「刷り師・石田了一の仕事」

第8回「自画自選・賀状の絵解き」


 その年の干支(えと)や流行や世相を読み込んだり、しなかったり。絵解き・謎解き・
技法なども加味しながら、先ずは、巳年の1989年から2001年までの十三葉。

 この世にパソコンの家庭用カラープリンターが、まだ無かった時代、ある作家ご夫妻から各々の年賀状の刷りを任されていた。
入稿がクリスマス、お渡しが除夜の鐘までという、まことに師走に相応しいご依頼であった。
なので、1年に一度限りの自分の「作品」?である賀状づくりは、だいたい年が明けてからになってしまう。三日でアイディア、三日での刷り上がり、正月特別番組の誘惑に負けないで、松の内に出来れば上々だ。
 根室弁で言えば、「ゆるくないんだわ」。

1
1989年[昭和64年・平成元年]巳(み)
DAPPY NEW YEAR  みをむすぶ
ダッピーニューイヤー
妹(札幌・円山動物園)から貰った実物の
脱皮したヘビの抜け殻を結んでコピー製版、
努力が実を結ぶに掛けた。1月7日に昭和天皇が崩御。
6版6色6度刷り。


2
1990年(平成2) 午(うま)
ゆきのなかのしろいうま
おりのなかのしまうま
やみのなかのくろいうま

ミニマルアート風。
闇の中の黒い馬は、もちろん埴谷雄高。
製版はマスキングフィルムのカッティング。
スミ色と相性の良くない種類のインクをのせて、
細かなひび割れの(梨地塗装に似た)質感を出した。
5版5色5度刷り


3
1991年(平成3) 未(ひつじ)
正月早々、届けられる年賀状の中に領収書を
紛れ込ませて驚かそうという魂胆。
「金額が年号ね、本物っぽく良くできている」という感想が大半で、
¥が羊になっているのに気付いた人は、少なかったようだ。
4版4色4度刷り


4
1992年(平成4) 申(さる)
Rie Miyazaru
宮沢りえ18歳の写真集「サンタフェ」が150万部突破とか。
サルの色っぽいオデコの皺は、表紙にもなっている扉の切抜き模様。
5版5色5度刷り


5
1993年(平成5) 酉(とり)
スーパーの弁当に入っていた半切れの煮卵から、
卵の黄身を日の丸にして「きみがよ」に。
1993を裏返しするとe99(卵)が隠れている。
7版7色7度刷り(ボカシ1)


6
1994年(平成6) 戌(いぬ)
調味料のパッケージより。
平成が平戌になっている。
5版5色5度刷り


7
1995年(平成7) 亥(いのしし)
亀と鶴をあしらった夢亀鶴(ゆめきかく)というお酒のラベル風に。
夢企画の実現をドリカムに託し、
年号の横のお猪口で乾杯。
夢 ドリーム
亀 カメ
鶴 ツル
Dreams Come True
7版7色7度刷り


8
1996年(平成8) 子(ね)
年号を勾玉に見立て、
インクに蓄光パウダーを混ぜ込んだ。
灯りを消しても勾玉(’96)だけが光って浮き上がる。
ありのままでひねり無し。
6版6色6度刷り


9
1997年(平成9) 丑(うし)
禅書のようにOX(オックス・雄牛)。
墨汁で刷ってみた。乾燥すると分離した成分が、
雲母のようにキラキラと浮いて出る。
2版2色2度刷り


10
1998年(平成10) 寅(とら)
世紀末に向かいスピリチュアルなTiger。
2版2色2度刷り


11
1999年(平成11) 卯(うさぎ)
数字99の片方を裏返して卯と読ませる。
このデザインを次に使えるのは274年後の卯年、
2299年まで待たなければならない。
マスキングフィルムのカッティング。
2版2色2度刷り


12
2000年(平成12) 辰(たつ)
漢字で西暦二千年は、ひっくり返すと平成十二年。
インクに挽きぐるみの蕎麦粉を混ぜて、
ざらついた味わいを出している。
2版1色2度刷り


13
2001年(平成13) 巳(み)
21世紀の始まり、奇跡(巳ら来る)にかけた銀色の7匹が登場。
2版2色2度刷り


「自画自選・賀状の絵解き」の続きは、また来年の1月にでも。乞うご期待。

(いしだりょういち)

■石田了一(いしだりょういち)
シルクスクリーン刷り師・石田了一工房主宰
1947年北海道根室生まれ、1970 年美學校で岡部徳三氏に師事。
1971年、宇佐美圭司展(南画廊)で発表された<ボカシの 40 版>の版画で
工房をスタート。これまでにアンディ・ウォーホル、安藤忠雄、磯崎新、
草間彌生、熊谷守一、倉俣史朗、桑山忠明、五味太郎、 菅井汲、関根伸夫、
田名網敬一、寺山修司、鶴田一郎、萩原朔美、
毛綱毅曠、元永定正、脇田愛二郎、脇田和 他 ,
様々なジャンルのアーティストのシルクスクリーン作品を手掛ける。

●連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。
次回は2月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。

●本日のお勧め作品は菅井汲です。
sugai060821 (1)《シグナルG》
1976年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:31.5×22.0cm
シートサイズ:40.5×28.5cm
Ed.150
サインあり
※レゾネNo255(阿部出版)
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。


●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
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E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
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JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。