国内音楽レーベルCalax Recordsが、Cora Emensによる1980年代カセットテープをレコードにて再発

001Cora Emens(コーラ・エメンズ)はオランダのセックス指導者でありパフォーマー、そしてミュージシャンです。

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本作品のオリジナルは、1980年代に製作されたカセットテープ音楽です。彼女の前パートナーでもあり、Fluxusのコアメンバーの1人でもあるWillem De Ridder(ウィレム・ドゥ・リダー)を中心とした、当時、Coraの周りにいた素晴らしい恋人や友人たちによって奏でられたホームテープミュージック(宅録音楽)をコンパイルした、異色の作品になります。

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Cora Emensは自身の幼少の頃を、内気で、レガッタセーリングに打ち込む、いわゆる”普通な女の子”であったと回想します。そしてある晩の引っ越しパーティーで脳震盪を起こしてから、彼女は覚醒し、この世界が自身に振りかざすありとあらゆる不条理から逃れるために、多くのセックスを愉しみ、音楽的教育を受けてこなかったものの自宅で作曲活動を始めるようになったそうです。そんな彼女が作曲した幾つかの楽曲をきいた友人が、視聴者参加型のあるラジオ番組に寄稿するように勧めました。そのラジオ番組のパーソナリティが、前パートナーのWillem De Ridderだったのです。

Willem De Ridderは、George Maciunas(ジョージ・マチューナス)公認のFluxus作家の1人であり、ストーリーテラーのアーティストです。同活動においてはヨーロッパ支部を束ねる存在だったようです。1980年代前後では本作品が生まれたアムステルダムのみならず、テープミュージックがインディペンデントの世界では主流であり、彼の番組ではリスナーから郵送されるカセットテープを、Willemは試聴することもなくそのままラジオ放送に掛けるということを行なっており、非常に人気を博す番組だったようです。そんな視聴者から送られてくるカセットの中にCoraから送られた楽曲がありました。彼女の音楽が放送されると、とても反響が多かったようで「さっきの放送で流れたアーティストは何者なんだ?」というような問い合わせが、Willem曰く、なんとあのLaurie Anderson(ローリー・アンダーソン)が放送されたときよりも多かったそう。そのことに、ただ自分自身を表現したつもりだったCoraはとても驚いたみたいですが。Willemも彼女が何者か気になったようで、番組の放送後に彼がCoraに連絡をすることで2人は出逢い、そして、恋人になりました。

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Coraは、Willemのプロジェクト”Life Radiola Salons”に帯同する形でオランダ国中を旅しながら自然音やさまざまな音を録音していました。また、Willemの番組のリスナーでもあったというHessel Veldman(ヘッセル・ヴェールドマン)、Nicole Veldman(ニコル・ヴェールドマン)の夫妻とともに”FANATIC”というユニットを結成し、目隠しした状態でマットレスに横たわらせた聴衆の合間を歩きながら演奏をするという、特殊なライブパフォーマンスを行なっていました。

https://www.youtube.com/watch?v=pC4Zu3C5UzM
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こうした経験をはじめ、他にも、MEVの共同創設者であり偉大なる現代音楽家のAlvin Curran(アルヴィン・カラン)、シャーマンのJóska Soós(ヨスカ・ソース)、John Zandijk(ジョン・ザンディック)、Andre De Vries(アンドレ・ドゥ・ブライ)など、多くの素晴らしい音楽性を持ったアーティストとの交友が重なりできあがった美しい楽曲たちを、Willemが1つのカセットテープにミックスしたことで、この作品が生まれました。

この作品にある楽曲たちには、全体として、エクスペリメンタルな性質が通底しながら、シンセポップの持つ親しみが感じられます。そして、一貫して内省的、瞑想的な内容でありつつも、この一連の作品は”Conversation”というタイトルの曲から始まります。これは、この作品の性質を映し出す面白い点と言えるでしょう。Coraが夜毎に行なってきたであろう友人たちと交流している姿を想起させます。

“もしこの曲と作品に何かしらの関係性があるとすれば、すべての音楽は会話の一形態であるということです。たとえ、音楽が自分自身から生まれたものであっても。音楽は、心から生まれ出るものであれば、それは常に魂との会話なのです。”(コーラ・エメンズ)

オリジナルはアムステルダムにあるアラード・ピアソン博物館に所蔵されており、もうほとんど市場では流通しておりません。わたしたちカラックスレコードは、この作品と奇しくもインターネットで出逢うことができました。そして彼女とも、オンライン上ではありますが、メールとビデオにて2回インタビューを実施し、メールでのインタビュー内容は製品内部のリーフレットに、ビデオインタビューの内容は、わたしたちのサイトにて全文を掲載しています。ご興味ある方は是非、お読みいただけると嬉しいです。

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正統な音楽史の近傍にあるこの素晴らしい作品に携われたこと、彼女のような類稀なるアーティストにお会いできたこと、そして、その出会いを通じて得られたすべてのご縁に、この場をお借りして感謝を申し上げます。
カラックス・レコード 山本祐生・三浦義晃

◾️Calax Records
東京を拠点とする国内音楽レーベル。2020年より始動しオブスキュアな音楽を中心にリリース。本記事で紹介しているCoraの他、Siegmar FrickeとA Thuner Orchestraによる1991年にリリースされたカセット作品、Derek Jarmanの映画音楽を数多く手掛けた事でも知られる英・ミュージシャン、Simon Fisher Turnerとの共同ビデオ・プロジェクト”Eyes And Ears”等をリリース。
https://calaxrecords.com/
info@calaxrecords.com

●レコードのご紹介
006CORA "CORA" (2 x Vinyl LP)
Calax Records
価格:4,550円
(別途送料)
ときの忘れもので取り扱っています。
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*画廊亭主敬白
このブログでレコードをご紹介するのは初めてかも知れません。
某月某日、男性二人が塩見允枝子先生の作品を買いに訪れました。
フルクサスのことについてはやけに詳しい、いろいろ話しているうちに、彼らが取り出したのがレコード。 え、いまどきレコード?! 
音源を視聴したら、これが不思議な美しさ。なんか嬉しくなってしまい、さっそく購入しました。

<本日は大変お世話になりました、Calax Recordsの三浦と山本です。
突然の訪問にも関わらず塩見さんやフルクサス関連の貴重な資料を拝見させて
いただき大変ありがとうございました。
こちらにて音源の試聴が可能でございますので、もしご機会あれば
是非、塩見さんにもご紹介いただけましたら幸いです。
CORA - CORA
https://www.youtube.com/watch?v=9KsxcEZGTsA&t=2515s
また以下のリンクにてアーティストのCora Emensのインタビューもございますので
お読みいただければ嬉しいです
https://calaxrecords.com/cora-emens
また、私達のレコードのご購入も大変ありがとうございます。>

亭主が太鼓判のお勧めです。

●本日のお勧め作品は塩見允枝子です。
グラッパ・フルクサス A Musical Embryo 音楽的な胎児  
3ad6a9d3-s1995
ミクスドメディア
瓶高:28cm
Ed.4
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●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。