No.18駒井哲郎『恩地孝四郎頌』
1974年
銅版(エッチング、アクアチント〈雁皮刷〉)
20.7×10.0cm/38.3×28.3cm
Ep. d'artiste サインあり
都美No.318、美術出版社No.309
駒井哲郎に直接銅版画を教えたのは西田武雄ですが、駒井が生涯私淑したのは木版画の恩地孝四郎でした。
この作品「恩地孝四郎頌」は1975年3月に形象社から刊行された『恩地孝四郎版画集』の特装版のために制作されました。最晩年(死の前年)を飾る秀作ですが、同画集に作品と同じ「恩地孝四郎頌」と題して恩地を偲んで寄稿しています。その後段を引用しましょう。
<世界的に見ても先駆的といえる先生の遺された多くの詩的版画はその技術においてもまったく新しいものであり、新しい技法と作品形成の思想は一体となっており、版材と素材とによって思考したといってもよく、技法の役割はかなり大きな部分を占めているようだ。最晩年の多くの作品は新しい技術に一切を賭けたと言っても過言ではないと思う。
『日本の憂愁』のころのお仕事は最後の作品になったわけだが、そのきびしい構造と感性からある種の恐ろしさを感じるのはぼくだけだろうか。
多くの若い友人にかこまれたかに見えた晩年の恩地孝四郎はなんと孤独であったことか。それは土俗的な文化国家日本のどうしようもない悲劇を透徹した目で見つめる芸術家の孤独であった。
ぼくが恩地先生に初めてお目にかかったのは昭和12(1937)年の夏のことで、関門連絡船のうえで長崎への途上だった。長崎で4,5日であったが先生と一緒にいられたのはいま考えても本当に幸せなことだった。
そして戦後、先生のお供をして表慶館の現代フランス版画展を見たり、鎌倉近代美術館の帰りに材木座の海浜を散歩したことなど遙かな昔のことのように思いだす。横浜の埠頭へフランスへ行くぼくをわざわざ見送りに来て下さったのが生前の先生との最後の別れとなってしまった。そしてぼくは、パリであまりなすこともなく酒を飲み、妙なことに時を過しているあいだに、先生は恐しい手記を書き遺して遙かな遠くへ行ってしまわれたのだ。素晴しい多くの作品、良く見える人には魂の存在をつきつけるような、そして優しさの溢れる作品を遺して。
*『恩地孝四郎版画集』212頁より(1975年 形象社)>
1932年7月長崎にて、西田武雄主宰の講習会。西田がエッチング、恩地孝四郎が木版画の講師。当時東京美術学校油画科1年の笠木實と慶應普通部の駒井哲郎が助手として同行した。『エッチング』No.58(昭和12年8月15日、日本エッチング研究所発行)所収写真、中央白シャツが西田武雄。
1954年3月21日横浜港にて、フランス留学に発つ駒井哲郎の見送り。左が恩地孝四郎。(駒井家所蔵写真)
●恩地孝四郎
No.33 恩地孝四郎《水浴》 1929年
木版
21.4x14.8cm/21.4×14.8cm
※『恩地孝四郎版画集』掲載No.125(1975年 形象社)
No.34 恩地孝四郎『月映VI』より《抒情 慈に泪す》1915年
木版
13.8×9.5cm/24.8×17.8cm
※『恩地孝四郎版画集』掲載No.48(1975年 形象社)
駒井哲郎と福原コレクション、西田武雄と恩地孝四郎については、亭主の拙いエッセイをお読みください。
「駒井哲郎 -福原コレクションをめぐって-」
「西田武雄と室内社画堂」
「恩地孝四郎と創作版画運動」
今回のPart 2では駒井哲郎の「日本の四季」シリーズも展示していますが、それについてはのちほどご紹介します。
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●「生誕100年 駒井哲郎展 Part 2 駒井哲郎と瀧口修造」
会期=2022年2月8日(火)~26日(土) 11:00-19:00 ※日・月・祝日は休廊
2月9日ブログに出品作品の詳細と価格を掲載しました。


「生誕100年 駒井哲郎展」カタログ
1,540円(税込み)+送料250円
A5変形、56ページ、
出品/駒井哲郎、瀧口修造、恩地孝四郎、長谷川潔、オディロン・ルドン、パウル・クレー
執筆/栗田秀法、土渕信彦
編集・デザイン/柴田卓
発行/ときの忘れもの
2020年に銅版画の詩人と謳われた駒井哲郎(1920-1976)の生誕100年の記念展「Part1 若き日の作家とパトロン」を開催しました。
今回の「Part2 駒井哲郎と瀧口修造」では詩人・安東次男との詩画集『人それを呼んで反歌という』全点を展示するほか、その才能にいち早く注目した詩人・評論家の瀧口修造など駒井が影響を受けた作家たちの作品も合わせてご覧いただきます。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
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