佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第87回
梅津さんと瑛九さんを学ぶところから
先月のアートフェア東京での作品展示は、ほかの現代作家の出展者の作品を幅広く、また並列的に眺めることのできるとても貴重な機会だった。特にあのような美術マーケットの場に行くことも少ないので、とても新鮮で驚きもあった。一方そんな中で、自分が今回作ったモノは果たして何なのだろうか、の問いはむしろ深まっていった。

(アートフェア会場の様子)
立体を作って販売もしているが、立体は写真機という道具でもあり、それを使って写真作品を作ってそれも販売していた。その立体は複数台が幾何学状に配置されていて何らかの空間を作ってはいるが、訪れたお客さんはその立体にヨイショと腰をかけて休んでいる。ギャラリーのスタッフの方々も「どうぞお座りください」なんて言ってお客さんを誘っている。いわゆる作品、というような権威性はほとんど無い。面白い。ちょうどときの忘れもののブースが入口手前の角地にあったので、まるで江戸の町かどのような御休み処の体も醸し出していた。
そして会場では実際に立体を使って撮影をしていた。会場内でおよそ丸一日ほどシャッターを開いて撮影し、華やかで活気あるアートフェア会場から作品の箱だけを台車で運びだして、国際フォーラムの地下駐車場に停めていた自家用車の中を暗室に改造して露光させた印画紙の現像作業を一人でこっそりとやっていた。おそらく近くの警備員さんにもこの作業はバレていない。まさにブラックボックス化させた秘匿の生成現場であり、一人で勝手にスリルを感じていたのだった。

(アートフェア会場からこっそりと写真機を運び出す)

(地下駐車場での暗室作業。展示会場が映り込んだ写真を現像した)

(同じく出品されていた葉栗剛さんの彫刻もちゃんと映り込んだ)
しかしやはり、これは一体なんだろうと我ながら考える。そんなアートフェアの最終日の午後、ときの忘れもののブログも連載されている批評家の梅津元さんが来訪された。ときの忘れものギャラリーの人々が半ば興奮して、梅津さんを紹介してくださった。その興奮の空気感に後を押されて、自分も梅津さんに頑張ってプロジェクトの構想の説明を試みる。梅津さんの文章は以前からブログで拝読させていただいていた。そこで紹介されている瑛九の作品も、ときの忘れもの自体もまたとても熱心に紹介していたので、何となくは知っていた。瑛九の作品はアンフォルムと具体的なフォルムがモロに混在しているというか、何だかその時に彼が考えていた脳内のイメージをほとんど偽りなく出力しているような感じの印象を抱いていて、その率直すぎるニュアンスに自分はどうも身構えてしまっていた。
けれども、今回のアートフェアの制作を経て、瑛九のような外連無い継続的で絶え間ない探求制作をもっと自分もやらなければ、と感じいった。今回自分が制作した複数枚からなる写真作品と写真集は、写真の数の多さも相まって、作者である自分が持ってしまう自我いうもどかしいヴェールをほとんど取り去ってくれるような自由さを感じていた。写真という媒体はいわゆる彫刻造形や、スケッチドローイングのような制作よりもさらに速度感があり、また常に自分自身の思考の一歩先を行くような予見さがあることを改めて感じた。それ故に瑛九のフォトデッサンが今の自分にはとても新鮮なのである。

fig.1:瑛九《題不詳》制作年不詳 『第33回瑛九展 湯浅コレクション』より
そんな梅津さんの視点と、瑛九作品との新たな出会いから次の制作を考えていこうとしている。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
《窓はないわけではない 25》
2024年
ゼラチンシルバープリント
18.0×18.0cm
サインあり
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
梅津さんと瑛九さんを学ぶところから
先月のアートフェア東京での作品展示は、ほかの現代作家の出展者の作品を幅広く、また並列的に眺めることのできるとても貴重な機会だった。特にあのような美術マーケットの場に行くことも少ないので、とても新鮮で驚きもあった。一方そんな中で、自分が今回作ったモノは果たして何なのだろうか、の問いはむしろ深まっていった。

(アートフェア会場の様子)
立体を作って販売もしているが、立体は写真機という道具でもあり、それを使って写真作品を作ってそれも販売していた。その立体は複数台が幾何学状に配置されていて何らかの空間を作ってはいるが、訪れたお客さんはその立体にヨイショと腰をかけて休んでいる。ギャラリーのスタッフの方々も「どうぞお座りください」なんて言ってお客さんを誘っている。いわゆる作品、というような権威性はほとんど無い。面白い。ちょうどときの忘れもののブースが入口手前の角地にあったので、まるで江戸の町かどのような御休み処の体も醸し出していた。
そして会場では実際に立体を使って撮影をしていた。会場内でおよそ丸一日ほどシャッターを開いて撮影し、華やかで活気あるアートフェア会場から作品の箱だけを台車で運びだして、国際フォーラムの地下駐車場に停めていた自家用車の中を暗室に改造して露光させた印画紙の現像作業を一人でこっそりとやっていた。おそらく近くの警備員さんにもこの作業はバレていない。まさにブラックボックス化させた秘匿の生成現場であり、一人で勝手にスリルを感じていたのだった。

(アートフェア会場からこっそりと写真機を運び出す)

(地下駐車場での暗室作業。展示会場が映り込んだ写真を現像した)

(同じく出品されていた葉栗剛さんの彫刻もちゃんと映り込んだ)
しかしやはり、これは一体なんだろうと我ながら考える。そんなアートフェアの最終日の午後、ときの忘れもののブログも連載されている批評家の梅津元さんが来訪された。ときの忘れものギャラリーの人々が半ば興奮して、梅津さんを紹介してくださった。その興奮の空気感に後を押されて、自分も梅津さんに頑張ってプロジェクトの構想の説明を試みる。梅津さんの文章は以前からブログで拝読させていただいていた。そこで紹介されている瑛九の作品も、ときの忘れもの自体もまたとても熱心に紹介していたので、何となくは知っていた。瑛九の作品はアンフォルムと具体的なフォルムがモロに混在しているというか、何だかその時に彼が考えていた脳内のイメージをほとんど偽りなく出力しているような感じの印象を抱いていて、その率直すぎるニュアンスに自分はどうも身構えてしまっていた。
けれども、今回のアートフェアの制作を経て、瑛九のような外連無い継続的で絶え間ない探求制作をもっと自分もやらなければ、と感じいった。今回自分が制作した複数枚からなる写真作品と写真集は、写真の数の多さも相まって、作者である自分が持ってしまう自我いうもどかしいヴェールをほとんど取り去ってくれるような自由さを感じていた。写真という媒体はいわゆる彫刻造形や、スケッチドローイングのような制作よりもさらに速度感があり、また常に自分自身の思考の一歩先を行くような予見さがあることを改めて感じた。それ故に瑛九のフォトデッサンが今の自分にはとても新鮮なのである。

fig.1:瑛九《題不詳》制作年不詳 『第33回瑛九展 湯浅コレクション』より
そんな梅津さんの視点と、瑛九作品との新たな出会いから次の制作を考えていこうとしている。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
《窓はないわけではない 25》 2024年
ゼラチンシルバープリント
18.0×18.0cm
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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