小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第36回

「昭和2年~18年まで、現在の長崎市片淵にあった伝説の『響写真館』。バラのアーチをくぐり、ツタが絡まるモダンな洋館で記念撮影をすることは、当時の女学生たちの憧れであった。」
https://imaonline.jp/news/exhibition/20161213-3/ より)

市場で一冊の卒業アルバムを手に入れました。ほかの卒業アルバムや、戦前の財界・商業史的な本が束になった口で、ボロボロになった革につつまれた、やや厚手の一冊が気になり、束をほどいて中をのぞくと、そこにはモダニズムの匂いを感じさせる、素晴らしいレイアウトと写真の数々。巻末には、「写真館響 謹写」とあります。

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長崎市の写真館ということもあり、おそらく原爆による被害は免れなかっただろう。ということは、このアルバムの写真の中にも貴重なものもあるに違いない。さらに、この美しいレイアウトと写真のすばらしさは、きっと力のある写真家が作ったものだろう、とは思ったものの、「写真館響」については、無事落札したあとに調べ始めました。

この写真館については、こちらのときの忘れものさんのブログのほか、数年前に開催された展示、そしてその時に刊行された書籍『長崎 幻の響写真館 井出傳次郎と八人兄妹物語』(昭和堂)により、詳しく知ることができます。
今回は、手に入れた響写真館製作の「長崎商業高校 昭和四年三月 卒業アルバム」をじっくり堪能していただきたい、と思います。

まずは表紙。
ボロボロになってはいますが、とても触り心地のよいビロードの上にはかすかに「SOUVENIR(スーヴェニア)」の文字がみえます。

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中を見ていくと、校舎の写真や図書館の写真の合間に、これが響写真館の特徴のひとつかもしれませんが、ピントのぼかしがとても印象的な美しい写真がカットのように挿入されます。

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そして、白黒写真の中で、アクセントとなるような「色付き」の写真。

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このページ以外にも、ところどころに色付きのページを挟み込むなど、一冊の「本」としてのこだわりを感じさせるつくりです。
そして、当時の学生生活を垣間見せるこんなページも。食べているのは「皿ウドン」!

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このアルバムで忘れてはいけないのは、写真に添えられる言葉。
長崎で浸透した中国文化の中から生まれた「九連環」の詞を添えたこんな写真も印象的です。

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「おらんだ坂」を写したこの写真は、ため息が出るほど美しい。

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編集後記では、「響写真館」の主への感謝の言葉も綴られます。

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いかがでしょうか?店頭にて、ぜひ実物もご覧になってください。そんなに簡単には売れないような(かといって高すぎもしない!)価格にいたしますが、売れてしまった時は、ごめんなさい。
ほかにもいくつか印象的なページを残しておきます。
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おくに たかし

小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。

■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。


●本日のお勧め作品は細江英公です。
takiguchi細江英公 Eikoh HOSOE 《瀧口修造》
ゼラチンシルバープリント
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*画廊亭主敬白
熊本県球磨川の氾濫で球磨村渡の特別養護老人ホーム「千寿園」で入所者14人が心肺停止になったという悲しいニュースが入ってきました。
コロナウイルス禍で参っている上に、またも熊本を襲った自然災害の恐ろしさに胸が痛みます。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
ここ数年の気候の激しさは尋常ではありません。ただただ皆様の無事と安全を祈るばかりです。

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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