「山田耕筰と美術」展――新たな山田耕筰に出会う
木村理恵子
日本初の本格的な作曲家として活躍した山田耕筰のことは、よくご存じだろう。山田耕筰の肖像写真を、学校の音楽室や教科書で目にした記憶もおありかと思う。「からたちの花」や「この道」など著名な歌曲から交響曲まで作曲し、日本にまだなかったオーケストラを立ち上げ、独自のオペラの創作も試み、映画音楽も手掛けた。
その山田耕筰は、音楽以外にも様々な関心をもっていたことは、意外に知られていないかもしれない。青年時代から舞踊や演劇、そして美術にも豊かな感性を示し、日本の美術家たちに影響を与えた。舞踊作品を振付から創作してもいる。
美術の世界でよく知られた出来事は、ドイツ留学から帰国した直後の1914年に、友人の斎藤佳三と一緒に、東京でドイツ美術の展覧会(デア・シュトゥルム木版画展覧会)を開催したことである。現在と違って、まだ西洋美術の実作品に触れる機会が少なかった時代で、恩地孝四郎や長谷川潔、東郷青児などの若き美術家たちは、憧れをもって山田耕筰と斎藤佳三の活動を眺めたに違いない。当時のヨーロッパのいわゆる「現代美術」を同時代的に紹介したことは、やはり画期的である。
その契機となったベルリン留学時代、特にその後半は、帰国後の山田耕筰の活動の準備期間だったといっても過言ではない。画廊デア・シュトゥルムのヘルヴァルト・ヴァルデンの自宅に招かれ、作品を預かることになったのは特筆すべきことだが、それは山田耕筰が音楽家だったからこそ実現したのではないかと考えている。ヴァルデン自身が音楽家でもあり、美術以外にも、詩や音楽、演劇など諸芸術に通じていた。ヴァルデンの自宅で大いに盛り上がったらしい会話の内容は、美術のことだけでなく、シェーンベルクなどの現代音楽の話題にも及んだだろうと想像している。
しかも、この音楽家の活躍の場は国際的な広がりを持っていた。ベルリンから帰国後も、アメリカ、ソ連、ヨーロッパなど、世界を舞台に活動した点でも、特筆に値する音楽家、文化人であった。
展覧会は、山田耕筰のベルリン留学時代から第二次世界大戦頃までの活動を6章に分けて紹介している。その幅広い活躍を跡付けるために、カタログには気鋭の研究者7名の方々に論考をお寄せいただいた。そして、展覧会会場では、山田耕筰の音楽もお聴きいただけるようにしている。是非、会場で音楽を耳にしながら、彼の創作世界を楽しんでいただければ幸いである。
《「新しき土」を作曲する山田耕筰》1937年 川喜多記念映画文化財団蔵
神原泰《スクリアビンの「エクスタシーの詩」に題す》1922年 東京国立近代美術館蔵
長谷川潔《金色に躍れる男 『假面』4巻4号のための木版》1915年 京都国立近代美術館蔵
(きむら りえこ)
■木村理恵子(きむらりえこ)
千葉県生まれ。1995年より栃木県立美術館学芸員、現在に至る。主な企画展に「ダンス! 20世紀初頭の美術と舞踊」、「エミール・ノルデ」(2004年)、「躍動する魂のきらめき 日本の表現主義」(2009年)、「石川寒巌―絵にこめられた魂」(2011年)、「没後30年 鈴木賢二展」(2018年)など。専門は、日本及びドイツを中心とする近代美術史。
●「山田耕筰と美術」
会期:2020年1月11日~3月22日
会場:栃木県立美術館


「からたちの花」や「待ちぼうけ」など、日本を代表する作曲家として、また指揮者として名高い山田耕筰(1886 –1965)は、青年時代から音楽のみならず、舞踊や演劇、そして美術に大きな関心を抱き、さまざまな美術家たちとも交遊したことが知られています。本展は、山田耕筰の美術への関心と、美術家たちの山田耕筰との共鳴に焦点を当て、この偉大な音楽家にまつわる造形芸術を広範に紹介するものです。絵画、版画、書籍、資料など約200点で構成します。
●「山田耕筰と美術」展図録はときの忘れもので扱っています。ご注文はコチラからどうぞ。
●今日のお勧め作品は、恩地孝四郎です。
恩地孝四郎 Koshiro ONCHI
《あるヴァイオリニストの印象》(諏訪根自子像)
1946年(後摺り/平井孝一)
木版
41.3×32.8cm
スタンプあり
※『恩地孝四郎版画集』掲載No.296(1975年 形象社)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
-------------------------------------------------
◎昨日読まれたブログ(archive)/2015年06月02日|高橋亨「元永定正のファニーアート」第1回 The Funny Art of Sadamasa MOTONAGA
-------------------------------------------------
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
木村理恵子
日本初の本格的な作曲家として活躍した山田耕筰のことは、よくご存じだろう。山田耕筰の肖像写真を、学校の音楽室や教科書で目にした記憶もおありかと思う。「からたちの花」や「この道」など著名な歌曲から交響曲まで作曲し、日本にまだなかったオーケストラを立ち上げ、独自のオペラの創作も試み、映画音楽も手掛けた。
その山田耕筰は、音楽以外にも様々な関心をもっていたことは、意外に知られていないかもしれない。青年時代から舞踊や演劇、そして美術にも豊かな感性を示し、日本の美術家たちに影響を与えた。舞踊作品を振付から創作してもいる。
美術の世界でよく知られた出来事は、ドイツ留学から帰国した直後の1914年に、友人の斎藤佳三と一緒に、東京でドイツ美術の展覧会(デア・シュトゥルム木版画展覧会)を開催したことである。現在と違って、まだ西洋美術の実作品に触れる機会が少なかった時代で、恩地孝四郎や長谷川潔、東郷青児などの若き美術家たちは、憧れをもって山田耕筰と斎藤佳三の活動を眺めたに違いない。当時のヨーロッパのいわゆる「現代美術」を同時代的に紹介したことは、やはり画期的である。
その契機となったベルリン留学時代、特にその後半は、帰国後の山田耕筰の活動の準備期間だったといっても過言ではない。画廊デア・シュトゥルムのヘルヴァルト・ヴァルデンの自宅に招かれ、作品を預かることになったのは特筆すべきことだが、それは山田耕筰が音楽家だったからこそ実現したのではないかと考えている。ヴァルデン自身が音楽家でもあり、美術以外にも、詩や音楽、演劇など諸芸術に通じていた。ヴァルデンの自宅で大いに盛り上がったらしい会話の内容は、美術のことだけでなく、シェーンベルクなどの現代音楽の話題にも及んだだろうと想像している。
しかも、この音楽家の活躍の場は国際的な広がりを持っていた。ベルリンから帰国後も、アメリカ、ソ連、ヨーロッパなど、世界を舞台に活動した点でも、特筆に値する音楽家、文化人であった。
展覧会は、山田耕筰のベルリン留学時代から第二次世界大戦頃までの活動を6章に分けて紹介している。その幅広い活躍を跡付けるために、カタログには気鋭の研究者7名の方々に論考をお寄せいただいた。そして、展覧会会場では、山田耕筰の音楽もお聴きいただけるようにしている。是非、会場で音楽を耳にしながら、彼の創作世界を楽しんでいただければ幸いである。
《「新しき土」を作曲する山田耕筰》1937年 川喜多記念映画文化財団蔵
神原泰《スクリアビンの「エクスタシーの詩」に題す》1922年 東京国立近代美術館蔵
長谷川潔《金色に躍れる男 『假面』4巻4号のための木版》1915年 京都国立近代美術館蔵(きむら りえこ)
■木村理恵子(きむらりえこ)
千葉県生まれ。1995年より栃木県立美術館学芸員、現在に至る。主な企画展に「ダンス! 20世紀初頭の美術と舞踊」、「エミール・ノルデ」(2004年)、「躍動する魂のきらめき 日本の表現主義」(2009年)、「石川寒巌―絵にこめられた魂」(2011年)、「没後30年 鈴木賢二展」(2018年)など。専門は、日本及びドイツを中心とする近代美術史。
●「山田耕筰と美術」
会期:2020年1月11日~3月22日
会場:栃木県立美術館


「からたちの花」や「待ちぼうけ」など、日本を代表する作曲家として、また指揮者として名高い山田耕筰(1886 –1965)は、青年時代から音楽のみならず、舞踊や演劇、そして美術に大きな関心を抱き、さまざまな美術家たちとも交遊したことが知られています。本展は、山田耕筰の美術への関心と、美術家たちの山田耕筰との共鳴に焦点を当て、この偉大な音楽家にまつわる造形芸術を広範に紹介するものです。絵画、版画、書籍、資料など約200点で構成します。
●「山田耕筰と美術」展図録はときの忘れもので扱っています。ご注文はコチラからどうぞ。
●今日のお勧め作品は、恩地孝四郎です。
恩地孝四郎 Koshiro ONCHI《あるヴァイオリニストの印象》(諏訪根自子像)
1946年(後摺り/平井孝一)
木版
41.3×32.8cm
スタンプあり
※『恩地孝四郎版画集』掲載No.296(1975年 形象社)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
-------------------------------------------------
◎昨日読まれたブログ(archive)/2015年06月02日|高橋亨「元永定正のファニーアート」第1回 The Funny Art of Sadamasa MOTONAGA
-------------------------------------------------
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
コメント