「送ろうとして送らずに残ってしまった、ということをもう一度考えてみる」
昔作った赤いハコの家具(〈日本からシャンティニケタンへ送る家具1,2〉)。これを数年ぶりに改めて眺める機会を得た(エッセー第103回)。そのときの感触をもとに、写真機ではない“ハコ”を持った家具を、もう一度つくってみようと考えている。
<送る家具>は、その名の通り、インドのシャンティニケタンという少し遠い、けれども確かな届け先があった家具だった。しかし結果的にはインドへ持って行くことをやめ、日本にとどまり続けた。そして最近になって、その二体はそれぞれ別の方の手元へと渡っていった。
今回あらためて作る家具には、そんな確かな届け先は定まっていない。しかも二体ではなく、十体、あるいはそれ以上の点数をつくろうとも考えているので、よりプロダクト的な趣が出てくるかもしれない。プロダクトや家具を作ることへの憧れがある一方で、先が見えないことへの不安も同時にある。場所性を伴わないプロダクトとは、一体何を根拠にして作られるのだろうか。そう考えはじめると時折、自分の手が止まってしまう。そしてだいたいの場合、何かしらの根拠を捻り出して制作物に付帯させようとする。
根拠を求める先は、その土地の性質であったり、調達できる材料であったり、自分自身の「今ここ」の境遇であったり、作り手の個人性や手癖のような些細なことであったりもする。あるいは、捏造されたフィクションや架空の物語を根拠としても良いはずだ。そもそも制作のときには、根拠が無いまま暗中模索で走りはじめ、あとになって「どこへ向かっていたのか」「どこから走ってきたのか」が段々と分かってくることも多い。
今回の家具を作る動機は、八年前の〈送る家具〉の“続きを作る”ことである。最終的には「送ろうとして送らなかった」家具なのだが、想いだけが遠くへ馳せ、モノはそのままここに留まり続けた──その“哀しみ”のような気配を、むしろ気に入っていた。今回はこの「モノが残る哀しみ」から考えてみようと思う。
一方で、家具の形自体は大きく変えないつもりだ。いくつか技術的な改善や更新は施すけれど、全体の輪郭は引き継ぎつつ、八年前に“在ったかもしれない”三番目(椅子型の家具も入れれば四番目)の家具の姿を描く。どこかに微かな哀しみの気配を忍ばせることを考えてみたい。
「送ろうとして送らずに残ってしまった、ということにしてみる」とは、そのモノの容姿に“移動の予感”と“気配”を漂わせることなのかもしれない。以前から、妖怪や付喪神のような──モノに宿る霊性というべきか──古さによって滲み出る気配のあり方に興味を持ち続けている。今回も、モノが帯びうる気配、そしてほんの少しフィクショナルな輪郭のあり方について探っている。

(ハコの正面は取り外しが可能とすることを想定。今までいくつかのピンホールカメラの造形で試みてきた仮面的な設えを引き続き探ってみる。そして、ハコの内側の質感についても改めて考える。
実は最近、コロガロウの建築制作ルールと題して、おぼろげで少しだけ隔たった項目をWebサイトに掲げている。 ( https://korogaro.net/ )
その中の11番目、「『荒れ地』という場の顕れを目指すとともに、仮に荒れ地を折りたたんで内部を作ったとき、その内部を『空洞』と呼んでみる」の文言をここでは念頭に置いている。)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2018年12月初個展「佐藤研吾展―囲いこみとお節介」をときの忘れもので開催。2022年3月第2回個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を、2024年11月第3回個展「佐藤研吾展 くぐり間くぐり」をときの忘れもので開催した。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
◆「作品集/塩見允枝子×フルクサス」刊行記念展
会期:2025年11月26日(水)~12月20日(土)11:00-19:00 日曜・月曜・祝日休廊
「作品集/塩見允枝子×フルクサス」スペシャルエディション 特別頒布価格180,000円

《数の回路》 限定35部
• 作品集『塩見允枝子× フルクサス from 塩見コレクション』
• 塩見允枝子《数の回路》
内容:小さな器×6、ダイス、マラカス、電子メトロノーム、リズム譜とインストラクション、フェルトマット
• 展覧会案内状にサインあり
•自筆サイン入り
•桐箱入り
●ときの忘れものの建築空間(阿部勤 設計)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。





コメント