緊急事態宣言によって、ときの忘れものでの私の個展の会期が変更になり、5月27日まで開催中です。
お出掛けにくい中、見に来てくださった方々には、大変感謝しています。
また、お越しいただけない方にも、Web展でYouTubeの映像とリモートインタビューをご覧いただけますので、ぜひご覧くださいます様お願いします。
吉原英里
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吉原英里のエッセイ「不在の部屋」第9回

ミラノでの個展 2000年


今、ときの忘れもので開催中の個展にも出品している、ペインティングと版画を使ったミクストメディアの作品のスタイルが始まるきっかけに、あるエピソードがあります。今回は、その出自についてお話したいと思います。

202105吉原英里_12000年 Fondazione MudimaのDM

前にもお話ししましたが、1983年銅版画からスタートした私が、86年には額装版画を組み込んだペインティングと実物のインスタレーション、80年代後半はドローイングとコラージュ、90年代初めにはドローイングとアクリル板を重ね層にした絵画というように、銅版画とそれ以外の直接的表現の間を揺れ動いて来ました。それでも他人から見れば基軸は銅版画で、自分自身も「何をやっても私は版画家だと言われるんだな」と諦めの気持ちでいた頃、イタリア、ミラノの画廊から、版画での個展のお話を頂きました。やっぱり私は版画なのか・・・と半ば諦めの気分もありましたが、2000年の初めに開催予定と言われたら、とてもキリがいいし、何度か訪れたことのある憧れのギャラリー、Fondazione Mudimaからのお話でしたし、同時に、ボローニャのアートフェアーにも出してくれるというので、有り難く引き受けました。当然、ほとんどの観客が私の作品を初めて見るのですが、反応は国が違っても大体同じで、人気のある作品もほぼ違いがなかったと思います。

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Fondazione Mudima 個展会場風景1月24日

一人のスロベニアの版画家が、《The Abbey Court Hotel》を指差して、「この作品はどこかで見たことがあるよ」と話しかけてくれて、後日「やっぱりリュブリアナ国際版画ビエンナーレで見た」と1997年の図録を持って来てくれました。とても嬉しかったです。

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オープニングパーティー1月24日

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オープニングパーティー1月24日(右)左端が筆者

10ヶ月後清算のためにミラノに行くと大きな作品の裏に、少しダメージがありました。額装をする時の両面テープの粘着力が強力すぎたのです。そういえば、取り扱ってもらっていた日本のギャラリーで、「ミラノで個展して来ます。」と報告した時、「ヨーロッパの版画の紙の扱いは酷いから気を付けなさい。」と言われたことを思い出したましたが、時すでに遅し。
帰りの飛行機の中で、「イタリアで発表するならもっと強い支持体で作らなきゃいけないな。いよいよキャンバスに油彩という王道しかないか」と思いながら帰国して、ペインティングを始めました。けれどなかなか出口が見つからず、何度も描いてはやめしているうちに、私には王道のペインティングは無理かも知れないと追い込まれていきました。

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ボローニャ アートフェアー 2000年1月27日~31日

最終的に、「どうせ無理なら一度、版画でやって来たことをそのままタブローに翻訳してみよう」と始めたのが2001年から発表し始めたペインティング「My Bookシリーズ」です。寒冷紗やカシューなどの異素材を使って、画中画のかたちを借りてノートや本の中のイメージと現実のモチーフを組み合わせていました。ノートの中に描かれたものとモチーフになった物が一つのリズムを作り、虚と実の間を行き来する空間を生み出す方法です。本や、ノートの中の世界と、周りのペインティングとのギャップを出したいと思って、日本画の様に面相やスクラッチで細い線描をしていたのですが、そのシリーズを始めて一年程経った頃、版画を使ってみました。いくらギャップを生もうと思って素材を変えていても同じ右手で筆の表現だと、線と面の違いがあっても思ったほどに異質感が生まれなかったのに、ノートのページの部分に銅版画をはめ込むことで、周りの絵の具の世界とは全く違う空間が生まれたのです。これは、版画を使うしかない!と気づきました。この時期の作品のうちの一点が2002年に番町画廊の個展で発表した《My sketch bookD-1》で、「文化庁平成14年度優秀美術作品買い上げ」に選ばれました。
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《Peaches》2002年作 ミクストメディア 個人蔵

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《My sketch book D-1》2002年作 ミクストメディア 文化庁蔵

少しずつ評価もされる様になり、自身も絵画の中にもう一つ違う空間が生まれる面白さに没頭していきました。二次元でしか遊べない空間の面白さを見つけていきたい、という風に始まったスタイルです。私にとってはこの方法が最新に編み出したものなのですが、意外にも約20年も続いているのです。そこから少しずつ発見と冒険と変化を続けながらまだまだ飽きずに、この方法の中でやりたいことが出て来ています。
よしはら えり

吉原英里 Eri YOSHIHARA
1959年大阪に生まれる。1983年嵯峨美術短期大学版画専攻科修了。
1983年から帽子やティーカップ、ワインの瓶など身近なものをモチーフに、独自の「ラミネート技法」で銅版画を制作。2003年文化庁平成14年度優秀作品買上。2018年「ニュー・ウェイブ現代美術の80年代」展 国立国際美術館、大阪。

作品集のご案内
1577262046841『不在の部屋』吉原英里作品集 1983‐2016
1980年代から現在までのエッチング、インスタレーション、ドローイング作品120点を収録。日英2か国語。サインあり。
著者:吉原英里
執筆:横山勝彦、江上ゆか、植島啓司、平田剛志
翻訳:クリストファー・スティヴンズ
デザイン:西岡勉
発行:ギャラリーモーニング
印刷、製本:株式会社サンエムカラー
定価:3,800円(税込)
*ときの忘れもので扱っています。

●本日のお勧め作品は吉原英里です。
yoshihara_01吉原英里 YOSHIHARA Eri
「ケリーのノート・アボカド」
2010年
ミクストメディア
72.7×60.6cm(20号F)
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

「吉原英里展―不在の部屋-2021」開催中(予約制/WEB展)
会期=2021年5月12日(水)~5月27日(木)*日・月・祝日は休廊
※観覧をご希望の方は事前にメールまたは電話にてご予約ください。
329_a1984年の初個展で華々しいデビューを飾った吉原英里は、帽子やティーカップ、ワインの瓶など身近なものをモチーフに、独自の「ラミネート技法」で銅版画制作を始めました。その後、インスタレーションへと展開し、版画とペインティングを融合したミクストメディアなどの発表を行なっています。本展では、新作のミクストメディアからラミネート技法をつかった銅版画など、約13点をご覧いただきます。出品作品の詳細と価格は5月8日ブログに掲載しました。また版画作品については5月16日ブログに価格とともに掲載しています。
●YouTubeにて『吉原英里展-不在の部屋-2021 作家インタビュー』公開中です


和歌山県立近代美術館で7月4日まで「コレクション展 2021-春」が開催中。菅井汲元永定正吉原英里などが展示されています。

●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。