佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第90回
家への興味、家に帰る
次の制作について考えている。
本当ならばそんな断続的にやるのではなく、もっと継続して日々モノを作り続けていけるといいのだけれども、いかんせん日頃の設計仕事もある二足の草鞋の状態でもあるので難しいところもある。夏休みの日記とか日々問題集を解くとかも継続してできた試しが無いので、結局は何かの締め切りというかノルマのようなものが自分にはとても有難い。また幸い、設計仕事と制作、あるいは建築の施工をやることもまた、制作することにとても近い位置にあるはずなので、実は途切れることなく思考がユルリと繋がっているのだという気もしている。履き回している二足の草鞋が実はほとんど変わりのない二足だということだ。
設計仕事はというと、実は今年はなぜか、そしてようやく、住宅のプロジェクトが多くなっている(そのうちいくつかは自分たちの拠点だったり、身内の家の設計であるが)。これはあくまでも私見だが、住宅と住宅でないプロジェクトの大きな違いといえば、おそらく靴を履いていないか履いているかの違いなのではないかと思っている。靴を履いていないならば、そのまま床に座するのも楽だし、家具や建具の足元が痛むことにも余計な配慮が必要なくなる。家具や内部造作を含めた建築のいろいろな要素が人の身体に若干ではあるが近しいモノになるところに、改めて魅力を感じている。靴を履くか履かないかはあくまでも地域慣習の違いにすぎないとは思うが、そこを起点として分かれ生まれてくるモノのちょっとしたあり方の違いがなんだかとても気になるのだ。
ちなみに駒込のときの忘れものギャラリーも、靴を脱いで入る場所だ。阿部勤さんが設計した住宅をギャラリーとして使っているためである。今まで実は、立体を作るに当たってはあまりギャラリーの空間をどう扱っていくかの配慮をしてこなかったのだが、(もちろん会場の動線などは確保して配置していたが、)もっとギャラリー空間自体への積極的な介入のあり方を工夫していかなければと思っている。コマーシャルギャラリーでの作品展示は、作品自体が売買されてどこか違う場所に移動するのだから、その展示空間からは本質的に自立していることが常であるが、その展示のあり方、場所の総体としての質感をもう少しちゃんと考えなければいけないなと思っている。
そもそもカメラを作り始めたのは、実は、建築というものからの遊離、普段やっている建築との距離感の設定によるものだった。自分が何かを作り続けるモノとして、建築とも歴史的に関係が深い椅子や机などの家具を何となく避けたのだった。そして歴史から多少自由に思えた写真機(特にピンホールカメラ)という道具を主題に据え、その中で形の模索を続けている。
そんなカメラ制作を再び家の中に持ち込み、いくつかのしかるべき場所にとしているのが、おそらく今度秋に予定している個展の向かう先である。
そのほかにも、写真自体への探究成果も幾らか展示したい。実は今はガラス乾板を作っている途中だが、それはほとんど世界中の家の窓としてガラスが使われていることへの興味から来ている。

(撮影体と被写体と、そして現像した写真(とその支持体)について。今のところこれらをギャラリーの机の上で展開させようとしている)

(いくつかの窓台での工夫。向い合っている窓それぞれの位置と距離感を考える。)
今回は展示空間を制作物の起点、前提としていきたいと思っているが、同時にその空間(部屋)自体が何かの縮減模型のような抽象を担うべきだろうとも思っている。写真というメディアが持っている、何かを取り込んでしまうある種の箱庭を生成するような特性をさらに活かしたいと思っている。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。今秋11月には三回目の個展をときの忘れもので開催します。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
《空洞のための囲い2》
2022年
ゼラチンシルバープリント
8.3×8.1cm/11.1×12.7cm
Ed. 1
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
家への興味、家に帰る
次の制作について考えている。
本当ならばそんな断続的にやるのではなく、もっと継続して日々モノを作り続けていけるといいのだけれども、いかんせん日頃の設計仕事もある二足の草鞋の状態でもあるので難しいところもある。夏休みの日記とか日々問題集を解くとかも継続してできた試しが無いので、結局は何かの締め切りというかノルマのようなものが自分にはとても有難い。また幸い、設計仕事と制作、あるいは建築の施工をやることもまた、制作することにとても近い位置にあるはずなので、実は途切れることなく思考がユルリと繋がっているのだという気もしている。履き回している二足の草鞋が実はほとんど変わりのない二足だということだ。
設計仕事はというと、実は今年はなぜか、そしてようやく、住宅のプロジェクトが多くなっている(そのうちいくつかは自分たちの拠点だったり、身内の家の設計であるが)。これはあくまでも私見だが、住宅と住宅でないプロジェクトの大きな違いといえば、おそらく靴を履いていないか履いているかの違いなのではないかと思っている。靴を履いていないならば、そのまま床に座するのも楽だし、家具や建具の足元が痛むことにも余計な配慮が必要なくなる。家具や内部造作を含めた建築のいろいろな要素が人の身体に若干ではあるが近しいモノになるところに、改めて魅力を感じている。靴を履くか履かないかはあくまでも地域慣習の違いにすぎないとは思うが、そこを起点として分かれ生まれてくるモノのちょっとしたあり方の違いがなんだかとても気になるのだ。
ちなみに駒込のときの忘れものギャラリーも、靴を脱いで入る場所だ。阿部勤さんが設計した住宅をギャラリーとして使っているためである。今まで実は、立体を作るに当たってはあまりギャラリーの空間をどう扱っていくかの配慮をしてこなかったのだが、(もちろん会場の動線などは確保して配置していたが、)もっとギャラリー空間自体への積極的な介入のあり方を工夫していかなければと思っている。コマーシャルギャラリーでの作品展示は、作品自体が売買されてどこか違う場所に移動するのだから、その展示空間からは本質的に自立していることが常であるが、その展示のあり方、場所の総体としての質感をもう少しちゃんと考えなければいけないなと思っている。
そもそもカメラを作り始めたのは、実は、建築というものからの遊離、普段やっている建築との距離感の設定によるものだった。自分が何かを作り続けるモノとして、建築とも歴史的に関係が深い椅子や机などの家具を何となく避けたのだった。そして歴史から多少自由に思えた写真機(特にピンホールカメラ)という道具を主題に据え、その中で形の模索を続けている。
そんなカメラ制作を再び家の中に持ち込み、いくつかのしかるべき場所にとしているのが、おそらく今度秋に予定している個展の向かう先である。
そのほかにも、写真自体への探究成果も幾らか展示したい。実は今はガラス乾板を作っている途中だが、それはほとんど世界中の家の窓としてガラスが使われていることへの興味から来ている。

(撮影体と被写体と、そして現像した写真(とその支持体)について。今のところこれらをギャラリーの机の上で展開させようとしている)

(いくつかの窓台での工夫。向い合っている窓それぞれの位置と距離感を考える。)
今回は展示空間を制作物の起点、前提としていきたいと思っているが、同時にその空間(部屋)自体が何かの縮減模型のような抽象を担うべきだろうとも思っている。写真というメディアが持っている、何かを取り込んでしまうある種の箱庭を生成するような特性をさらに活かしたいと思っている。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。今秋11月には三回目の個展をときの忘れもので開催します。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
《空洞のための囲い2》 2022年
ゼラチンシルバープリント
8.3×8.1cm/11.1×12.7cm
Ed. 1
サインあり
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