年個展を開催している。
私は2003年の「ARAKI BY ARAKI」展(2003/5/23~6/21)に足を運んだのだが、残念ながら「東京は、秋」からのプリントはなかった。その代わりというわけではないが、自分にとっては一番荒木さんらしい写真のように思われた「凧」をサイン入りの写真集と一緒に購入。スタッフの方にはどうしてこれ、といった顔をされてしまったが、自分には、所在なしに孤独に空に浮かぶ奴凧が、なんとはなしに荒木さんの自写像のように思われて、愛しくてならなかったからである。
Lot.10 石内 都
Mother's#38「赤のリップスティック」
2005年
Type C プリント・アクリル
イメージサイズ:15.0x10.0cm
Ed.15(12/15)
The Third Gallery Ayaは1996年設立の大阪を代表する写真(映像)ギャラリー。オーナーディレクターの綾智佳さんの「若手作家が世界に発信できるようにサポートしたい」との願いのもと、積極的に若手の育成をはかっている。こちらは関西での会議や出張がないとお尋ねできないのだが、行けば必ず少なからぬ驚きと大きな刺激を受けることのできるギャラリーである。もし私に翼があったら飛んでいくのに、である。
この作品は2006年の「アートフェア東京」(東京国際フォーラム、2005/8/6~8)の際にThe Third Gallery Ayaのブースで購入したもの。当時の価格は7万円+税。なんと「ときの忘れもの」のエッセイの寄稿者のお一人でもある写真研究者小林美香さんが売り子として登場。綾さんと美香さんとスタッフさんから口々に「自信作です」「これオススメだから」「うちのオリジナルです」とのジェットストリームアタック、もとい「キャッツ・アイ」の来生三姉妹の三位一体攻撃に押し切られて、あれよあれよという間に購入申込書にサインをさせられてしまう。送られてきた納品書兼請求書に顔面蒼白となるが、その後大切に梱包され、こちらの依頼通り家人が不在の時間帯に配送されてきた現物にうっとりとなる。こういうのを「強いられた恩寵」と言うのであろう。これはクリーンヒット、自分にしたらホームランなんじゃないかと口元がゆるむ。とはいえ家人の目が怖くて部屋に飾ることはできず、ときどき箱から出して眺めるのが精一杯だった。その分状態は極めて良好である。人間万事塞翁が馬、何が幸いするかわからない。そしてそれが楽しい。この楽しみを多くの方に味わっていただければ思う。
Lot.15 大竹昭子
屋上犬
1980 Printed in 2010
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:13.2x28.6cm
シートサイズ:19.4x37.7cm
Lot.16 大竹昭子
猫を見る男
1980 Printed in 2010
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:13.2x28.6cm
シートサイズ:19.4x37.7cm
現在77回を数える「ときの忘れもの」の大人気エッセイ「迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす」の寄稿者であり、自分にとっては伝説の写真叢書「フォト・ミュゼ」の第一回配本、評論家のものとはひと味もふた味も違う文章と写真の本質に切り込む内容で、写真関係者に衝撃を与えた名著『眼の狩人―戦後写真家たちが描いた軌跡』(新潮社、1994;ちくま文庫、2004)の著者である大竹昭子さんのオリジナルプリント。名著『アスファルトの犬』(住まいの図書館出版局、1991)の表紙のイメージでもあり、現在は、今最も勢いのある写真集の出版元の一つである赤々舎から2012年に出版された『ニューヨーク 1980』の中に収められている。
2010年の森岡書店での写真展「NY1980」にて購入。撮影は1980年だが、印刷原稿としてではなく、展示のためにプリントされたのはこのときが初めてのはずで、その経緯は2011年の「大竹昭子のエッセイ」「レンズ通り午前零時」の中に語られている。
現在は「ときの忘れもの」の取り扱い作家であり、「ときの忘れもの」がプロデュースしたポートフォリオにも収められている。資産形成を考えれば絶対にポートフォリオの方なのだが、本人による展示のためのプリントという点ではまた別な意味と価値があるように思う。
(H)
*画廊亭主敬白
「H氏とはいったい誰なんだ」という問い合わせというか詰問が続いています。しかも<我が「ときの忘れもの」は日本を代表するというか今や世界的なプライマリーギャラリーである>なんて書かれると、「H氏とはお前なんだろう」と勘ぐられても仕方がないですね。ときの忘れものはプライマリーギャラリーなんて名乗ったことはただの一度もありませんし、プライマリーとセカンダリーの差もよくわかりません。
まあ、今回は胴元になったことへのH氏のお世辞というか、74歳になった(本日が亭主の誕生日であります)老人への労わりの言葉と思いましょう。
それにしてもH氏の蒐集談義、読み応えがあります。5回の予定でお願いしたのですが人気沸騰につき急遽7回に増やしていただきました。ぜひ熟読玩味の上、全点に入札が入ることを心より祈っております。
MORIOKA第一画廊の「一日だけの須賀敦子展」に参加するべく東京からお客様たちと盛岡に行ってきました。
よく聞き(大竹昭子さんと末盛千枝子さん)、よく歩き(建築散歩)、よく飲んだ三日間でした。疲れた体をほぐす温泉もなかなかでした。いずれレポートを掲載します。
<↓問い合わせ多数のため、大竹昭子さん写真展は4日まで開催するそうです!来週7月2日オンエアの「ほにほにラヂオ」は、その盛岡第一画廊の宇田り土さんをゲストにお迎えしますよー。(20190628/てくり木村さんのtwitterより)>
◆ときの忘れものは「H氏写真コレクション展」を開催します。
会期:2019年7月9日(火)~7月13日(土)

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
運命は勇者に微笑む -コマーシャルギャラリーで写真を買う(1)- ~荒木経惟、石内都、大竹昭子~
図書館に写真集が並ぶような写真家であれば、作品の売り買いで成り立っているコマーシャルギャラリー(商業ギャラリー)が作品を扱っているのが普通である。ギャラリーと名前がつくものは少なくないが、その中で作家から直接作品を仕入れ、というか作品を依頼し、値段を付けて(つまり評価して)、世に送り出しているギャラリーがプライマリーギャラリー(一次ギャラリー、企画ギャラリー)である。新人の発掘や育成を志しているところも少なくなく、近現代における美術の重要な担い手である。狭い意味(本来の意味)で「ギャラリー」と呼ばれるのがこのプライマリーギャラリーで、もちろん我が「ときの忘れもの」は日本を代表するというか今や世界的なプライマリーギャラリーである。
作家からではなく第三者(市場、コレクター)から作品を仕入れる場合にはセカンダリーギャラリー(二次ギャラリー)と呼ばれるが、大きな資本を元手に流行の作品を右から左に流してビルを建てるギャラリーもあれば(この場合はどんなに大きなビルを建てても美術の分野からはあまり評価されない)、生前に充分な評価が得られなかったり、時の流れの中で忘れられていた作家の再評価と顕彰のために作品を扱う(この場合はビルは建たないかも知れないが-むしろ倒産の憂き目に遭ったりもするが-歴史的には高く評価される)ギャラリーもある。あれ、それって「ときの忘れもの」のことじゃないか。
日本だと、純粋なプライマリーギャラリーというのはなかなか成立しにくい。ギャラリー専属の作家の発掘と育成、新作の発表と取り扱いだけでやっていくには、市場の規模となにより目利きのコレクターが必要だが、「誰かのお墨付きがないと博打は張らない」コレクターばかりでは無理である。「画廊主のエッセイ」に頭を掻くしかない。
そんな凡庸な小コレクターではあったが、それでも「同時代の作家を」、「支持することは買うことだ」との金言を胸に、とにもかくにもバッターボックスに立った上でのリザルトが今回のオークションである。空振りもしたし見逃しも多かった。ホームランが打てたとは思わないが、ポテンヒットぐらいになったものはあったと思いたい。偉大な先達たちにはエキビジョンマッチ、未来のある新人にはオープン戦程度ではあるけれど、バッターボックスに立っていただき、バットを振っていただければ幸いである。
Lot.8 荒木経惟写真集『写真私情主義』
2000年
サイン入り
Lot.9 荒木経惟「写真私情主義」より(145-6)
2000年
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ: 26.6x31.5cm
シートサイズ:28.5x35.5cm
私の一番好きな写真集は、洋書だとベロックの『ストリービル・ポートレイト』、和書では荒木経惟の『東京は、秋』である。写真のベストテンなど選びようもないが、写真集だとこの2冊がオールタイムベストである。感覚が若い作家さんについていけてないだけなのだが、この2冊が傑作であることは誰も否定しないと思う。
好きすぎて、当時は3年に2回の割合で荒木さんの個展が開かれていたイル・テンポの石原和子さんに、アジェ展をやったんですから、こんどは日本のアジェ荒木経惟の「東京は、秋」をやってくださいとお願いしたことがある。さすがに展覧会は無理だったが、それでもプリントをお願いできることになって、写真集の中でも一番好きだった「行き止まり」をお願いした。
作家にとってはいつも「最高の作品は次回作」なわけだから、どんなに愛着のある作品でも再プリントのお願いはあまりいい顔をされない。まして(今でもそうだか)次々に新しい試みをされていた当時の荒木さんには迷惑な話しだったと思う。
ブックマット・消費税サービスで11万円。さすがに後払いというわけにはいかず、前金の分割払いという情けない仕儀となった。思えば、この時点で何人かのコレクター諸氏に声をかけてくださっていたのだと思う。ある程度オーダーがまとまった時点で依頼して、可能ならギャラリーのコレクション用にも何枚かということだったのではないだろうか。
恐らくオーダーが集まらなかったのだと思う。2回目の支払が終わった時点で、「1枚だと難しいみたいだから、5枚ぐらいまとめてお願いできないかしら」との話となった。さすがにそれだけの金額は用意できないのでこの話はおじゃんとなった。思えば、定期を解約してでもお願いすればよかったのである。運命は勇者に微笑む。Faint heart never won fair lady.である。
しょんぼりと落ちこんだ意気地なしを慰めるように「荒木さんの作品はヌードから売れるの」と、今や御禁制(?)の「少女世界」シリーズ(当時でも、アメリカのコレクターから、チャイルドポルノ所持で訴追されたので、アジェやフリードランダーを扱うちゃんとしたギャラリーから購入した美術品であるという証明が欲しいというFAXが届いたりしていた)を見せてくださった。よかったら代わりにということだったのだと思う。
荒木さんは私にとっては「アッジェとかエバンスに凝って」電通を辞めて三脚を付けたペンタックス6×7にネオパンSSを詰めて街を彷徨ったシリアスフォトグラファーなので、少女には手を出さなかった(勇気が無かっただけという話もある)。
今年で開廊25周年を迎え、今や日本を代表する写真ギャラリーの一つであるタカ・イシイギャラリーは、ロサンゼルスで個人ディーラーとして活動されていた石井孝之さんが、1994年に東京・大塚の自宅を改装して開廊(地図ソフトもスマートフォンもなかった当時、辿り着くまでが大変だった)。第1回展示はラリー・クラークの「タルサ」。同年の荒木さんの個展以来、荒木さんのマザーギャラリー的なポジションで毎年個展を開催している。
私は2003年の「ARAKI BY ARAKI」展(2003/5/23~6/21)に足を運んだのだが、残念ながら「東京は、秋」からのプリントはなかった。その代わりというわけではないが、自分にとっては一番荒木さんらしい写真のように思われた「凧」をサイン入りの写真集と一緒に購入。スタッフの方にはどうしてこれ、といった顔をされてしまったが、自分には、所在なしに孤独に空に浮かぶ奴凧が、なんとはなしに荒木さんの自写像のように思われて、愛しくてならなかったからである。
Lot.10 石内 都Mother's#38「赤のリップスティック」
2005年
Type C プリント・アクリル
イメージサイズ:15.0x10.0cm
Ed.15(12/15)
The Third Gallery Ayaは1996年設立の大阪を代表する写真(映像)ギャラリー。オーナーディレクターの綾智佳さんの「若手作家が世界に発信できるようにサポートしたい」との願いのもと、積極的に若手の育成をはかっている。こちらは関西での会議や出張がないとお尋ねできないのだが、行けば必ず少なからぬ驚きと大きな刺激を受けることのできるギャラリーである。もし私に翼があったら飛んでいくのに、である。
この作品は2006年の「アートフェア東京」(東京国際フォーラム、2005/8/6~8)の際にThe Third Gallery Ayaのブースで購入したもの。当時の価格は7万円+税。なんと「ときの忘れもの」のエッセイの寄稿者のお一人でもある写真研究者小林美香さんが売り子として登場。綾さんと美香さんとスタッフさんから口々に「自信作です」「これオススメだから」「うちのオリジナルです」とのジェットストリームアタック、もとい「キャッツ・アイ」の来生三姉妹の三位一体攻撃に押し切られて、あれよあれよという間に購入申込書にサインをさせられてしまう。送られてきた納品書兼請求書に顔面蒼白となるが、その後大切に梱包され、こちらの依頼通り家人が不在の時間帯に配送されてきた現物にうっとりとなる。こういうのを「強いられた恩寵」と言うのであろう。これはクリーンヒット、自分にしたらホームランなんじゃないかと口元がゆるむ。とはいえ家人の目が怖くて部屋に飾ることはできず、ときどき箱から出して眺めるのが精一杯だった。その分状態は極めて良好である。人間万事塞翁が馬、何が幸いするかわからない。そしてそれが楽しい。この楽しみを多くの方に味わっていただければ思う。
Lot.15 大竹昭子屋上犬
1980 Printed in 2010
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:13.2x28.6cm
シートサイズ:19.4x37.7cm
Lot.16 大竹昭子猫を見る男
1980 Printed in 2010
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:13.2x28.6cm
シートサイズ:19.4x37.7cm
現在77回を数える「ときの忘れもの」の大人気エッセイ「迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす」の寄稿者であり、自分にとっては伝説の写真叢書「フォト・ミュゼ」の第一回配本、評論家のものとはひと味もふた味も違う文章と写真の本質に切り込む内容で、写真関係者に衝撃を与えた名著『眼の狩人―戦後写真家たちが描いた軌跡』(新潮社、1994;ちくま文庫、2004)の著者である大竹昭子さんのオリジナルプリント。名著『アスファルトの犬』(住まいの図書館出版局、1991)の表紙のイメージでもあり、現在は、今最も勢いのある写真集の出版元の一つである赤々舎から2012年に出版された『ニューヨーク 1980』の中に収められている。
2010年の森岡書店での写真展「NY1980」にて購入。撮影は1980年だが、印刷原稿としてではなく、展示のためにプリントされたのはこのときが初めてのはずで、その経緯は2011年の「大竹昭子のエッセイ」「レンズ通り午前零時」の中に語られている。
現在は「ときの忘れもの」の取り扱い作家であり、「ときの忘れもの」がプロデュースしたポートフォリオにも収められている。資産形成を考えれば絶対にポートフォリオの方なのだが、本人による展示のためのプリントという点ではまた別な意味と価値があるように思う。
(H)
*画廊亭主敬白
「H氏とはいったい誰なんだ」という問い合わせというか詰問が続いています。しかも<我が「ときの忘れもの」は日本を代表するというか今や世界的なプライマリーギャラリーである>なんて書かれると、「H氏とはお前なんだろう」と勘ぐられても仕方がないですね。ときの忘れものはプライマリーギャラリーなんて名乗ったことはただの一度もありませんし、プライマリーとセカンダリーの差もよくわかりません。
まあ、今回は胴元になったことへのH氏のお世辞というか、74歳になった(本日が亭主の誕生日であります)老人への労わりの言葉と思いましょう。
それにしてもH氏の蒐集談義、読み応えがあります。5回の予定でお願いしたのですが人気沸騰につき急遽7回に増やしていただきました。ぜひ熟読玩味の上、全点に入札が入ることを心より祈っております。
MORIOKA第一画廊の「一日だけの須賀敦子展」に参加するべく東京からお客様たちと盛岡に行ってきました。
よく聞き(大竹昭子さんと末盛千枝子さん)、よく歩き(建築散歩)、よく飲んだ三日間でした。疲れた体をほぐす温泉もなかなかでした。いずれレポートを掲載します。
<↓問い合わせ多数のため、大竹昭子さん写真展は4日まで開催するそうです!来週7月2日オンエアの「ほにほにラヂオ」は、その盛岡第一画廊の宇田り土さんをゲストにお迎えしますよー。(20190628/てくり木村さんのtwitterより)>
◆ときの忘れものは「H氏写真コレクション展」を開催します。
会期:2019年7月9日(火)~7月13日(土)

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
コメント