佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第53回

秋の宮での滞在制作

秋田の秋の宮にて、数日間滞在制作を行った。念のため、民間PCR検査にて陰性証明を得た上での実施。最近、名乗っている「コロガロウ」という屋号のようになかなか自由にゴロゴロ移動できないのがもどかしいが、仕方がない。滞在の目的は大きく2つか3つ。この滞在に向けて制作した写真機(700mm立方)で秋の宮の山の風景を撮影すること。友人のマタギである橋本くんに山に連れて行ってもらうこと(タケノコ採り)。それらを踏まえて、橋本くんの架空(ユメ)のイエを構想すること。そんな異なる頭と体の使い方を同居させるにはやはり、半ば合宿式の滞在制作が適していた。

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(写真のネガ)

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(山を撮影する様子。手前の木箱が制作したピンホールカメラ)

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(現場にて、撮影した印画紙の現像作業を行う必要があるので、組み立て式の暗室を併せて制作した。写真は組み立て中の様子。)

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(連れて行ってもらった山の様子。根曲がり竹が群生する茂みから。)

山の写真撮影は、2年前にときの忘れものの展示にて制作した木製写真機を使った方法と同じである。ただ、2年前は300mm立方だったハコを、今回は700mm立方に大型化させた。撮影時間は、晴れた日中でおよそ30分程度である。
撮影する山は、友人の橋本くんが日々入っている山である。そこで春は山菜、夏はイワナ、秋はキノコ、そして冬はクマをとる。いわゆるマタギの人々が山を見つめるその解像度と奥行きは、自分の想像をはるかに超えてくる。山自体の営みというか、日に日に変化していく風景の筋道を体で感じることができる人たちだ。そんな彼らが見る山をどのように捉え、表現するか、の試行錯誤が、この写真機を使った撮影であった。
そして、停泊している旅館(太郎兵衛さん)の一角をお借りして、撮影した山の風景の模型化を試みた。ちょうど雨が降り、川が増水して流木が沢山あり、また山の落ち枝を拾ってきて、部材を切り出した。写真が捉えた山の輪郭を、丁寧になぞりながら、山で拾った木材を組み合わせて立体化していく。かなり乱暴な造形だったが、大事な作業であったようにも思える。

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(旅館の前での作業。山の輪郭の描き直し。)

数日間、秋の宮で作業して得た諸々の制作物は、秋田市の文化創造館へと運びいれた。作業成果のひとまずの報告である。やはり展示をしてみて分かる、得られることも多い。特に、制作した”山の輪郭模型”は、それ自体の造形よりも背後の白壁に写し出されるその造形の影の揺らぎ、ぼんやりとした質感のほうがずっと大事であった。秋田市文化創造館の展示室は天井高がとても高く、大きなトップライトがあるのが特徴だが、その展示室の特性あってのこの影、であった。

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("山の輪郭模型”とその影)

そして撮影した写真のネガを額縁に入れて、模型と並べ立ててみると、写真→模型→影の作業プロセスのままに造形の質の遷移の具合も見えてくる。もちろん、写真が得られるのは、秋の宮の山が存在し、その像を写すべく光が集められたことによる。複数のメディウムを渡り歩くことで、秋の宮の自然に触れていく。そんないささか遠回りの作業は、山々のスケールを目の前にして少しばかり尻込みしてしまっている自分自身にとってはふさわしいし、また自然へのある種の畏敬の表明でもあるかもしれない。

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文化創造館での展示は、これから1ヶ月ほどでまた増やしていく予定だ。今回は、先ほどの成果物に加えて、床にいくつかの手記、メモ書きを散らばせた。統合し得ない、収束し難い自分の山への思考の筋道を見出すためのきっかけ作りでもある。

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また、2週間後、再び秋の宮に行き、思考の連鎖、作業を連ねることに取り組みたいと思っている。
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。

・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●展覧会のご案内
200年をたがやす
オープンスタジオ期間「つくる」:2021年3月21日(日)~6月18日(金)
展示期間「みせる」:2021年7月1日(木)~9月26日(日)
会場:秋田市文化創造館ほか
主催:秋田市
企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
全体監修:服部浩之(インディペンデントキュレーター/秋田公立美術大学准教授)
佐藤研吾「アキタノユメのイエ計画」
マタギ修行のために秋田・秋の宮へ移り住んだある友人の生活を起点に、マタギの山を視る眼差しと手つきを学びながら、彼のあるかもしれない秋田のイエの計画を練るーその構想を展開させていくプロセスを、自作カメラによる写真撮影とスケッチ、手記などによって捉え、アーカイブすることを試みます。

●本日のお勧めは佐藤研吾です。
sato-01佐藤研吾 Kengo SATO
《囲い込むためのハコ1》
2018年
クリ、ナラ、アルミ、柿渋
H80cm
Photo by comuramai
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●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
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