Artists Recently 第11回/谷川桐子 「真夜中の画家」
6月に入り紫陽花がみずみずしく咲いているのをよく見かけるこの頃、梅雨だなぁ、、とこの時期にしか味わえない何ともすっきりしない季節を、私はひそかに待ち望んでいる一人です。というのも、私は6月生まれで北陸の福井県生まれだからか、晴れの日よりも雨の日に親和性を持ってしまっていて、このじめじめした雨の多い季節が一般的に嫌われてしまうことにちょっとした反感をもっている一人でもあります。髪の広がりには毎年悩まされますが。ここまで書いてお分かりのように、私は雨女で、今日も雨で。雨の日は私にとっての安息日。
しかし、昨今の水害には悲しい出来事も多く奇異の気象現象も珍しくなくなってきました。私や草花や畑にとっての恵みの雨でも、映画などで取り上げられるようにまでなってきた水害に、今年も日本が翻弄されなければいいなぁと願っています。
ときの忘れものギャラリーで3人展を開催していただいてから2年。月日はあっという間に過ぎていきました。個人的な出来事としてここに記すならば、開催月の3ヶ月前に妊娠が分かり、間も無くして経験したことのない強いツワリに襲われ、2ヶ月間寝て吐いてを繰り返すまさに病人のような寝たきりの日々を過ごし、何とか歩いて立てるようになった開催月に夫にアシストしてもらいギャラリーまで作品を運んだ記憶が蘇ります。ツワリは強く作家として在廊出来なかったことは悔やまれますが、自分の目で現場を見て直接スタッフの皆さんとほんの少しでもやりとりできたことは今でも鮮明に残っています。これが、ときの忘れものギャラリーでの初めての展示となりました。
私の初期制作にまつわる話を少し記すことにします。ごめんなさい長くなりそうです。
初めに言ってしまうと、私は美大あがりでも専門的に美術について学んだわけでもなく、アパレルにいた人間でした。大学では服飾専攻、20代初めは配属された新宿地下のセレクトショップの下積み販売員、半ばになり地元のセレクトショップの販売、バイヤー、顧客管理と、大げさな仕事内容のネーミングとは裏腹に、ある意味すべての業務マルチタスクをこなす日々でした。こだわりのある小さなお店で。ずっと服に囲まれた世界にいて、顧客さんもついて月に200万は個人で売ったりして。好きだから関われた世界でしたが、自分の中で少しずつ違和感を持つようになっていきました。
抱えていた違和感がはっきりと分かったことは、「自分は人間の表層的な部分しか扱っていない」ということでした。言ってしまえば当然のことなのですが、カッコイイ、可愛い、綺麗、と言った表面的な言葉にどこか飽き飽きし、それによって人を見比べてしまう世界に、その時の私にはとても小さく貧相に感じられてしまいました。人間というのはもっと尊く、とてつもなく複雑で、表層的なものでは決して測ることのできない生き物。社会のルールの中でもがきながら、様々な立場で葛藤する、もっと人間の内面を知りたいと強く思うようになりました。それが私がアパレルから脱却し、美術の世界に掻き立てられた背景でした。まずは自分が決められたルールから脱却すること。それが初めに自分に課した表現であり、伝えることだったのだと思います。それとプラスして、私はシスジェンダーとして生まれながらにして女です。自分が自認しているアイデンティティを生きる上で、個人的なことだけではなく世界に目を向けると、まだまだ女性の立場が低く扱われていること。それによって残虐的な事件も現在でも存在していること。他人事であって見て見ぬふりもできるのでしょうが、なぜこんなことが起こってしまうのだろうと疑問をもつ。やはりスルーすることはできないし、女とは男とは人間とはいったい何なのだろうかと今一度改めて考えさせられます。
現在は、まだ小さい1歳半の息子の子育てに家事に仕事に、、と美術に関することを考えたり制作したりする時間が取れず日々の現実に追われてしまう。それでもこの美術の世界に関わっているのは、女性の立場を今自らが体現している葛藤があり、自分にとってのカタルシスであり、まだまだ追求しがいのある深淵な答えのない世界だからなのかもしれません。そのために、日曜画家もできないのであれば、真夜中の画家として夜な夜な頭と手を動かしていこうとひそかに目論んでおります。
《9月26日》
148.5㎝×148.5㎝ (S80号)
キャンバスに油彩
2018年
額付き、サイン有り
(たにかわ きりこ)
■谷川桐子 Kirico TANIKAWA
1982年福井県越前市生まれ。神奈川県在住。2009年アパレル会社勤務後、油絵を始める。2010・2011・2012年「草萌展」(ギャラリー新/福井)。2013年第一回ホキ美術館大賞・入選、「第一回ホキ美術館大賞展」(千葉)。2014年「フクイ夢アート」(福井)。2017年「Leaving Language展」(メトロポールギャラリー/イギリス・フォークストン)。2018年 ACTアート大賞・優秀賞。「浮かれた3人展」(中上邸イソザキホール/福井)、鯖江市役所エントランス展示(福井)。
●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
6月に入り紫陽花がみずみずしく咲いているのをよく見かけるこの頃、梅雨だなぁ、、とこの時期にしか味わえない何ともすっきりしない季節を、私はひそかに待ち望んでいる一人です。というのも、私は6月生まれで北陸の福井県生まれだからか、晴れの日よりも雨の日に親和性を持ってしまっていて、このじめじめした雨の多い季節が一般的に嫌われてしまうことにちょっとした反感をもっている一人でもあります。髪の広がりには毎年悩まされますが。ここまで書いてお分かりのように、私は雨女で、今日も雨で。雨の日は私にとっての安息日。
しかし、昨今の水害には悲しい出来事も多く奇異の気象現象も珍しくなくなってきました。私や草花や畑にとっての恵みの雨でも、映画などで取り上げられるようにまでなってきた水害に、今年も日本が翻弄されなければいいなぁと願っています。
ときの忘れものギャラリーで3人展を開催していただいてから2年。月日はあっという間に過ぎていきました。個人的な出来事としてここに記すならば、開催月の3ヶ月前に妊娠が分かり、間も無くして経験したことのない強いツワリに襲われ、2ヶ月間寝て吐いてを繰り返すまさに病人のような寝たきりの日々を過ごし、何とか歩いて立てるようになった開催月に夫にアシストしてもらいギャラリーまで作品を運んだ記憶が蘇ります。ツワリは強く作家として在廊出来なかったことは悔やまれますが、自分の目で現場を見て直接スタッフの皆さんとほんの少しでもやりとりできたことは今でも鮮明に残っています。これが、ときの忘れものギャラリーでの初めての展示となりました。
私の初期制作にまつわる話を少し記すことにします。ごめんなさい長くなりそうです。
初めに言ってしまうと、私は美大あがりでも専門的に美術について学んだわけでもなく、アパレルにいた人間でした。大学では服飾専攻、20代初めは配属された新宿地下のセレクトショップの下積み販売員、半ばになり地元のセレクトショップの販売、バイヤー、顧客管理と、大げさな仕事内容のネーミングとは裏腹に、ある意味すべての業務マルチタスクをこなす日々でした。こだわりのある小さなお店で。ずっと服に囲まれた世界にいて、顧客さんもついて月に200万は個人で売ったりして。好きだから関われた世界でしたが、自分の中で少しずつ違和感を持つようになっていきました。
抱えていた違和感がはっきりと分かったことは、「自分は人間の表層的な部分しか扱っていない」ということでした。言ってしまえば当然のことなのですが、カッコイイ、可愛い、綺麗、と言った表面的な言葉にどこか飽き飽きし、それによって人を見比べてしまう世界に、その時の私にはとても小さく貧相に感じられてしまいました。人間というのはもっと尊く、とてつもなく複雑で、表層的なものでは決して測ることのできない生き物。社会のルールの中でもがきながら、様々な立場で葛藤する、もっと人間の内面を知りたいと強く思うようになりました。それが私がアパレルから脱却し、美術の世界に掻き立てられた背景でした。まずは自分が決められたルールから脱却すること。それが初めに自分に課した表現であり、伝えることだったのだと思います。それとプラスして、私はシスジェンダーとして生まれながらにして女です。自分が自認しているアイデンティティを生きる上で、個人的なことだけではなく世界に目を向けると、まだまだ女性の立場が低く扱われていること。それによって残虐的な事件も現在でも存在していること。他人事であって見て見ぬふりもできるのでしょうが、なぜこんなことが起こってしまうのだろうと疑問をもつ。やはりスルーすることはできないし、女とは男とは人間とはいったい何なのだろうかと今一度改めて考えさせられます。
現在は、まだ小さい1歳半の息子の子育てに家事に仕事に、、と美術に関することを考えたり制作したりする時間が取れず日々の現実に追われてしまう。それでもこの美術の世界に関わっているのは、女性の立場を今自らが体現している葛藤があり、自分にとってのカタルシスであり、まだまだ追求しがいのある深淵な答えのない世界だからなのかもしれません。そのために、日曜画家もできないのであれば、真夜中の画家として夜な夜な頭と手を動かしていこうとひそかに目論んでおります。
《9月26日》148.5㎝×148.5㎝ (S80号)
キャンバスに油彩
2018年
額付き、サイン有り
(たにかわ きりこ)
■谷川桐子 Kirico TANIKAWA
1982年福井県越前市生まれ。神奈川県在住。2009年アパレル会社勤務後、油絵を始める。2010・2011・2012年「草萌展」(ギャラリー新/福井)。2013年第一回ホキ美術館大賞・入選、「第一回ホキ美術館大賞展」(千葉)。2014年「フクイ夢アート」(福井)。2017年「Leaving Language展」(メトロポールギャラリー/イギリス・フォークストン)。2018年 ACTアート大賞・優秀賞。「浮かれた3人展」(中上邸イソザキホール/福井)、鯖江市役所エントランス展示(福井)。
●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
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営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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