青木宏さん追悼 ― 「瀧口修造 夢の漂流物」展カタログのこと
土渕信彦
建築には不案内、全くの門外漢で、もともと怠け者で不勉強なものですから、青木宏さんのお名前は存じ上げず、もちろんお目にかかったこともありませんでした。
たまたま9月27日の水曜日は、銀座から日本橋にかけて画廊巡りをすることにしており、毎朝楽しみにしている「ときの忘れもの」のブログを拝読して、「これは是非とも gallery TENの追悼展に伺わなくては」と思い、初めてお邪魔したような次第です。
「是非とも伺わなくては」と思った理由は2つあります。
第1に、ブログの綿貫さんの文章によって、青木宏さんその人に共感を覚え、特に末尾の一節、つまり青木宏さんは「磯崎先生が本業の建築設計ではないアート関連の仕事に時間を費やしているときも、ずっとアトリエの中心で設計監理全般の差配をしておられました」という一節に、心を打たれたからです。
第2に、ブログに掲載されていた写真のなかに、ギャラリーの書棚を写した写真がありましたが、その書棚の上の段の左から3冊目の白い本を確認したいと思ったからです。

写真では2005年に世田谷美術館で開催された「瀧口修造 夢の漂流物」展のカタログのように見えたのです。磯崎先生や宮脇先生は瀧口修造と親しかったので、このカタログが書棚にあったとしても不思議ではありませんが、実はこのカタログは、私自身、編集全般のお手伝いをした、個人的に想い出深いものです。全体で20人ほどの若手研究者がそれぞれテーマ別にテキストを寄稿するという、ハンドブックのような構成をとっており、私はそのなかの2編を執筆したほか、瀧口修造の文章のアンソロジー、および参考文献の2編も担当し、つまり合計で4編を寄稿したカタログです。幸いにも好評を博し、私の記憶に誤りがなければ、来場者の4割近くが購入したため、巡回先の富山会場の分も販売しただけでは間に合わず、何度か増刷するほどの売れ行きだったそうです。このカタログを青木宏さんが所蔵してくださっていたのなら、たいへんうれしいことです。

追悼展に伺って実際に書棚を拝見してみると、気になっていた白い本は、やはり「瀧口修造 夢の漂流物」展のカタログでした。受付の女性の方(森瀬さん)が「どうぞお手に取ってご覧ください」と声を掛けてくださったので、棚から取り出してみると、白い付箋が何枚か貼ってありました。何気なく一番上の付箋の頁を開けてみると、何とその頁は私の1編目のカタログテキスト、つまり瀧口修造が構想していた架空の「オブジェの店をひらく」という構想と瀧口自身の部屋との関係についてまとめた、「透明な部屋」と題したカタログテキストの頁ではありませんか!
「二番目の付箋はどうだろう?」と開けて見ると、これまた私が編集したアンソロジー「作家の横顔」の頁でした。三番目の付箋も私がまとめた「参考文献」の頁、四番目も私のカタログテキスト「アクロスティック詩とリバティー・パスポート」の頁でした。つまり、4枚貼られていた付箋のすべてが、私が担当した頁に貼られていたわけです。言葉を失い、しばし呆然としていましたが、気を取り直して森瀬さんに「この付箋は青木さんご自身が貼られたものですか?」と伺うと、「そうだと思いますけれど、何か?」と、不思議そうな表情を浮かべておられました。「実は…」とご説明しながら、感動で胸が一杯になってしまいました。森瀬さんもびっくりされておられました。
このカタログと、貼られていた付箋によって、青木さんが瀧口修造に関心を持っておられただけでなく、私のテキストにも注目してくださったようだと判りました。たいへん有難く光栄なことだと思います。できれば直接、ご意見やご感想などを聴かせていただき、もちろん「間展」のことなども伺いたかったところですが、それが叶わないのが残念でなりません。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
(つちぶち のぶひこ)
●青木宏追悼展「Hommage a Hiroshi 建築家・青木宏の居た/見た世界」
会場:Gallery てん 東京都港区新橋 2-20-15 新橋駅前ビル1号館8階
会期:2023年9月18日~10月9日 ※9月30日を除く※
時間:月曜日~土曜日・祝日 13:00 - 18:00 日曜日は休廊 ※入場無料※

新橋の青木宏追悼展会場の入り口
青木宏さんが学生時代に描いた絵
*画廊亭主敬白
<そんなことがあるのですね。
青木さんの博覧強記・守備範囲の広さにはいつも驚かされっぱなしでしたが、
亡くなってなお人を驚かせ続けるとは、、
(20230928/大野 幸さんからのメール)>
瀧口修造展のカタログに挟まれた4枚の付箋。
生前、おそらくすれ違うこともなかったであろう故・青木宏さんと土渕信彦さんとの瀧口修造を巡る縁は、新橋駅前の小さなギャラリーに青木さんのご自宅から運んだ本棚の一冊によってつながりました。
青木さんの追悼展は10月9日までです。どうぞお運びください。
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

土渕信彦
建築には不案内、全くの門外漢で、もともと怠け者で不勉強なものですから、青木宏さんのお名前は存じ上げず、もちろんお目にかかったこともありませんでした。
たまたま9月27日の水曜日は、銀座から日本橋にかけて画廊巡りをすることにしており、毎朝楽しみにしている「ときの忘れもの」のブログを拝読して、「これは是非とも gallery TENの追悼展に伺わなくては」と思い、初めてお邪魔したような次第です。
「是非とも伺わなくては」と思った理由は2つあります。
第1に、ブログの綿貫さんの文章によって、青木宏さんその人に共感を覚え、特に末尾の一節、つまり青木宏さんは「磯崎先生が本業の建築設計ではないアート関連の仕事に時間を費やしているときも、ずっとアトリエの中心で設計監理全般の差配をしておられました」という一節に、心を打たれたからです。
第2に、ブログに掲載されていた写真のなかに、ギャラリーの書棚を写した写真がありましたが、その書棚の上の段の左から3冊目の白い本を確認したいと思ったからです。

写真では2005年に世田谷美術館で開催された「瀧口修造 夢の漂流物」展のカタログのように見えたのです。磯崎先生や宮脇先生は瀧口修造と親しかったので、このカタログが書棚にあったとしても不思議ではありませんが、実はこのカタログは、私自身、編集全般のお手伝いをした、個人的に想い出深いものです。全体で20人ほどの若手研究者がそれぞれテーマ別にテキストを寄稿するという、ハンドブックのような構成をとっており、私はそのなかの2編を執筆したほか、瀧口修造の文章のアンソロジー、および参考文献の2編も担当し、つまり合計で4編を寄稿したカタログです。幸いにも好評を博し、私の記憶に誤りがなければ、来場者の4割近くが購入したため、巡回先の富山会場の分も販売しただけでは間に合わず、何度か増刷するほどの売れ行きだったそうです。このカタログを青木宏さんが所蔵してくださっていたのなら、たいへんうれしいことです。

追悼展に伺って実際に書棚を拝見してみると、気になっていた白い本は、やはり「瀧口修造 夢の漂流物」展のカタログでした。受付の女性の方(森瀬さん)が「どうぞお手に取ってご覧ください」と声を掛けてくださったので、棚から取り出してみると、白い付箋が何枚か貼ってありました。何気なく一番上の付箋の頁を開けてみると、何とその頁は私の1編目のカタログテキスト、つまり瀧口修造が構想していた架空の「オブジェの店をひらく」という構想と瀧口自身の部屋との関係についてまとめた、「透明な部屋」と題したカタログテキストの頁ではありませんか!
「二番目の付箋はどうだろう?」と開けて見ると、これまた私が編集したアンソロジー「作家の横顔」の頁でした。三番目の付箋も私がまとめた「参考文献」の頁、四番目も私のカタログテキスト「アクロスティック詩とリバティー・パスポート」の頁でした。つまり、4枚貼られていた付箋のすべてが、私が担当した頁に貼られていたわけです。言葉を失い、しばし呆然としていましたが、気を取り直して森瀬さんに「この付箋は青木さんご自身が貼られたものですか?」と伺うと、「そうだと思いますけれど、何か?」と、不思議そうな表情を浮かべておられました。「実は…」とご説明しながら、感動で胸が一杯になってしまいました。森瀬さんもびっくりされておられました。
このカタログと、貼られていた付箋によって、青木さんが瀧口修造に関心を持っておられただけでなく、私のテキストにも注目してくださったようだと判りました。たいへん有難く光栄なことだと思います。できれば直接、ご意見やご感想などを聴かせていただき、もちろん「間展」のことなども伺いたかったところですが、それが叶わないのが残念でなりません。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
(つちぶち のぶひこ)
●青木宏追悼展「Hommage a Hiroshi 建築家・青木宏の居た/見た世界」
会場:Gallery てん 東京都港区新橋 2-20-15 新橋駅前ビル1号館8階
会期:2023年9月18日~10月9日 ※9月30日を除く※
時間:月曜日~土曜日・祝日 13:00 - 18:00 日曜日は休廊 ※入場無料※

新橋の青木宏追悼展会場の入り口
青木宏さんが学生時代に描いた絵*画廊亭主敬白
<そんなことがあるのですね。
青木さんの博覧強記・守備範囲の広さにはいつも驚かされっぱなしでしたが、
亡くなってなお人を驚かせ続けるとは、、
(20230928/大野 幸さんからのメール)>
瀧口修造展のカタログに挟まれた4枚の付箋。
生前、おそらくすれ違うこともなかったであろう故・青木宏さんと土渕信彦さんとの瀧口修造を巡る縁は、新橋駅前の小さなギャラリーに青木さんのご自宅から運んだ本棚の一冊によってつながりました。
青木さんの追悼展は10月9日までです。どうぞお運びください。
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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