杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第101回
気候と空間の透明性
僕の住んでいるスイスは国の大きさが九州7県と同じくらい、人口密度はその70%弱で少し広々としています。夏は日差しが強く気温も日本に負けず高いものの、カラッとしているので日陰に入れば比較的過ごしやすく、そんな気候だから多くの住宅には冷房がありません。(僕たちの事務所にも冷房はありません) だからと言って、暑すぎるというわけでもない。朝早くに窓を全開してフレッシュな空気を取り込んで、その後外付けの日除けスクリーンを下せば1日を通して比較的快適に過ごせます。
一方、冬はマイナス10度弱まで気温が下がるので(クール市の場合)、必然的に建物の造りに違いが出る。断熱材の厚みが大きく、したがって壁は建築の内部と外部を緩やかに仕切るというよりも、きっちりと分け隔てることが基本的な性能として求められます。そこに僕は、スイスと日本の建築空間の考え方の最も大きな違いが出ていると思います。
日本のほとんどの気候において成立する建築の、その芯のようなものがあるとすれば、それは≪内外の境界を建築的に提案できる≫ということだと思います。スイスでバッファーゾーン、つまり半外部空間をつくることの意味は、日本のそれとは圧倒的に違います。

仮にウィンターガーデンのような半外部空間があったとしても、それは半外部と外部空間との境を弱めているだけであって、内と外との境界自体を弱めているわけではないのです。(赤矢印点線) その半屋外の断熱/暖房なしの空間と、屋内の断熱/暖房ありの空間との差は、特に雪の降り積もるほど寒い冬を想定すると、なかなか無くすことのできない境界になります。スイスの気候では、そこにガッチリとした壁や十分な気密、断熱性のあるトリプルガラスが欲しいのです。
建物はいくらガラス面が多く視線が抜けていたとしても、しっかりとした造りの窓と壁によって、身体的、感覚的には透明性に欠けるものとなってしまいがちです。
スイスの建築は見た目に重く、そして堅強なシェルターです。その良さ、快適さと引き換えに、日本の建築が持っている空間の自由さがないのは少し残念に思っているところです。こう考えると、気候というのは建築空間の作り方に本当に大きな影響を与えています。
(すぎやま こういちろう)
■杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。
・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
●本日のお勧め作品は杉山幸一郎です。
"Museum 01"
2019年
MDF、アルミ
55.0x18.0x25.0cm
Ed.1
サインあり
制作は家具職人Serge Borgmannと協働
Photo c Serge Borgmann & Koichiro Sugiyama
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは8月11日(日)~19日(月)は夏季休廊いたします。
各種お問い合わせへの対応は8月20日(火)以降となりますのでご理解いただけますと幸いです。
*画廊亭主敬白
8日の宮崎に続いて昨日9日には神奈川で大きな地震がありました。
都内も随分揺れたようですが、ときの忘れもののある文京区ではほとんど揺れはありませんでした。
ちょうど20日から開催する「杣木浩一 × 宮脇愛子展」の展示作業が一段落したばかりでしたが、おかげさまで作品はすべて無事でした。
皆様のところはいかがでしたか。お怪我などないことを祈っています。
●「杣木浩一×宮脇愛子」展カタログを刊行
ときの忘れもの 2024年 25.7×17.2㎝ 24P
執筆:杣木浩一
図版:26点掲載(杣木浩一13点、宮脇愛子13点)
編集:尾立麗子(ときの忘れもの)
デザイン:岡本一宣デザイン事務所
価格:1,100円(税込み)+送料250円
オンラインでも販売中です。
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
気候と空間の透明性
僕の住んでいるスイスは国の大きさが九州7県と同じくらい、人口密度はその70%弱で少し広々としています。夏は日差しが強く気温も日本に負けず高いものの、カラッとしているので日陰に入れば比較的過ごしやすく、そんな気候だから多くの住宅には冷房がありません。(僕たちの事務所にも冷房はありません) だからと言って、暑すぎるというわけでもない。朝早くに窓を全開してフレッシュな空気を取り込んで、その後外付けの日除けスクリーンを下せば1日を通して比較的快適に過ごせます。
一方、冬はマイナス10度弱まで気温が下がるので(クール市の場合)、必然的に建物の造りに違いが出る。断熱材の厚みが大きく、したがって壁は建築の内部と外部を緩やかに仕切るというよりも、きっちりと分け隔てることが基本的な性能として求められます。そこに僕は、スイスと日本の建築空間の考え方の最も大きな違いが出ていると思います。
日本のほとんどの気候において成立する建築の、その芯のようなものがあるとすれば、それは≪内外の境界を建築的に提案できる≫ということだと思います。スイスでバッファーゾーン、つまり半外部空間をつくることの意味は、日本のそれとは圧倒的に違います。

仮にウィンターガーデンのような半外部空間があったとしても、それは半外部と外部空間との境を弱めているだけであって、内と外との境界自体を弱めているわけではないのです。(赤矢印点線) その半屋外の断熱/暖房なしの空間と、屋内の断熱/暖房ありの空間との差は、特に雪の降り積もるほど寒い冬を想定すると、なかなか無くすことのできない境界になります。スイスの気候では、そこにガッチリとした壁や十分な気密、断熱性のあるトリプルガラスが欲しいのです。
建物はいくらガラス面が多く視線が抜けていたとしても、しっかりとした造りの窓と壁によって、身体的、感覚的には透明性に欠けるものとなってしまいがちです。
スイスの建築は見た目に重く、そして堅強なシェルターです。その良さ、快適さと引き換えに、日本の建築が持っている空間の自由さがないのは少し残念に思っているところです。こう考えると、気候というのは建築空間の作り方に本当に大きな影響を与えています。
(すぎやま こういちろう)
■杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。
・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
●本日のお勧め作品は杉山幸一郎です。
"Museum 01"2019年
MDF、アルミ
55.0x18.0x25.0cm
Ed.1
サインあり
制作は家具職人Serge Borgmannと協働
Photo c Serge Borgmann & Koichiro Sugiyama
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは8月11日(日)~19日(月)は夏季休廊いたします。
各種お問い合わせへの対応は8月20日(火)以降となりますのでご理解いただけますと幸いです。
*画廊亭主敬白
8日の宮崎に続いて昨日9日には神奈川で大きな地震がありました。
都内も随分揺れたようですが、ときの忘れもののある文京区ではほとんど揺れはありませんでした。
ちょうど20日から開催する「杣木浩一 × 宮脇愛子展」の展示作業が一段落したばかりでしたが、おかげさまで作品はすべて無事でした。
皆様のところはいかがでしたか。お怪我などないことを祈っています。
●「杣木浩一×宮脇愛子」展カタログを刊行
ときの忘れもの 2024年 25.7×17.2㎝ 24P執筆:杣木浩一
図版:26点掲載(杣木浩一13点、宮脇愛子13点)
編集:尾立麗子(ときの忘れもの)
デザイン:岡本一宣デザイン事務所
価格:1,100円(税込み)+送料250円
オンラインでも販売中です。
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
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