柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」第21回
神保町で見つけた、ジャンヌ=クロードの思いで。
本にまつわる、クリストとジャンヌ=クロードとの思いで、今回で3回目になりますが・・・最近、とても懐かしいものを手に入れましたので、今回はその本のことを。
1991-2年に出された大型本のダミー(試作版)で、ほぼ30年前のことを色々と思いださせてくれました。大型本というのは、 Accordion-Fold Book for the Umbrellas: Joint Project for Japan and U.S.A.で、サンフランシスコのベッドフォードアーツという出版社が製作しました。アコーディオン・フォールド=アコーディオンの蛇腹のように折れた本、つまり、日本で言う経本折の本のことです。といっても、この本は大判で、約35×28センチのパネル(頁)が8枚続き、広げると2.5メートル以上になります。
この形式の本は、それまでにもサンフランシスコのパノラマ写真を使ったものが出版されていました。その制作を担当した編集者から当時進行中だったアンブレラ・プロジェクトをテーマにしたものを出したいという打診があったと記憶しています。編集者は、広げると一つの大きな絵になるような形を考えていたのかもしれません。しかし、クリストとジャンヌ=クロードの提案は、一つのパネルに1枚のドローイング作品を原寸大で印刷し、広げると7作品が横並びになるものでした。片面は日本側の青色、片面はアメリカ側の黄色とするのもクリスト側の提案だったと思います。


イメージだけでなく文章もということで、私にインタビュー記事の依頼があったことから、ダミー本を見ながらの打ち合わせにも同席したわけです。90年か91年、クリストとジャンヌ=クロードのリビングルームでした。
図版のページ、つまりパネルのページのレイアウトは、すでに決まっていて、カラーの複製画が連なるダミー本が出来上がっていました。ですので、打ち合わせは、「プロジェクトのプレスリリース」、「クリストの略歴」、「インタビュー記事」など文章についてだったと思います。話をしながら、決まったことをジャンヌ=クロードがダミーの上に鉛筆で書きこんでいきました・・・「ここにプレスリリース」、「ここにmasaの文章」といった具合です。ジャンヌ=クロードの特徴的な手書き文字は、本当に懐かしいものです。

このアコーディオン本に関する打ち合わせはその時一回だけでしたが、その後、しばらくの間は、編集者の人とファックスのやり取りをしたと思います。実は編集者と出版社のあいだでトラブルがあり、当初の予定よりもだいぶ遅れて、別の出版社から発行されたのを覚えています。
私がこのダミーを入手したのは、神田神保町の古書店からです。なぜ日本にあったのか?・・・実はこの本、日本で印刷、製本されたのでした。本来なら出版社に返却されるべきなのでしょうが、まあよくあることです。
表紙にも2作品がプリントされているので、合計で16枚になるドローイング作品ですが、この本のためにクリストがセットとして描いた“新作”だったと聞いた記憶があります。といっても、30年前のことで確信はなく、今となっては確認することはできません。ただ、本の上だけではなく、ドローイング自体もセットのまま分散させたくないという意向があったのは間違いありません。アンブレラが実現した少し後に、日本の画商さんを通して、関西の美術館が購入という話が出ましたが、実現には至りませんでした。しかしその数年後、16点はそろってワイントン・ナショナル・ギャラリーに収まることになりました。
蛇足かもしれませんが、私の書いたインタビュー記事は、3ページと短いものでしたが、一応、内表紙や帯には、Masahiko Yanagi と記されています。それまでにも日英併記という形での英文のテキストの出版はありましたが、英語だけの出版は、この本が初めてでした。


(やなぎ まさひこ)
■柳正彦 Masahiko YANAGI
東京都出身。大学卒業後、1981年よりニューヨーク在住。ニュー・スクール・フォー・ソシアル・リサーチ大学院修士課程終了。在学中より、美術・デザイン関係誌への執筆、展覧会企画、コーディネートを行う。1980年代中頃から、クリストとジャンヌ=クロードのスタッフとして「アンブレラ」「包まれたライヒスターク」「ゲート」「オーバー・ザ・リバー」「マスタバ」の準備、実現に深くかかわっている。また二人の日本での展覧会、講演会のコーディネート、メディア対応の窓口も勤めている。
2016年秋、水戸芸術館で開催された「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」も柳さんがスタッフとして尽力されました。
●柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」は毎月20日の更新です。
◆「ジョナス・メカス展」は終了しましたが、WEB展はユーチューブでご覧いただけます。
展示作品・風景紹介
メカス日本日記の会・木下哲夫さん 特別インタビュー〈ジョナス・メカスとの40年〉
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
神保町で見つけた、ジャンヌ=クロードの思いで。
本にまつわる、クリストとジャンヌ=クロードとの思いで、今回で3回目になりますが・・・最近、とても懐かしいものを手に入れましたので、今回はその本のことを。
1991-2年に出された大型本のダミー(試作版)で、ほぼ30年前のことを色々と思いださせてくれました。大型本というのは、 Accordion-Fold Book for the Umbrellas: Joint Project for Japan and U.S.A.で、サンフランシスコのベッドフォードアーツという出版社が製作しました。アコーディオン・フォールド=アコーディオンの蛇腹のように折れた本、つまり、日本で言う経本折の本のことです。といっても、この本は大判で、約35×28センチのパネル(頁)が8枚続き、広げると2.5メートル以上になります。
この形式の本は、それまでにもサンフランシスコのパノラマ写真を使ったものが出版されていました。その制作を担当した編集者から当時進行中だったアンブレラ・プロジェクトをテーマにしたものを出したいという打診があったと記憶しています。編集者は、広げると一つの大きな絵になるような形を考えていたのかもしれません。しかし、クリストとジャンヌ=クロードの提案は、一つのパネルに1枚のドローイング作品を原寸大で印刷し、広げると7作品が横並びになるものでした。片面は日本側の青色、片面はアメリカ側の黄色とするのもクリスト側の提案だったと思います。


イメージだけでなく文章もということで、私にインタビュー記事の依頼があったことから、ダミー本を見ながらの打ち合わせにも同席したわけです。90年か91年、クリストとジャンヌ=クロードのリビングルームでした。
図版のページ、つまりパネルのページのレイアウトは、すでに決まっていて、カラーの複製画が連なるダミー本が出来上がっていました。ですので、打ち合わせは、「プロジェクトのプレスリリース」、「クリストの略歴」、「インタビュー記事」など文章についてだったと思います。話をしながら、決まったことをジャンヌ=クロードがダミーの上に鉛筆で書きこんでいきました・・・「ここにプレスリリース」、「ここにmasaの文章」といった具合です。ジャンヌ=クロードの特徴的な手書き文字は、本当に懐かしいものです。

このアコーディオン本に関する打ち合わせはその時一回だけでしたが、その後、しばらくの間は、編集者の人とファックスのやり取りをしたと思います。実は編集者と出版社のあいだでトラブルがあり、当初の予定よりもだいぶ遅れて、別の出版社から発行されたのを覚えています。
私がこのダミーを入手したのは、神田神保町の古書店からです。なぜ日本にあったのか?・・・実はこの本、日本で印刷、製本されたのでした。本来なら出版社に返却されるべきなのでしょうが、まあよくあることです。
表紙にも2作品がプリントされているので、合計で16枚になるドローイング作品ですが、この本のためにクリストがセットとして描いた“新作”だったと聞いた記憶があります。といっても、30年前のことで確信はなく、今となっては確認することはできません。ただ、本の上だけではなく、ドローイング自体もセットのまま分散させたくないという意向があったのは間違いありません。アンブレラが実現した少し後に、日本の画商さんを通して、関西の美術館が購入という話が出ましたが、実現には至りませんでした。しかしその数年後、16点はそろってワイントン・ナショナル・ギャラリーに収まることになりました。
蛇足かもしれませんが、私の書いたインタビュー記事は、3ページと短いものでしたが、一応、内表紙や帯には、Masahiko Yanagi と記されています。それまでにも日英併記という形での英文のテキストの出版はありましたが、英語だけの出版は、この本が初めてでした。


(やなぎ まさひこ)
■柳正彦 Masahiko YANAGI
東京都出身。大学卒業後、1981年よりニューヨーク在住。ニュー・スクール・フォー・ソシアル・リサーチ大学院修士課程終了。在学中より、美術・デザイン関係誌への執筆、展覧会企画、コーディネートを行う。1980年代中頃から、クリストとジャンヌ=クロードのスタッフとして「アンブレラ」「包まれたライヒスターク」「ゲート」「オーバー・ザ・リバー」「マスタバ」の準備、実現に深くかかわっている。また二人の日本での展覧会、講演会のコーディネート、メディア対応の窓口も勤めている。
2016年秋、水戸芸術館で開催された「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」も柳さんがスタッフとして尽力されました。
●柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」は毎月20日の更新です。
◆「ジョナス・メカス展」は終了しましたが、WEB展はユーチューブでご覧いただけます。
展示作品・風景紹介
メカス日本日記の会・木下哲夫さん 特別インタビュー〈ジョナス・メカスとの40年〉
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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