三上豊「今昔画廊巡り」

第2回 田村画廊 真木画廊そして駒井画廊と真木・田村画廊


 田村画廊は、1969年2月に麻生三郎展で開廊。場所は中央区日本橋本町3-5ワカ末ビル。73年6月から本町4-15に移転。旧秋山画廊の所で、高山登展から始まる。さらに新田村画廊として77年9月、神田西福田町2聖徳ビル2階に移転。小島信明展で開廊するも、78年9月、田村画廊と名称変更し、李禹煥展で再始動。
 真木画廊は、1975年2月堀浩哉展で開廊。住所表示は本町4-9熊野屋第2ビル1階。同年に小清水漸と菅木志雄は2回個展を開催している。
 真木・田村画廊として活動は、1991年5月から本町4-4-15本銀第2ビルで始まる。住所表示が変わっているがかつての真木画廊の場所だ。
 駒井画廊は、1979年4月開廊。室町3-1駒井ビル。地下1階だった。
 以上、4件の画廊の目まぐるしい変遷をまず抑えておきたい。この4件を運営していたのが、山岸信郎さん(1929-2008)だ。住所表示はいろいろだが、各画廊はそう遠くはなく、2、3分ぐらいで行き来できる場所だ。それでも現在その辺りへ行くと、真木画廊のあとは駐車場になっており、しばし昔の景色のアタリがつかなかった。
 田村画廊を中心とした山岸さんの画廊は、40年近く活動を行い、2000年に幕を閉じるわけだが、始まりはときわ画廊と秋山画廊よりも遅い。それでもいわゆる「もの派」の作家たちを含め、70年代初頭のラジカルな表現にとって、山岸さんのつくったスペースが大きな力となったといえよう。69年の吉田克朗、70年の李禹煥、高山登、榎倉康二、原口典之、71年の小清水漸ら、彼らの重要な発表を支えていたのが神田の貸し画廊だ。
 山岸さんは、68年に『三彩』誌で展覧会評を連載し、また秋山画廊に少しの期間勤めた経験もあった。知人の医者に病院移転後の建物で画廊をと頼まれた。江戸通りに面した旧秋山画廊の斜め前だった。大家の名「田村」をとって画廊名にした。ある意味、勢いもあって画廊を始めたのかもしれない。
 真木画廊の地下は山岸さんの事務所で、資料群でいっぱいだった。画廊は二つの通りにわたり、つまり両通りから入れるようになっていて、展示場の入り口に細長い木のベンチがあり、その奥に事務机がひとつ、薄暗い画廊せいかスタンドがいつも点いていた。山岸さんのパートナーが餌をあげるのか、ノラ猫がときどき姿をみせ、餌箱の脇には、彼が画廊巡りに使う自転車が立てかけてあった。
 78年から始まるビル2階の田村画廊は、北側の窓から光がほんのり差し込むホワイトキューブの空間だった。川俣正のインスタレーションが明るく見えた印象がある。なんの情報もなく階段を登って入ると、自分の肉体にカギ針を何本も突き刺し、体を吊るすステラークの個展が開催されていたのには驚きしかなかった。
 駒井画廊の跡地には周辺を含み日本橋室町三井タワーが建ち、70年代の面影はまったくない。画廊は85年初頭で閉廊するが、展覧会リストには、山岸さんが力を入れていた韓国との交流展が何回かみられる。駒井で2回個展をした吉澤美香、彼女の卒業制作を含めた当時の発表作品が2022年千葉市美術館で特別展示、作品群を掲載したポスター状の作品集が制作され、懐かしかった。
 なお、山岸旧蔵資料は国立新美術館に旧蔵作品は多摩美術大学にそれぞれ寄贈されている。また、『あいだ』誌上では山岸さんの追悼特集記事が155号から173号まで掲載され、没後にまとめられたエッセイ集に『田村画廊ノート:あるアホの一生』(竹内博編、2013、竹内精美堂)がある。

(みかみ ゆたか)

田村画廊閉廊_トリミングデータ
*田村画廊移転通知

田村
*田村画廊のあったビル 2023年現在の風景。

表紙トリミング
『田村画廊 真木画廊 駒井画廊 真木・田村画廊 展覧会リスト(2009年5月版)』
2009年5月9日発行
制作・発行:和光大学芸術学科三上研究室
デザイン:田代睦三
印刷:株式会社テンプリント



三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。

・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回は2023年7月28日です。どうぞお楽しみに。

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制作年:1963~2014年
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●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
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