佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第65回
現場近況
制作、あるいは工作を脇に携え続けること。自分が作り手の一人として関わりを持てる現場を持ち続けること。ひとまず、自分にとってはその状態にある時がとても健康的で、頭の回転も良い気がしている。現場の大小はあまり関係がない。むしろ小さければ小さいだけ、そのモノを見る解像度が高まるので良い。
最近は2つの工事の現場が動いている。
1つは近所の住宅の改修の仕事。木の羽目板や木製建具の制作などがあり、施工は大工さんに頼んでいるが、木部塗装はこちらでやっている。
そして、もう1つは飯舘村の旧コメリ建屋の改修工事のプロジェクト。その施設の名前は「図図倉庫<ズットソーコ>」という名前になった。そこには移動式のコーヒーショップが定期的に停留し、旧コメリの業務を引き継ぐ形で種苗の販売や書籍販売、福島再生の会による研究成果展示、奥にはワサビの水耕栽培所、そして地域の人が使うシェアオフィス、が開設している。
模型写真。特に建屋全体の配色計画について検討するためのもの。
内部の什器の制作、メンテナンスを含めた工事を続けている今の現場には、近所で廃校になった小学校から譲り受けた机や椅子、理科の実験器具などさまざまな備品が詰め込まれている。そして本宮市の応急仮設住宅で使われたログ材の資材なんかも山盛りで現場に持ち込まれ、まだそれもかなりの量がある。1,000㎡ほどのとても大きな建屋に、大量のモノ。
改修工事によって多少室内は整えられるが、営業が本格スタートしたあともモノは残り、それ以上にさまざまなヒトやモノ、出来事が積み重なっていく場所になるから、やはり「倉庫」という呼び名は正しそうである。「ズット」がつく事で、改修工事前と後という区切りなくシームレスに場所の質が引き継がれていくだろう。
図図倉庫の現場は内装工事をコロガロウが請け負ってやっている。施工に精度をあまり必要としない場所と、塗装や左官工事といった仕上げの作業・制作をコロガロウが社内で担当するか、お手伝いの人と共に実施する。そして他の造作工事を、先ほどの住宅改修でやってもらっている同じ大工さんに、あるいは専門の職人さんに依頼している。工事を請け負うのはやはりデザインを漸次的に更新していく、現場での気付きを計画に反映させていくための工夫であり、また自分たちのような半職人的人間が施工に関わることで、その現場の敷居をいくらか下げるという意図もある。実際、現場が広々としていることもあって、訪ねてきたり様子を見にくる地域の人も多い。
脇ではキッチンカーでコーヒーを飲めて、その隣では木工事をしていて、またその隣では塗装作業をしている。そんな様々なものが混ぜ込まれた場所となっている。いろいろなものが同居し、また排除されずに残り続けるためにはやはりその場所が物理的にも、心理的にも余裕や余白(私はよく”遊び”という言葉を使う)が必要であるし、そのようなゆったりと構える感覚を今回のデザインにも意識的に練り込んでいるつもりだ。
左官工事の様子。薪ストーブが据えられる小上がり土間の背景として。
小上がり土間の上部には円形の天井が浮かぶ。そしてそれを囲う形で可動式の椅子兼カベを複数配置(写真左)。
木工所の壁とアーチ天井の工事。ログ材を基礎として立ち並ぶハウスのアーチパイプに米の籾殻を詰めた断熱パックが敷き並べられる。
キッチンカーでのコーヒーと物販販売の様子。現在は不定期で営業中。このキッチンカーは運営者の方が用意したものだが、このキッチンカーの配色をきっかけとして、建屋全体の配色計画に本格的に取り組む形となった。
(https://www.facebook.com/marbling.inc/ より)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●佐藤研吾さんが参加するシンポジウムのご案内
西澤徹夫×工藤浩平×佐藤研吾「ポストコロナ―新しい時代に向かって」|ミサワホームAプロジェクト シンポジウム(2022/6/24 東京,オンライン)
日時:2022年6月24日(金)18:30~20:30
会場:オンライン(ZOOMウェビナー) +
ミサワホームインテリアホール(新宿NSビル16階) ※先着50名まで
申込:下記フォームから申し込み
https://www.misawa.co.jp/jsp/form/re/2741/index.jsp
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
佐藤研吾《囲い込むための空洞3》
2022 クリ、鉄媒染、鉄
40 × 40 × 90cm
Signed
*Photo by comuramai
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
現場近況
制作、あるいは工作を脇に携え続けること。自分が作り手の一人として関わりを持てる現場を持ち続けること。ひとまず、自分にとってはその状態にある時がとても健康的で、頭の回転も良い気がしている。現場の大小はあまり関係がない。むしろ小さければ小さいだけ、そのモノを見る解像度が高まるので良い。
最近は2つの工事の現場が動いている。
1つは近所の住宅の改修の仕事。木の羽目板や木製建具の制作などがあり、施工は大工さんに頼んでいるが、木部塗装はこちらでやっている。
そして、もう1つは飯舘村の旧コメリ建屋の改修工事のプロジェクト。その施設の名前は「図図倉庫<ズットソーコ>」という名前になった。そこには移動式のコーヒーショップが定期的に停留し、旧コメリの業務を引き継ぐ形で種苗の販売や書籍販売、福島再生の会による研究成果展示、奥にはワサビの水耕栽培所、そして地域の人が使うシェアオフィス、が開設している。
模型写真。特に建屋全体の配色計画について検討するためのもの。内部の什器の制作、メンテナンスを含めた工事を続けている今の現場には、近所で廃校になった小学校から譲り受けた机や椅子、理科の実験器具などさまざまな備品が詰め込まれている。そして本宮市の応急仮設住宅で使われたログ材の資材なんかも山盛りで現場に持ち込まれ、まだそれもかなりの量がある。1,000㎡ほどのとても大きな建屋に、大量のモノ。
改修工事によって多少室内は整えられるが、営業が本格スタートしたあともモノは残り、それ以上にさまざまなヒトやモノ、出来事が積み重なっていく場所になるから、やはり「倉庫」という呼び名は正しそうである。「ズット」がつく事で、改修工事前と後という区切りなくシームレスに場所の質が引き継がれていくだろう。
図図倉庫の現場は内装工事をコロガロウが請け負ってやっている。施工に精度をあまり必要としない場所と、塗装や左官工事といった仕上げの作業・制作をコロガロウが社内で担当するか、お手伝いの人と共に実施する。そして他の造作工事を、先ほどの住宅改修でやってもらっている同じ大工さんに、あるいは専門の職人さんに依頼している。工事を請け負うのはやはりデザインを漸次的に更新していく、現場での気付きを計画に反映させていくための工夫であり、また自分たちのような半職人的人間が施工に関わることで、その現場の敷居をいくらか下げるという意図もある。実際、現場が広々としていることもあって、訪ねてきたり様子を見にくる地域の人も多い。
脇ではキッチンカーでコーヒーを飲めて、その隣では木工事をしていて、またその隣では塗装作業をしている。そんな様々なものが混ぜ込まれた場所となっている。いろいろなものが同居し、また排除されずに残り続けるためにはやはりその場所が物理的にも、心理的にも余裕や余白(私はよく”遊び”という言葉を使う)が必要であるし、そのようなゆったりと構える感覚を今回のデザインにも意識的に練り込んでいるつもりだ。
左官工事の様子。薪ストーブが据えられる小上がり土間の背景として。
小上がり土間の上部には円形の天井が浮かぶ。そしてそれを囲う形で可動式の椅子兼カベを複数配置(写真左)。
木工所の壁とアーチ天井の工事。ログ材を基礎として立ち並ぶハウスのアーチパイプに米の籾殻を詰めた断熱パックが敷き並べられる。
キッチンカーでのコーヒーと物販販売の様子。現在は不定期で営業中。このキッチンカーは運営者の方が用意したものだが、このキッチンカーの配色をきっかけとして、建屋全体の配色計画に本格的に取り組む形となった。(https://www.facebook.com/marbling.inc/ より)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●佐藤研吾さんが参加するシンポジウムのご案内
西澤徹夫×工藤浩平×佐藤研吾「ポストコロナ―新しい時代に向かって」|ミサワホームAプロジェクト シンポジウム(2022/6/24 東京,オンライン)
日時:2022年6月24日(金)18:30~20:30会場:オンライン(ZOOMウェビナー) +
ミサワホームインテリアホール(新宿NSビル16階) ※先着50名まで
申込:下記フォームから申し込み
https://www.misawa.co.jp/jsp/form/re/2741/index.jsp
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
佐藤研吾《囲い込むための空洞3》2022 クリ、鉄媒染、鉄
40 × 40 × 90cm
Signed
*Photo by comuramai
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
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