佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第64回

木の玉の大群


先月初めまで開催していた個展の制作とちょうど同じ時期(昨年末から今春にかけて)に、大径の丸太を用いた家具什器を制作する別のプロジェクトが進んでいた。
六本木の東京ミッドタウンの芝生広場でいま開催中の、アパレルブランド・ゴールドウィンが主催する期間限定の公園「PLAY EARTH PARK」の会場内に設置するベンチの制作であった。地球と遊ぶ=PLAY EARTHを掲げて、「地・水・火・風・空」という地球を構成する5 つのエレメントをテーマにした、5組の建築家がデザインする遊具が配置された。当方コロガロウが担当したベンチは、それらの遊具の周囲に配置されるものとしてあった。
また上記の5つのエレメントにどれにも偏らずに、それぞれの掛け合わせによって生まれるモノとして、「木」をキー概念に据えた。自然をどこまで自然なままにするか、自然物に対して人間の制作行為がどこまで、どの程度入るべきか、その調整が設計の主眼となった。具体的には樹木の丸太に対しての加工の在り方を考え、ただ丸い卵形の木のカタマリを作るに至った。
使用した木は、全て都内もしくは首都圏で街路樹などとして生えていた樹木である。それらは時には危険樹木とみなされ、あるいは地域開発の影響で伐採されたものである。都市部における人間と自然の関係を考えたとき、常にとても身近にある自然の一つが街路樹などの樹木だろう。普段の生活においては街路樹はもちろん常に人々の背景に置かれ、それらの存在自体を改めて感じる機会も少ない。今回のベンチ制作では、そんな樹木に手を加えることで、人々と樹木、木の関係の在り方に別の景色を描けないかという試みである。木の種類はケヤキ、イチョウ、シイ、クス、モミ、プラタナス、ヒマラヤスギなど、さまざまなものが集まった。チェンソーを使い、玉切りにしたそれらの丸太の角を落として丸めていった。正円や楕円の幾何学ではなく、角を落としながら作る少し歪な丸み。工程はとてもシンプルだが、人力でギリギリ動かすことのできる大きさの丸太を加工するのは、とても体力のいる仕事である。そして木の種類、丸太の大きさ、加工する人によって、出来上がる姿形はまるで異なるものとなった。

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制作中の木の玉

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加工前の原木

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加工の様子。作業はTIMBER CREWさん、そして木楽木工房さんに担当していただいた。

最終的に、大小合わせて合計150体の木の玉が作られた。小さいもので50センチほど、大きいモノは2メートルある。とにかく重たい。そして、どれとして同じ形のものはない。そんな数多くの木の玉を会場全体に散在させた。眺めてみれば、木の玉たちは一つの群れ、群景を成していたようにも思えた。

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「PLAY EARTH PARK」会場の様子。

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底部は据わりが良くなるように平らに加工している。芝生との相性はとても良い。

群れとは何らかの共有するものをそれぞれが備えた集団である。もちろんこうした群れ、群としての造形への興味は、個展「群空洞と囲い」でもあったし、他の建築や家具のプロジェクトでも常に意識している主題である。今回のプロジェクトでは比較的大規模な群れの試行錯誤に取り組むことができた。

(さとう けんご)

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。

●カタログのご案内
c0ab7318『佐藤研吾展 群空洞と囲い』図録
発行日:2022年3月25日
発行元:有限会社ワタヌキ/ときの忘れもの
17.1×25.6cm、24頁、図版32点
テキスト:佐藤研吾、都築響一
デザイン:岡本一宣デザイン事務所
価格:880円(税込み)+送料250円