杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第102回

設計コンペの展示会

初夏に提出した設計コンペの展示オープニングがあるというので、計画敷地であったBadenへ行ってきました。

スイスではコンペ要項や手順のフォーマットがSIA (スイスエンジニア建築家協会)によってガイドライン (SIA142)として定められているので、それに沿った方法で進められることが多く、匿名性の保持や賞金の割り当て、質疑応答を設けることなど多くの点で参加者にクリアになっています。

コンペの形式としては、誰でも参加できるオープンコンペ、書類審査を通したコンペ、そして招待コンペがあり、提出する内容によって、アイデアコンペとプロジェクトコンペがあります。
プロジェクトコンペともなると、例えば提出するプレゼンテーションボードはA0用紙四枚程度が一般的で、建物の配置や間取りだけでなく、仕上げを含めた矩形図を描くため、少ない期間で多くのことを決定して望まなければなりません。各事務所は2-3ヶ月の時間をかけて、数人で取り組むので、かける時間や費用は莫大なものになります。

審査では大きな会場にパーティション壁が設置され、そこに貼られて審査されることが前提であるので、その用紙たちをどう壁にレイアウトするのが良いのか。ということまで提出する際には図示します。
そして、プレゼンボードの提出が終わった二週間後くらいに、主催者から与えられる縮尺1:500や1:1000などの石膏白模型の提出があり、参加者の提案、そこでは主に敷地内のヴォリュームの配置が一律に比べられるようになっています。
プレゼンボードに載せるイメージは模型写真というよりもレンダリングイメージが主流で、自社ではなく外注されることがよくあります。石膏白模型は敷地部分だけ取り外せられるようになっており、プロジェクト部分を制作してそこに移植することになります。ここでも、模型の精度があった方が印象が良いので、ほぼ全ての設計事務所は模型屋さんに制作をしてもらいます。

こうした背景からスイスにはModellbau (コンペの模型制作のみならず、建築プレゼンのため、展示のためなど)という職業があり、職人学校でそれを学ぶクラスがあります。家具職人になるのか、模型職人になるのか。という職業の選択になるのです。

さて、実際に展示の様子を少しだけ見ていきましょう。

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石膏模型。皆が同じ作り方をするので、敷地にどう建築のヴォリュームを配置するかということにフォーカスして案を比べることができます。1等案から僕たちの3等案まで。計画する場所が違うことがわかります。

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今回は、こうしたプレゼンボード(A0横づかい)を4枚まで提出することができました。写真は1等案の一枚目のプレゼンボードです。

僕たちの案は3等だったので、幾らかの賞金を得ることができますが、プロジェクトを実現することはできません。そういう意味で、入賞と一等の差は大きい。オープニングでは、上位二チームのプレゼンや案を見ることのみならず、審査員が入賞案や審査プロセスについて時系列で詳しく説明してくれたので、結果を冊子にて見るだけでは到底得られない情報や感覚的に感じ取れる部分があって、とても勉強になりました。

展示は、地域の人たちにコンペ結果を知らせるためのイベントでもあるので、地元に住む老若男女が集まって、建築家そっちのけで意見を話し合っている。耳をそばだてて聞きながら、自分たちが感じていたものとはまた別の視点から、プロジェクトを振り返り反省することできました。

(すぎやま こういちろう)

杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

●本日のお勧め作品は杉山幸一郎です。
sugiyama-hall01《Hall 01》
2020年
洋ナシ材、シッポ材、アルミ
7.0×9.8×11.0cm
Ed.1
サインあり
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●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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