「建築を作りながら考える、ということを実現するにはどうしたら良いか」

6月はいくつかの取材やイベント、そして自分がやっているプロジェクトの中で、建築における設計と施工の関係、あるいは建築未満のスケールのモノを作ることについて、改めて考えを巡らせることが多かった。実は最近、パソコンの前にばかり座っていて、手を動かしていない。おかげで周辺の人々とのメールなどでのやりとりは捗り、とても滑らかになるのだが、どうにも不健全な気がしてくる。いまやっている現場においても、設計監理に徹する形で工務店の人たちとやり取りをしに現場を訪れはするが、どうにも居心地が悪く、手持ち無沙汰な感じがしてしまう(もちろん色々と監理の仕事はあるのだが、)。

最近は設計の仕事のボリュームが大きくなってしまったために、設計施工で請け負うことがマンパワー的にできなくなっているのも問題に感じている。今は建設業許可を持ってはいないので大きな工事を請けることはできない。けれども、何となくやはり、あくまでも建築を作るということは自分自身の手の延長としてあってほしいし、自分のスケールが地続きに広がっていった結果であってほしいと思うのだ。それは独占欲や支配欲では決してない。建築や何らかの場所を一人の力だけで作ることができないのは当然知っている。自分自身の小ささや限界を痛感して、自分ではできない部分を他の人に頼んで、協働を試みたい。誰が作るか、誰が考えるかは別にして、どこまでも自分ゴトとして考え尽くしたいのである。一方で、自分はやはり頭の中だけでその世界のすべてを考えることに限界を感じてしまうので、作っている現場の中で自由に考えを巡らせたい。なので小さくても、些細にでも構わないので、たとえ手弁当になったとしても、自分たちで作るあるいは仕上げるための工程、余地を残しておくことを試みる。(それは、設計として携わる自分たちが、作り方とそのプロセスを幾らかデザインすることができるからでもある。)


(「二宮町の仮屋」解体工事の様子)

最近ようやく、神奈川県二宮町での自分たちの拠点づくりが改めて始まった(一度、既存内部の解体をしてから準備作業は少しずつ続けていた)。自分たちで工事を実施する、あるいは直営工事で分離発注をする形でガチャガチャとやろうかとも考えたが、この土地にまだ馴染みもないので、まずは良い職人さんらと繋がろうと考え、隣町のとんかちドリルズさんという工務店に工事を請けてもらっている。当然ながら、大工さんが手間代だけで現場に入るのと、工事の請負で現場に入るのではその主体性が違ってくる。今回は請負で入ってもらい、できることならばその現場の進め方を間近で勉強したい、という下心もあった。


(「二宮町の仮屋」の計画模型)

しかし残念ながら、こちらの財布事情はあまり芳しくないこともあって、全ての工事をお願いすることはせずに、結果的には仕上げ工事や雑作業などは自分たちで実施することになる予定である。自分たちの作業のうち、比較的ボリュームが大きいのがコンクリートの壁柱を複数箇所建てる工事。建物正面のファサードに4箇所、内部に5箇所ほど、コンクリートの壁柱を耐力壁として作る。コンクリートの工事は大変だけれども、ある種コツコツとできるものでもあるので、とんかちドリルズさんにお願いしている部分と並行する形で、こちらも作業に取り掛かりたいと思っている。そんな作業をしながら、自分たちがこれから建築にどのように携わっていくことができるのか、具体的な作戦を立てていこうと思っている。


(建物正面のコンクリート壁柱に関するスケッチ)

(さとう けんご)

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2018年12月初個展「佐藤研吾展―囲いこみとお節介」をときの忘れもので開催。2022年3月第2回個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を、2024年11月第3回個展「佐藤研吾展 くぐり間くぐり」をときの忘れもので開催した。

・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●本日7月7日はLAS CASASを設計された阿部勤先生(1936-2023)のお誕生日です。現在発売中の雑誌『住宅特集 2025年7月号』巻末には佐藤研吾さんが阿部勤展のレビューを寄せていらっしゃり、ときの忘れものについても少し触れてくださっています。ぜひご覧ください。

●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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