佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第96回
「かた」について
建築の界隈畑の人たちからすれば、「かた」と聞けばすぐにでも「か!」「かたち!」という合言葉が返って来そうだが、ここで言う「かた」は確かにそんな意味あいもある。が、もう少し肩(かた)肘張っていない不完全な「かた」。手法として体系化までは収斂しない程度の方法論、テーゼとまでは言えずとも何か頭の片隅に引っかかり続けているフレーズ、くらいのモノについてだ。感覚的な言葉を書き連ねているので、読まれる人には、何がなんだか、と思われるかもしれない。けれどもこんな徒然な筆致が実はとても物事・考え事を捉えるのには的確な気がしているから、あの手記本を作ってからも、ひとまず続けている。
建築を学び始めてから、意図せずにではあるが、いくつかの「かた」に取り組んできたと思っている。ここでの「かた」とは具体的なモノとしての型だ。学生のころの高山建築学校では、コンクリートを型枠によって打設することを学んだ。震災の後しばらくしてから始めた藍染のプロジェクトグループ・歓藍社では、布に柄を付けるために柄となる部分に型を当てて染液が染み込まないようにする工夫があることを知った。ネパールのパタンで金属仏像の鋳造製法を見知って、どうにか自分たちで鋳造による建築金物を試作した。そのときに鋳型、あるいは原型が、最終的な成果物の姿を規定しつつも、型という制作の一過程を挟むことで、構想イメージと成果物との間のズラシにも別の可能性があることを思うに至った。数年作り続けているピンホールカメラもまた、道具としてのある種の限定的な機能性と、ネガを生成しさらにそこからポジを作り出す暗室作業の即興感によって、撮影と写真との間におけるいくつものあり得る展開が見えてきた。
つまり、ここでいう「かた」とはおそらく、
か → かた → かたち
という段階論的な話ではなく、むしろ、
か → |
| ← かた
かたち → |
という感じで「か」と「かたち」とはある種の虚像に位置しているような感覚がある。(ちょっとわかりにくいかもしれない、)
実から虚が生まれ、その虚からまた実が生成されるとき、始めの実と終わりの実は異なる地点にいる、という感じ、かもしれない。
それはそれとして、今度の制作の展開として、版画をやってみることになった。当然だが、版画も「かた」を使った制作である。ときの忘れものさんから紹介してもらい、12月の上旬に白井版画工房さんのところで試作をさせてもらった。白井さんは当方のボンヤリとしたドローイングを見て瞬時に版の在り方についてのアイデアが降ってきたらしく、色々と版の作り方を教えてもらう。アルミの端材を組み合わせたり、銅板に紙ヤスリを当てて図像を作りだしたり。そんなふうに、かなり即興的でまた図画工作的な簡便さのある制作媒体であることも学んだ。遊び感覚で、というと日常仕事に抹殺されてなかなか手が出せないが、近日中にどこかでは、この版画の制作にあらためて取り組んでみたいと思っている。




あらためて、冒頭に記した「かた」について。「テーゼとまでは言えずとも何か頭の片隅に引っかかり続けているフレーズ、くらいのモノ」が建築を作る際にもしあれば、そのボンヤリとした輪郭を改変するも破壊するも自由だとしても、何か次へと進めるのではないか(方向が仮に間違っていたとしても)と思って、コロガロウの建築制作ルール、と題して少し取り留めもないいくつかの言葉を並べてみた。
これらの文言は、今までいくつかやってきた建築プロジェクトを事後的に眺めてみて改めて思いついた基底に有り得そうなフレーズだ。
このルールがどのくらいの頻度で変更されていくか、建築を作ることを続けながら試してみたい。

(https://korogaro.net/)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2018年12月初個展「佐藤研吾展―囲いこみとお節介」をときの忘れもので開催。2022年3月第2回個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を、2024年11月第3回個展「佐藤研吾展 くぐり間くぐり」をときの忘れもので開催した。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。

《湖3》
2024年
画用紙に鉛筆、水彩
22.7×20.0cm
サインあり
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は原則として休廊ですが、企画によっては開廊、営業しています。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
「かた」について
建築の界隈畑の人たちからすれば、「かた」と聞けばすぐにでも「か!」「かたち!」という合言葉が返って来そうだが、ここで言う「かた」は確かにそんな意味あいもある。が、もう少し肩(かた)肘張っていない不完全な「かた」。手法として体系化までは収斂しない程度の方法論、テーゼとまでは言えずとも何か頭の片隅に引っかかり続けているフレーズ、くらいのモノについてだ。感覚的な言葉を書き連ねているので、読まれる人には、何がなんだか、と思われるかもしれない。けれどもこんな徒然な筆致が実はとても物事・考え事を捉えるのには的確な気がしているから、あの手記本を作ってからも、ひとまず続けている。
建築を学び始めてから、意図せずにではあるが、いくつかの「かた」に取り組んできたと思っている。ここでの「かた」とは具体的なモノとしての型だ。学生のころの高山建築学校では、コンクリートを型枠によって打設することを学んだ。震災の後しばらくしてから始めた藍染のプロジェクトグループ・歓藍社では、布に柄を付けるために柄となる部分に型を当てて染液が染み込まないようにする工夫があることを知った。ネパールのパタンで金属仏像の鋳造製法を見知って、どうにか自分たちで鋳造による建築金物を試作した。そのときに鋳型、あるいは原型が、最終的な成果物の姿を規定しつつも、型という制作の一過程を挟むことで、構想イメージと成果物との間のズラシにも別の可能性があることを思うに至った。数年作り続けているピンホールカメラもまた、道具としてのある種の限定的な機能性と、ネガを生成しさらにそこからポジを作り出す暗室作業の即興感によって、撮影と写真との間におけるいくつものあり得る展開が見えてきた。
つまり、ここでいう「かた」とはおそらく、
か → かた → かたち
という段階論的な話ではなく、むしろ、
か → |
| ← かた
かたち → |
という感じで「か」と「かたち」とはある種の虚像に位置しているような感覚がある。(ちょっとわかりにくいかもしれない、)
実から虚が生まれ、その虚からまた実が生成されるとき、始めの実と終わりの実は異なる地点にいる、という感じ、かもしれない。
それはそれとして、今度の制作の展開として、版画をやってみることになった。当然だが、版画も「かた」を使った制作である。ときの忘れものさんから紹介してもらい、12月の上旬に白井版画工房さんのところで試作をさせてもらった。白井さんは当方のボンヤリとしたドローイングを見て瞬時に版の在り方についてのアイデアが降ってきたらしく、色々と版の作り方を教えてもらう。アルミの端材を組み合わせたり、銅板に紙ヤスリを当てて図像を作りだしたり。そんなふうに、かなり即興的でまた図画工作的な簡便さのある制作媒体であることも学んだ。遊び感覚で、というと日常仕事に抹殺されてなかなか手が出せないが、近日中にどこかでは、この版画の制作にあらためて取り組んでみたいと思っている。




あらためて、冒頭に記した「かた」について。「テーゼとまでは言えずとも何か頭の片隅に引っかかり続けているフレーズ、くらいのモノ」が建築を作る際にもしあれば、そのボンヤリとした輪郭を改変するも破壊するも自由だとしても、何か次へと進めるのではないか(方向が仮に間違っていたとしても)と思って、コロガロウの建築制作ルール、と題して少し取り留めもないいくつかの言葉を並べてみた。
これらの文言は、今までいくつかやってきた建築プロジェクトを事後的に眺めてみて改めて思いついた基底に有り得そうなフレーズだ。
このルールがどのくらいの頻度で変更されていくか、建築を作ることを続けながら試してみたい。

(https://korogaro.net/)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2018年12月初個展「佐藤研吾展―囲いこみとお節介」をときの忘れもので開催。2022年3月第2回個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を、2024年11月第3回個展「佐藤研吾展 くぐり間くぐり」をときの忘れもので開催した。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。

《湖3》
2024年
画用紙に鉛筆、水彩
22.7×20.0cm
サインあり
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は原則として休廊ですが、企画によっては開廊、営業しています。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
コメント