20世紀建築界の巨匠ル・コルビュジエが設計した上野の国立西洋美術館は、2020年10月19日(月)から2022年春(予定)まで館内施設整備のため休館中ですが、本日8月27日はル・コルビュジエの命日です(Le Corbusier、1887年10月6日 - 1965年8月27日)。

と同時に本日8月27日はマン・レイ(Man Ray, 本名:エマニュエル・ラドニツキー Emmanuel Rudnitsky, Эммануэль Рудзицкий, 1890年8月27日 - 1976年11月18日)の誕生日でもあります。
どっちを先に紹介しようかと迷ったのですが、ときの忘れものは開廊以来、「建築家のドローイングや版画」をメインに扱い、中でもル・コルビュジエの作品を数多くご紹介してきたので、本日はル・コルビュジエの特集です。
このブログでもしばしば取り上げていますので、ぜひお読みください。

八束はじめ 「建築家のドローイング第15回 ル・コルビュジエ」
倉方俊輔 「『悪』のコルビュジエ」(全13回)
藤本貴子 「建築圏外通信」第1回(没後50年 ル・コルビュジエの資料)
藤本貴子 「建築圏外通信」第11回(ル・コルビュジエ ロンシャンの丘との対話)
王聖美 「ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸とエスプリ・ヌーヴォー館を通じてル・コルビュジエが試みた絵画と建築の融合」
杉山幸一郎 「チューリッヒのコルビュジエ」
尾立麗子 「映画 ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」

●ル・コルビュジエは版画作品も多く手がけています。
1)"二人の女"
二人の女_21938年
リトグラフ
イメージサイズ: 17.6×26.7cm
シートサイズ: 38.5×50.2cm
Ed.100
サインあり


2)"小さな告白 No.1「一角 獣が通り過ぎ…」"
小さな告白 No.1「一角 獣が通り過ぎ…」 Petite Confidences No.11957年
リトグラフ
シートサイズ:45.5x56.6cm
Ed.125
版上サインあり


3)"小さな告白 No.3「横たわって…」"
小さな告白 No.3「横た わって…」 Petite Confidences No.31957年
リトグラフ
シートサイズ:45.5x56.6cm
Ed.125
版上サインあり


4)"トーテム "
トーテム Totem1963年
リトグラフ
シートサイズ:73x80.5cm
版上サインあり


5)"開いた手"
開いた手 The open hand1963年
リトグラフ
シートサイズ:65.0x50.0cm
版上サインあり


6)"母なる大地を離れて"
母なる大地を離れて12001963年
リトグラフ
73.0x50.0cm
版上サインあり


7)"雄牛 #6"
雄牛 #61964年
リトグラフ
イメージサイズ:60.0×52.0cm
シートサイズ:71.7×54.0cm
Ed.150
サインあり


8)"〈ユニテ〉より #4"
unite_41965年
銅版画
57.5x45.0cm
Ed.130
サインあり


9)"〈ユニテ〉より #15"
ユニテ #151965年
銅版画
57.0x45.4cm
Ed.130
サインあり


10)『二つの間に』(リトグラフ17点組)
二つの間に_表紙1964年
リトグラフ
44.0x36.0cm
Ed.250
版上サインあり

奥付奥付


見開き


12モノクロ作品17点


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カラー作品カラー作品1点

『二つの間に』はル・コルビュジエの最晩年の詩画集です。
刊行されたのは死の前年1964年、版元は20世紀を代表する挿画本などを多く手がけたテリアドです。
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<ル・コルビュジエの晩年の詩画集『二つの間に』("Entre deux"とは「どっちつかず」という意味を持つが、ここでは詩の内容から「二つの間に」と訳している)は、彼の世界観を知る上で手がかりとなる作品である。詩画集『直角の詩』から9年遅れて、彼の死の1年前に発表された『二つの間に』は、もっと率直に彼の心情がつづられている。
 友人が訪れて来たことや父の思い出、インドの旅の記憶などが「日頃の話題綴り」というサブタイトル通り語られている。連綿と流れるような連想の世界の中で、「石」が全体を貫く重要なモチーフになっている。日本の縞模様の石に始まって、切り離されて宙に浮く頭も、英雄の仮面と呼ぶコップも石を思わせる。引き合う大地も、堅く組んだ手も石であり、男根を象徴するインドの石の御神体リングが描かれ、ユビュ王も石の塊のように描かれている。詩の最後の画面で署名した白い塊も石を表していることから、錬金術の最終目的であり、あらゆるものを金に変える触媒として働く「賢者の石」が、この詩画集においてはル・コルビュジエのシンボルとなっている。石は自らが日本の縞模様(二つの世界)をもちながら、同時に触媒として二つの世界に影響を及ぼす。彼は石から連想を拡げながら、この作品を紡いでいった。また、プロローグと本文の最後に登場する「牡牛のしるし」も重要な役割をもつ。牡牛のしるしは、二本の角の形だけで表現され、ここでも「二つの間」というテーマが隠されている。
 作品前半では女性のモチーフが多く描かれ、彼の神秘的世界への傾倒がうかがわれるような内容である。夜→海→女性という図式は、あらゆるものを包みこむ母性的な存在を思わせ、この後に描かれる二元論的な世界は、最後にはこの絶対的な存在の元へと還っていくことを思わせる。さらに、すべてを与え、受け取る「開いた手」の登場でこの作品は終わる。こうして、彼は一つの結論へと向かっていく。
 彼は建築は光と影によって成立すると語っている。光と影は相反するものだが、互いに相手なしには存在し得ないものであり、建築家は両者を全体の調和の中に並立し、響きあわせる造物主であり絶対的存在であるととらえていた。しかしこの晩年の作品においては、光と影のような「二つの間に」には自然と対話が生れ、それらは造物主である彼の「開いた手」の中に収まっていくのである。
 ル・コルビュジエは世界の二元論的対立は唯一絶対の存在、つまり宇宙の根本原理とでもいうものによって関係づけられ、すべては統合されるとしている。プロテスタントとしての教育を受けた彼には、それがキリスト教ではなくても、なにか宗教的な存在を心の拠りどころとして信じる精神的な下地はあったと考えてよかろう。こういう信仰心のようなものが、あるときには錬金術的な神秘思想に傾いたりしたのではないか。彼はチャンディガールの仕事をしていたおり、インドの死生観にも興味をもったようだが、自然と深く結びついた宗教観は、彼に何らかの影響をあたえたのではないか。あらゆるものを受け入れ、自然の摂理に身を任せるインド的な生き方などが、彼の興味をひいたことだろう。
 彼は『直角の詩』(交わる直線「+」によってつくられる直角)では、融合を話の中心に持ってきて、錬金術の影響を強く感じさせる独自の思想体系を成立させたが、「二つの間に」(平行する直線「=」)では、相反する二つの要素を無理矢理引き寄せようとはせず、互いが交信することを望んでいる。「二つのものがあることは、大切なことだ」「対話は両極の間でおこりうる」とし、自分の建築を「空間の音響学」とよぶように、「全空間から全空間への交信」を望んでいるのである。

 「私は思った――二つの手と/組み合わされた指は/示していると あの右と/あの左が 思いやりのかけらもない/連帯関係にはあるが/きっと 和解し合う運命にあると
/人間の営みに捧げられる/生き残りの唯一の可能性だ」(『直角の詩』)

 「両極のあることは大切だ/両岸のあることは大切だ/二つの……があることは大切だ/二つの群れがあって/あるいは我々二人がいて/あるいは二つのものがあって/なにも起こらないということはない」(『二つの間に』)

 『直角の詩』では、人間の知の象徴、自然界が生み出す幾何学の根本であり、あらゆるものが交わる「直角」をキーワードに、彼自身が全人格者として、創造主として混沌から新しい世界を生みだそうとする熱意を持っていた。その意志の強さは彼の若いころから引き継がれた、一つの統一した世界への願望の強さに通じる。
 しかし、『二つの間に』では、二つの世界に一つの秩序を与え、新しい関係を生じさせようとしてはいるのだが、晩年の彼は、あらゆるものの存在をそのまま認め、それらは必ずや一つのハーモニーを奏でるという確信のもとで、対話を見守ろうとしているのである。彼はありのままを受け入れる、達観した心境に向かっていった。『二つの間に』において、最後の一枚に描かれるのは、シンボルとしての牡牛の角であるが、それはもはや貪欲な荒々しさの象徴ではなく、二つの極をもつ、ゆるやかなカーブの角であり、半月に近い月のように穏やかに描かれている。
 彼はたしかに二つの世界をもっていた。それは公と私であり、攻撃的性格と内省的性格であり、理性と感情であり、それらを特徴的に表すのが建築と絵画であった。もちろん、絵画からインスピレーションを得た建築表現や、絵画での試みが実行されている建築は既にみてきた通りであり、「絵画と言う運河をとおって」自分は建築に辿り着くと記しているが、たしかに絵画と建築は、彼の創造性の賜物であり、同時に両者を制作し続けることで、彼自身を支えつづけた。彼は両者のバランスの上にあったからこそ、ル・コルビュジエという芸術家たりえたのである。>
林美佐『再発見/ル・コルビュジエの絵画と建築』(2000年、彰国社)P202~P204より引用

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
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