佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第50回
移動について
先月の中頃、「ゴロゴロ・イドー会議」なるイベントをオンラインで開催した。
およそ13-15人程度の方々が集まってくださり、こじんまりと、故になかなか濃密な話し合いができた。当初は、私が今いる福島県大玉村に何人かを呼んで会議を開催しようと考えていたが、昨今の状況を鑑みてその形式は見送ることにし、オンライン開催となった。イドー=移動会議と銘打っていたのに移動できない、というのはなんとも残念であったが、逆に「移動することとは何か」の原理に立ち返る機会にもなりそうで、次回のために取っておこう、という心持ちである。なお、会議の記録は小冊子にて刊行予定で、数に限りがあるが手に入れたい方はぜひご連絡いただきたい。

会を開催し、登壇者だけではなく参加者も自分の言葉で移動について話しているのを聞いて、ああこんなにも移動とはそれぞれの生活にとってとても根源的でありながら身近なことで、自分の移動について話すことは簡単なことなのだな、と改めて思った。もちろん移動には様々なスケールがあるだろう。朝起きて、ベッドから出て、歩いて廊下を抜けてコーヒーを淹れにキッチンへ行くのも、移動だ。そして、都会で働いて、何かを思い立ち、生きる希望と不安を抱えて自然に囲まれた古民家に引っ越してみる、それも移動。今日は東京、明日は上海、来週はパリ、、飛ぶ鳥よりも早く世界中を動き回る、それも移動。そんな、いろいろなスケールを一緒くたにすることはできないが、ちょっとした小さな移動と大きな移動が組み合わさってそれぞれの生活が成り立っているようにも思えるし、大小さまざまな移動の在り方にはそれこそ地続きに相互に連関しているとも直観している。そしてそんないくつかの移動の組み合わせによって私たちの輪郭は絶えず更新し、だんだんと自分たち自身の質を変化させていっているのだと思う。
建築の設計、建築を作るという仕事は、やはり現場が世界中に散らばっていることがとても良い。自分が住んでいる町の歩いていける現場もあれば、遠く離れた場所に飛行機や列車を乗り継いで二日くらいかけてやっとたどり着く現場もある。もちろん情報技術が高度なものになればなるほど、わざわざ移動の手間をかけずに物事が進むようになるだろうが、移動の経験自体が自分にとって大きな意味があると考えるならば、やはり、移動をどのように自分の生活に位置付けていくかが重要になってくる。けれども移動が自分にとって価値があるかどうかがわかるのは、もちろん移動してみなければ分からない。あくまでも移動はどこか目的地へ行くための行為であり、移動自体が目的化することはなかなか無いからだ(散歩、逍遥はちょっと違うかもしれない)。なので分からないままに、自分の移動を試みなければならない。つまりどうにかして、最初の一歩を踏み出さなければならないのだが、それがなかなかに大変なことなのである。
今年、来年の開催に向けて準備している展示の主題は、やはり移動である。それは前回のときの忘れものでの展示「囲い込みとお節介」から続く主題である。「囲い込みとお節介」では、持ち運ぶ、動くハコ作りを試みた。東京と福島の間を往還する移動生活の中でどのようにハコを作るかの工程から組み立て、またハコの中には写真機という機能を与え、展示ではかなり重要なもう一つのメディア(写真)を得た。今回も、写真表現も試みつつ、何らかの動くハコ群を準備中である。おそらく今年の前半は福島と秋田の間を往復することが多くなりそうで、その移動の成果がハコの中に込められればとも企んでいる。
(少し前のスケッチだが、動くハコについての構想。今はもう少し考えが進んでいる。)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。
現在、福島県大玉村教育委員会地域おこし協力隊。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」第4回を掲載しました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。
塩見允枝子先生には11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。2月28日には第4回目の特別頒布会を開催しました。お気軽にお問い合わせください。
●東京・天王洲アイルの寺田倉庫 WHAT で「謳う建築」展が5月30日(日)まで開催され、佐藤研吾が出品しています。
●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
移動について
先月の中頃、「ゴロゴロ・イドー会議」なるイベントをオンラインで開催した。
およそ13-15人程度の方々が集まってくださり、こじんまりと、故になかなか濃密な話し合いができた。当初は、私が今いる福島県大玉村に何人かを呼んで会議を開催しようと考えていたが、昨今の状況を鑑みてその形式は見送ることにし、オンライン開催となった。イドー=移動会議と銘打っていたのに移動できない、というのはなんとも残念であったが、逆に「移動することとは何か」の原理に立ち返る機会にもなりそうで、次回のために取っておこう、という心持ちである。なお、会議の記録は小冊子にて刊行予定で、数に限りがあるが手に入れたい方はぜひご連絡いただきたい。

会を開催し、登壇者だけではなく参加者も自分の言葉で移動について話しているのを聞いて、ああこんなにも移動とはそれぞれの生活にとってとても根源的でありながら身近なことで、自分の移動について話すことは簡単なことなのだな、と改めて思った。もちろん移動には様々なスケールがあるだろう。朝起きて、ベッドから出て、歩いて廊下を抜けてコーヒーを淹れにキッチンへ行くのも、移動だ。そして、都会で働いて、何かを思い立ち、生きる希望と不安を抱えて自然に囲まれた古民家に引っ越してみる、それも移動。今日は東京、明日は上海、来週はパリ、、飛ぶ鳥よりも早く世界中を動き回る、それも移動。そんな、いろいろなスケールを一緒くたにすることはできないが、ちょっとした小さな移動と大きな移動が組み合わさってそれぞれの生活が成り立っているようにも思えるし、大小さまざまな移動の在り方にはそれこそ地続きに相互に連関しているとも直観している。そしてそんないくつかの移動の組み合わせによって私たちの輪郭は絶えず更新し、だんだんと自分たち自身の質を変化させていっているのだと思う。
建築の設計、建築を作るという仕事は、やはり現場が世界中に散らばっていることがとても良い。自分が住んでいる町の歩いていける現場もあれば、遠く離れた場所に飛行機や列車を乗り継いで二日くらいかけてやっとたどり着く現場もある。もちろん情報技術が高度なものになればなるほど、わざわざ移動の手間をかけずに物事が進むようになるだろうが、移動の経験自体が自分にとって大きな意味があると考えるならば、やはり、移動をどのように自分の生活に位置付けていくかが重要になってくる。けれども移動が自分にとって価値があるかどうかがわかるのは、もちろん移動してみなければ分からない。あくまでも移動はどこか目的地へ行くための行為であり、移動自体が目的化することはなかなか無いからだ(散歩、逍遥はちょっと違うかもしれない)。なので分からないままに、自分の移動を試みなければならない。つまりどうにかして、最初の一歩を踏み出さなければならないのだが、それがなかなかに大変なことなのである。
今年、来年の開催に向けて準備している展示の主題は、やはり移動である。それは前回のときの忘れものでの展示「囲い込みとお節介」から続く主題である。「囲い込みとお節介」では、持ち運ぶ、動くハコ作りを試みた。東京と福島の間を往還する移動生活の中でどのようにハコを作るかの工程から組み立て、またハコの中には写真機という機能を与え、展示ではかなり重要なもう一つのメディア(写真)を得た。今回も、写真表現も試みつつ、何らかの動くハコ群を準備中である。おそらく今年の前半は福島と秋田の間を往復することが多くなりそうで、その移動の成果がハコの中に込められればとも企んでいる。
(少し前のスケッチだが、動くハコについての構想。今はもう少し考えが進んでいる。)(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。
現在、福島県大玉村教育委員会地域おこし協力隊。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」第4回を掲載しました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。
塩見允枝子先生には11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。2月28日には第4回目の特別頒布会を開催しました。お気軽にお問い合わせください。●東京・天王洲アイルの寺田倉庫 WHAT で「謳う建築」展が5月30日(日)まで開催され、佐藤研吾が出品しています。
●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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