小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第30回

新年あけましておめでとうございます。と書いている今日はまだクリスマス前です。そのため、このブログ、一年の締めくくり感がある内容となりますが、「あたらしい年になったんだから、あたらしい話をしろ!」というお叱りは無視して、2019年の本の話をしたいと思います。
今年も・・・いや、去年も、新刊・古本あわせて沢山の種類に触れることができました。これもひとえに日頃から応援してくださっているお客様のおかげです。とはいうものの、やはり昨今の本をめぐる厳しい環境には、なかなか変化がなく。「これは!」と思った本を、こちらの予想以上に売ることが、いっそう難しくなって参りました。
そんな中で昨年、当店でも、そして世の中でも話題になり、予想を超える刷り部数を重ねた本がございます。ルシア・ベルリン『掃除婦たちの手引き書』です。このブログで取り上げた時には、「たくさん売りたい!」と思ったものの、こんなに売れる作品になるとは・・・と驚いています。
というわけで!そんな縁起のいいこちらのブログで、2019年を振り返り、取り上げたい作品がこちらです。

写真1いしいしんじ『マリアさま』

決して売れていない訳ではありません。いや、このご時世、文芸書としては売れている方だと思います。でも、作品のすばらしさを思う時、どうしても「もっと読まれるべき!」と思ってしまいます。
古いものは2000年から、雑誌や新聞など様々な媒体に書かれたものを再編集した短編集。それぞれ単体で完結しているはずなのに、どこか繋がっているようにも感じる不思議な読み心地です。これは、ふだん短編をあまり読まない方にも、逆に「あんまり小説を読まないな・・・」という方にもおすすめしたい一冊です。

小説を読むことで、こんなに強く祈りを感じたのは初めてかもしれない。相手に届くかどうかわからない「賭け」をしながら紡がれる、いしいしんじの祈りの言葉。それはどんな呪いの言葉より強い。この作品が世に出た今、知るべきです。呪いの言葉はもう負けです。

発売された時、当店のツイッターでこんなことをつぶやきました。
「祈り」というと強い言葉ですが、この本に書かれている「祈り」は、敬虔なものでも、必死なものでもありません。言ってみれば、日常生活をただ普通に送っている人(や、すっぽん)の思いです。すっぽんが主人公になり、正岡子規が東京ドームにやってくる。そんな少し破天荒な小説で描かれるものは、まさに生きていることの歓びです。
新しい年、もしよければ、この『マリアさま』を読書はじめにしていただけると、嬉しいです。
今年も一年、どうぞよろしくお願いいたします。
おくに たかし

■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。


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◎昨日読まれたブログ(archive)/2016年07月12日|永津禎三「内間安瑆の絵画空間」
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●本日のお勧め作品は、内間安瑆です。
uchima_44内間安瑆 Ansei UCHIMA
"WINDOW NUANCE (ROSE)"
1978年
木版
イメージサイズ:30.0×22.0cm
シートサイズ:37.5×28.5cm
A.P.
サインあり
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●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。