三上豊「今昔画廊巡り」

第4回 秋山画廊(後編)


 1970年に閉廊した秋山画廊は、85年には秋山直太郎さんから娘さんの田津子さんの時代に移り、活動を再開する。同じ場所に8階建ての貸しビルを建てた。ビルは現在でもまだ残っている。エレベーターもあったが、1階奥から螺旋階段を降りながら7メートルの吹き抜けの空間を体験し、地下の展示スペースに行くとき、作品の見え方が違ってくるのが楽しみだった。「美は得がたきものなり」といったギリシャ語が今も1階上部のファサードにあるが、ビルの最上階に居住していた直太郎さんが考えた銘文で、氏は洋書の山に囲まれて日々を過ごしていたという。
 開廊企画は2期に分かれ、1期は眞板雅文、古渡章、鷲見和紀郎、2期は榎倉康二、遠藤利克、村岡三郎だった。その後、関根伸夫、小野皓一、河口龍夫、西雅秋、高山登と続く。ちょっと中年、男っぽい、作品に色彩がそれほど見られない、といった面がみられる。冗談で、秋山は4K(汚い、暗い、臭い、危険)のスペースとも言われたとか。
 だが、2002年に日本橋のスペースは閉じられ、05年に渋谷区千駄ヶ谷3-7-6に移転、活動をはじめる。そこは自宅兼用の場所だった。こちらは3階建てのコンクリート打ちっぱなしの建物で、展示スペースは半地下のつくりだった。
 北参道と呼ばれるこの地域には建築写真家の二川幸夫氏のGAギャラリーがある。2015年ごろには、小山登美夫ギャラリー、タカ・イシイギャラリーもあった。昔、画家の辰野登恵子さんも近くに住んでいたとか。画廊は代々木駅と原宿駅の中間にあり、JRの電車がすぐ側を走っていたが、展示室ではあまり振動は感じなかった。ここで展示をした主な作家では上記以外で、増川寿一、小山穂太郎、紫牟田和俊、増田聡子、多和英子、戸谷森、前田一澄、糸数都らがあげられるが、なんといっても遠藤利克の発表数がものを言っていた。遠藤の黒い輝きをもった作品群は秋山画廊と並走していた。若い作家にとって、遠藤の過激な作風が許されるとすればと思わせ、この画廊は実験的な仕事ができるスペースだった。日本橋時代の螺旋階段はないが、扉を開けると奥まで一望できる踊り場がある。静かな空間があり、事務室から秋山さんが顔をだす。事務室には村岡三郎のガズボンベが付いた鉄のテーブルの作品があった。村岡の「プロの作家とは作品で食べている人のことではなく、たった一人のために作品をつくることだ」という言葉を、秋山さんは大切にしていた。ひょっとすると作家たちは、秋山さんのために発表をしてきたのかもしれない。そんな思いがしてくる空間だった。
 2018年11月秋山さんは病で亡くなり、画廊はしばらくして閉廊となった。彼女から生前頼まれた日本橋と代々木の33年間にわたる活動記録、その冊子はできたが、その出来について意見をいただくことは叶わなかった。

(みかみ ゆたか)

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今も残る日本橋のビル

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ファサードに残るギリシャ語の銘文

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代々木の画廊内観

秋山画廊1
代々木の画廊内観

『秋山画廊 1985-2018』
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2018年11月25日発行
200部制作
《非売品》
編集・発行:三上豊
発行所:和光大学表現学部芸術学科 三上研究室
印刷・製本:株式会社テンプリント

三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。

・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回は2023年9月28日です。どうぞお楽しみに。

●本日のお勧め作品は関根伸夫です。
sekine_44_mebias関根伸夫 Nobuo SEKINE
《空相―メビウス》
1975年
黒御影石
W66.0xH66.0xD16.0cm
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*本日(月曜)は休廊です。

中心のある家 建築家・阿部勤 自邸の50年』頒布中 4,400円
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著:阿部勤 写真:藤塚光政
体裁:A4変・140頁
価格:4,400円(税込)+ 送料250円
発行日:2022年9月25日
装丁:加藤賢策(LABORATORIES)
発行:株式会社学芸出版社
★オンラインでのご購入はこちらからどうぞ。

阿部勤建築で一枚の版画(リトグラフ)を見る
2023年8月25日(金)~9月2日(土) 11:00-19:00 *日曜・月曜・祝日は休廊
阿部勤展案内状表面1200本年1月に亡くなられた阿部勤先生(1936-2023)は2021年11月22日の日付の入ったリトグラフ「中心のある家」を制作されていました。
阿部先生が設計された個人住宅Las Casas(2017年からギャラリーときの忘れもの)で、その建築空間を体感していただきながら、遺された版画作品をご覧ください。併せてル・コルビュジエ、安藤忠雄、磯崎新、マイケル・グレイヴス、アントニン・レーモンド、石山修武、六角鬼丈、毛綱毅曠、倉俣史朗、佐藤研吾、杉山幸一郎、光嶋裕介などの建築家の版画・ドローイングを展示します。

●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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