佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第35回

喫茶 野ざらしの準備について

 関西滞在の前後に、もっぱら取り組んでいるのが、東京・墨田区吾妻橋にて準備中の「喫茶 野ざらし」の工事である。前々回の投稿でも少し触れたが、そこに載せた椅子と照明器具のスケッチから、また展開してきた。
 来年1月後半頃のオープンを目指しているので、今月は佳境である。
「喫茶 野ざらし」の運営は、キュレーターの青木彬、美術家の中島晴矢両氏と共にやっていく。何らかの創作活動を行う面々が集まり、食の場を作っていこうというだいぶ背伸びをしたようなスリルが、この喫茶店の面白さかもしれない。一階は飲食を提供する喫茶店が、二階はリソグラフが置かれたシェアスタジオと、スクール(講座)を開催するイベントスペースとなるが、今はもっぱら一階の喫茶店部分の改装を進めているところだ。
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「喫茶 野ざらし」のロゴ。デザインは植田正さんによるもの。

 “野”という言葉は、実はもう何年もずっと気になっている。“野”(「の」「や」)には、1-「広々とした」という意味(原野とか)があり、また2-「ありのまま」というニュアンス(野暮とか野生とか)も含む多義語である。3-都市に対する「里」、あるいは国家に対する「民間」、つまりある秩序から遠く離れた別の存在を指す言葉として使われもする。そんな“野”という言葉の膨みが「喫茶 野ざらし」の中で溢れ出てくれば良いとも思っている。現代都市・東京で“野”はどこにあるのだろうか、あるいはどんな場所だろうか。
 私は今も引き続き、東京と福島・大玉村の行き来を続けている。いわば都と里の往復を続け、二つの距離感の有様を自分の活動の中に、「喫茶 野ざらし」の場作りの中に随所に取り込んでいる。
 今回の改装工事では、制作拠点である大玉村でいくつかの部品、素材を作り、それを東京の現場に持ち込むというやり方を随所に取り入れている。

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■大玉村で真鍮の鋳造をおこない、東京の溶接屋さんに制作してもらった鋼製扉に取り付けた。取り付けには溶接を使い、その為に丸鋼(9φ)に対して真鍮が絡まった形をしている。写真は「喫茶 野ざらし」の正面扉に取り付けたドアハンドル(4点)。

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■内壁は漆喰を塗る湿式のパネルを貼りこむ。パネルとパネルの間の目地(巾:18mm-20mm)には、大玉村で染めた柿渋と藍染めそれぞれの布を貼る。漆喰パネルは乾燥後に柿渋を塗布(した後すぐにウエス等で拭き取る)する予定。
(染めは歓藍社の渡辺未来+瀬辺茂にやってもらった)

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■客席部分に設置する、造作椅子の背もたれに取り付ける藍染めのクッション。版画用プレス機を使った生葉染めである(こちらも渡辺未来+瀬辺茂による制作)。クッションの出を気にしながら、最終的にはこのクッションを取り囲む木枠(スギ)を作り、他の背もたれ部分と寸法的な大きな段差をつけずに取り付けるものとした。

 こうした具体的な詳細検討を一つ一つこなしていくことで、喫茶店全体の設えがだんだんと浮かび上がってくる。これから家具、棚、照明器具、そして提供メニューの中身についての最終的な検討を進める予定だ。
(なお、大玉村産のコメ、野菜を使ったメニューを考えるつもり。食材は大玉村から自家用車で直送します!)


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喫茶 野ざらし
住所:東京都墨田区吾妻橋2-11-5
Twitter: https://twitter.com/cafe_nozarashi
Instagram: https://www.instagram.com/cafe_nozarashi
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さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●本日のお勧め作品は、佐藤研吾 です。
sato-17佐藤研吾 Kengo SATO
《囲い込むための距離》
2018年
紙、鉛筆、色鉛筆
32.0×54.5cm
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●訃報/中村哲先生
中村哲先生12月4日アフガニスタンで長年、農業用水路の建設など復興に携わってきた中村哲先生が銃撃され、亡くなられました。
ときの忘れものはペシャワール会への支援活動を今後も継続します。次回支援頒布会12月11日です。

みなさん、お元気ですか。
今年の夏は日本で長く過ごし、台風や集中豪雨を目の当たりにし、温暖化がアフガニスタンだけの問題でないことを実感しました。以前にも報告したように、「降雨の偏在」が共通する顕著な現象です。日本の予報は驚くほど精細で、「線状降水帯」という言葉も、広く知られるようになりましたが、おそらく類似のことがアフガニスタンでも起きています。アフガニスタンの場合は、大気中の水分の絶対量が少ないので、降水の偏在は、大部分の地域で少雨をもたらし、干ばつの危機が日常化していると言えます。
(中略)
少しずつではありますが、この「緑の大地計画」を範として、農地を回復する動きが本格化しているようです。我々としては、東部で唯一ともいえる希望の灯を護ると共に、何とかこの流れを定着させ、祈りをあわせて飢餓の現実に対処したいと思います。
重ねて、これまでの長期かつ多大なご支持に感謝申し上げます。

中村哲/ペシャワール会報No.141・2019年9月25日発行「緑の大地計画」を希望の灯に)>