石原輝雄のエッセイ「美術館でブラパチ」─2
『拙宅でブラパチ』
『ダダメイド』、棚にサントン人形「ビクトリーヌ」
私事をいくつか---- 1月末に最初の報告をさせていただいた後、兵庫県立美術館でのコレクション展小企画『塩売りのトランク、マルセル・デュシャンの「小さな美術館」』展を拝見したいと思い、担当学芸員の方に撮影許可をお願いしていたのだが、急用が入り断念。続いて奈良県立美術館の『熱い絵画 大橋コレクションに見る戦後日本美術の力』、細見美術館の『飄々表具 ─杉本博司の表具表現世界』と計画するも会期変更、臨時休館などにみまわれ、さらに外出自粛要請、非常事態宣言で拙宅から動けない状態となってしまった。それで、昨年から追い込みに入っている「マン・レイ受容史」が進むかと云うと図書館での調べ物が出来なく難儀。諦めながら自室でネット依存症の眼精疲労に怯えつつ検索サイトの恩恵にあずかっている。──ざっさくプラスの無償提供(期間限定)や海外美術館の画像サービス、論文のPDF提供など。午後には眼を休め気分転換にカメラ片手のブラパチ健康散歩をおよそ1時間、良い季節が始まっているのに街は異常な静寂に包まれている。写欲が増すが、じっと我慢の日々、いつまで続くのだろう。
さて、このような訳でお休みしている「美術館でブラパチ」ですが、拙宅の様子を報告させていただくことで皆様への連帯の挨拶にしたいと思う。---公的な空間ではないので躊躇しています。
3月26日(木) 六角堂
4月26日(日) 中京区
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拙宅は京都市内の弱小住宅、作品を鑑賞する壁面は限られる。床の間の掛け軸なら季節を先取りするのが定石、とはいえマン・レイに季節感を求めるのは難しい。拙宅では来客の好みを考慮した展示にする事が多く、今日現在は昨年末からの設えで、メレット・オッペンハイムの展覧会ポスター(1988)と版画連作『電気魔術』(1969)を挟んで新婚旅行で求めた『プリアポスの文鎮』(1920/ca.1966)を飾っている。このお客さんは写真の研究者でお酒も楽しまれる、エロティックなものもお好きかと誘いをしてみた。デュシャン研究者の時には玄関に「大ガラス」の独身者たちと花嫁を繋ぐメカニズム部分のマン・レイ版『ボクシングマッチ』(1970)を飾った。この壁面は『MAN RAY IST』展(1983)のポスターを掛ける定位置、会話を予測し作品を選ぶのは楽しい。額に入れた見開きのジュリアン・レビュー画廊『我が愛しのオブジェ』展(1945)カタログなどはお化粧をしている感覚で、「デュシャンには薔薇だよな」とキッチンで一人見入っていた。
中央『プリアポスの文鎮』
『ボクシングマッチ』
『我が愛しのオブジェ』展カタログ、デュシャンのデザイン
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「拙宅でブラパチ」はこれまでの展示回想となるけれど、2017年の夏は水の青を連想してヴェニスのアルフォンス・シャーブ画廊が1970年に開催したグループ展『ハイテンション』の折のミクストメディア『だまし卵』(1930/1963)を使ったポスターと瓶の中で抱き合う男女を描いた版画『おやすみマン・レイ』(1972)の間に水泳帽を被ったメレット・オッペンハイムを置いた。これはツァイト・フォトサロンでの最初のマン・レイ展(1978)のもの。また、一昨年の秋、永年探したポスターを入手して展覧会「三種の神器」が揃った折には小企画「ICAのマン・レイ」としてロンドン現代美術研究所でのポスター、案内状、カタログを並べた。オリジナル作品を掛けるのも楽しいが、気楽な紙ものを気楽に掛ける、築不詳の拙宅にはこれが似合う。しばらく手を離れ、額に入ってよそいき顔をしている「愛しい物」たちの、日本までの旅路、45年の移ろいに思いを馳せる。青ベタ白抜きの筆跡再現に涙腺が緩むのはわたしだけだろうか。
夏の展示 2017年7月
小企画『ICAのマン・レイ』2018年9月
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『リスボン──都市と写真』の作者と『古巴モノクロームの午後』の写真家が揃った食事会の折にはマン・レイのデッサンの他に『青い裸体』(1970)を飾った。キッチンに近いと作品に悪影響を与えるが、蜘蛛の巣の女体は眼を虜にしてしまう。竹の子わかめ、ほうれん草と茸と菊菜のおひたし、胡瓜と蛍烏賊の酢の物から始めてスパークリング、白ワイン、日本酒と続け酒宴は5時間、友人とのバカ話には終わりがない。なのに現下の状況は人との接触が許されない。治療薬の開発、正しい恐れ、集団免疫はいつごろ獲得されるのだろう。
『青い裸体』
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今回のレポートがアップされる頃には人に笑い顔が戻り、美術館の扉が開かれているのを願う。しかし、世界はコロナ禍の前に戻る事はなく、大規模な変革、新しい価値観、覇権争いに従うバーチャルな空間にシフトする。情報は高速で往来するけれど真相は不明のままで、ある種の宗教、なったつもり、見たつもりの事象に満ちてしまうだろう。「オリジナル」に宿る精神の健康を信じる者には住みにくい。マン・レイは「画家というのはわたしたちの社会の構成員のなかで、いちばん役に立つとは言えないにしても、いちばん害の少ない人種なのです」(千葉成夫訳)と述べている。美術のもたらす希望、自由な発想、表現への声援、社会相互の思いやり。家人に守られている身には、感謝ばかりの毎日である。
「来歴とするなどおこがましい」と叱られるのは承知ながら、アップした写真に収まったマン・レイ作品を小生の連載『マン・レイへの写真日記』と紐付きにしていただけたら、親近感が増すかと思う。例えば---第5回『ダダメイド』2014.8.5、第6回『プリアポスの文鎮』2014.9.5、第8回『マン・レイになってしまった人』2014.11.5、第4回『青い裸体』2014.7.5。作品たちの日常に関心を持っていただけたら嬉しい。
『MAN RAY IST』展ポスター
3月26日(木) 青蓮院
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先月から自室にジョルジュ・ルオーの版画『流れ星のサーカス』(1938年)の一点を飾っている。裏面には南天子画廊のシール貼付、これについては別の機会に報告したい。
(いしはら てるお)
●本日のお勧め作品は宮森敬子です。
宮森敬子 Keiko MIYAMORI
“BED”
2001年 オブジェ(和紙、木炭、ベッド、植木鉢、枝、ワイヤー)
L134.6×W71.1×H58.4cm サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
臨時休廊(在宅勤務)34日目
昨日29日の社内メールより、
大番頭より: 8:56 AM おはようございます。在宅勤務を始めます。
社長返信:9:33 AM 今日は祝日! どうぞゆっくり休養してください。
大番頭より:9:40 AM え!? 今日は祝日? わ! ほんとでね!!! 休みまーす!
2005年6月13日の入社以来、このノーテンキというか明るさというか、楽天的気質が無遅刻無欠勤の副社長の美質であります。
ところで「ほんとでね」は誤記なのか、鹿児島弁なのか、まっいいか。
しかし、曜日の感覚がなくなってきました。
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2010年08月28日|ジョック・スタージス~銀塩写真の魅力
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◆ときの忘れものは新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、当面の間、臨時休廊とし、スッタフは在宅勤務しています。メールでのお問合せ、ご注文には通常通り対応しています。
◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
『拙宅でブラパチ』
『ダダメイド』、棚にサントン人形「ビクトリーヌ」私事をいくつか---- 1月末に最初の報告をさせていただいた後、兵庫県立美術館でのコレクション展小企画『塩売りのトランク、マルセル・デュシャンの「小さな美術館」』展を拝見したいと思い、担当学芸員の方に撮影許可をお願いしていたのだが、急用が入り断念。続いて奈良県立美術館の『熱い絵画 大橋コレクションに見る戦後日本美術の力』、細見美術館の『飄々表具 ─杉本博司の表具表現世界』と計画するも会期変更、臨時休館などにみまわれ、さらに外出自粛要請、非常事態宣言で拙宅から動けない状態となってしまった。それで、昨年から追い込みに入っている「マン・レイ受容史」が進むかと云うと図書館での調べ物が出来なく難儀。諦めながら自室でネット依存症の眼精疲労に怯えつつ検索サイトの恩恵にあずかっている。──ざっさくプラスの無償提供(期間限定)や海外美術館の画像サービス、論文のPDF提供など。午後には眼を休め気分転換にカメラ片手のブラパチ健康散歩をおよそ1時間、良い季節が始まっているのに街は異常な静寂に包まれている。写欲が増すが、じっと我慢の日々、いつまで続くのだろう。
さて、このような訳でお休みしている「美術館でブラパチ」ですが、拙宅の様子を報告させていただくことで皆様への連帯の挨拶にしたいと思う。---公的な空間ではないので躊躇しています。
3月26日(木) 六角堂
4月26日(日) 中京区---
拙宅は京都市内の弱小住宅、作品を鑑賞する壁面は限られる。床の間の掛け軸なら季節を先取りするのが定石、とはいえマン・レイに季節感を求めるのは難しい。拙宅では来客の好みを考慮した展示にする事が多く、今日現在は昨年末からの設えで、メレット・オッペンハイムの展覧会ポスター(1988)と版画連作『電気魔術』(1969)を挟んで新婚旅行で求めた『プリアポスの文鎮』(1920/ca.1966)を飾っている。このお客さんは写真の研究者でお酒も楽しまれる、エロティックなものもお好きかと誘いをしてみた。デュシャン研究者の時には玄関に「大ガラス」の独身者たちと花嫁を繋ぐメカニズム部分のマン・レイ版『ボクシングマッチ』(1970)を飾った。この壁面は『MAN RAY IST』展(1983)のポスターを掛ける定位置、会話を予測し作品を選ぶのは楽しい。額に入れた見開きのジュリアン・レビュー画廊『我が愛しのオブジェ』展(1945)カタログなどはお化粧をしている感覚で、「デュシャンには薔薇だよな」とキッチンで一人見入っていた。
中央『プリアポスの文鎮』
『ボクシングマッチ』
『我が愛しのオブジェ』展カタログ、デュシャンのデザイン---
「拙宅でブラパチ」はこれまでの展示回想となるけれど、2017年の夏は水の青を連想してヴェニスのアルフォンス・シャーブ画廊が1970年に開催したグループ展『ハイテンション』の折のミクストメディア『だまし卵』(1930/1963)を使ったポスターと瓶の中で抱き合う男女を描いた版画『おやすみマン・レイ』(1972)の間に水泳帽を被ったメレット・オッペンハイムを置いた。これはツァイト・フォトサロンでの最初のマン・レイ展(1978)のもの。また、一昨年の秋、永年探したポスターを入手して展覧会「三種の神器」が揃った折には小企画「ICAのマン・レイ」としてロンドン現代美術研究所でのポスター、案内状、カタログを並べた。オリジナル作品を掛けるのも楽しいが、気楽な紙ものを気楽に掛ける、築不詳の拙宅にはこれが似合う。しばらく手を離れ、額に入ってよそいき顔をしている「愛しい物」たちの、日本までの旅路、45年の移ろいに思いを馳せる。青ベタ白抜きの筆跡再現に涙腺が緩むのはわたしだけだろうか。
夏の展示 2017年7月
小企画『ICAのマン・レイ』2018年9月---
『リスボン──都市と写真』の作者と『古巴モノクロームの午後』の写真家が揃った食事会の折にはマン・レイのデッサンの他に『青い裸体』(1970)を飾った。キッチンに近いと作品に悪影響を与えるが、蜘蛛の巣の女体は眼を虜にしてしまう。竹の子わかめ、ほうれん草と茸と菊菜のおひたし、胡瓜と蛍烏賊の酢の物から始めてスパークリング、白ワイン、日本酒と続け酒宴は5時間、友人とのバカ話には終わりがない。なのに現下の状況は人との接触が許されない。治療薬の開発、正しい恐れ、集団免疫はいつごろ獲得されるのだろう。
『青い裸体』---
今回のレポートがアップされる頃には人に笑い顔が戻り、美術館の扉が開かれているのを願う。しかし、世界はコロナ禍の前に戻る事はなく、大規模な変革、新しい価値観、覇権争いに従うバーチャルな空間にシフトする。情報は高速で往来するけれど真相は不明のままで、ある種の宗教、なったつもり、見たつもりの事象に満ちてしまうだろう。「オリジナル」に宿る精神の健康を信じる者には住みにくい。マン・レイは「画家というのはわたしたちの社会の構成員のなかで、いちばん役に立つとは言えないにしても、いちばん害の少ない人種なのです」(千葉成夫訳)と述べている。美術のもたらす希望、自由な発想、表現への声援、社会相互の思いやり。家人に守られている身には、感謝ばかりの毎日である。
「来歴とするなどおこがましい」と叱られるのは承知ながら、アップした写真に収まったマン・レイ作品を小生の連載『マン・レイへの写真日記』と紐付きにしていただけたら、親近感が増すかと思う。例えば---第5回『ダダメイド』2014.8.5、第6回『プリアポスの文鎮』2014.9.5、第8回『マン・レイになってしまった人』2014.11.5、第4回『青い裸体』2014.7.5。作品たちの日常に関心を持っていただけたら嬉しい。
『MAN RAY IST』展ポスター
3月26日(木) 青蓮院---
先月から自室にジョルジュ・ルオーの版画『流れ星のサーカス』(1938年)の一点を飾っている。裏面には南天子画廊のシール貼付、これについては別の機会に報告したい。
(いしはら てるお)
●本日のお勧め作品は宮森敬子です。
宮森敬子 Keiko MIYAMORI “BED”
2001年 オブジェ(和紙、木炭、ベッド、植木鉢、枝、ワイヤー)
L134.6×W71.1×H58.4cm サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
臨時休廊(在宅勤務)34日目
昨日29日の社内メールより、
大番頭より: 8:56 AM おはようございます。在宅勤務を始めます。
社長返信:9:33 AM 今日は祝日! どうぞゆっくり休養してください。
大番頭より:9:40 AM え!? 今日は祝日? わ! ほんとでね!!! 休みまーす!
2005年6月13日の入社以来、このノーテンキというか明るさというか、楽天的気質が無遅刻無欠勤の副社長の美質であります。
ところで「ほんとでね」は誤記なのか、鹿児島弁なのか、まっいいか。
しかし、曜日の感覚がなくなってきました。
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2010年08月28日|ジョック・スタージス~銀塩写真の魅力
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◆ときの忘れものは新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、当面の間、臨時休廊とし、スッタフは在宅勤務しています。メールでのお問合せ、ご注文には通常通り対応しています。
◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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