2025.12.18

王聖美のエッセイ「気の向くままに展覧会逍遥第41回」「磯崎新:群島としての建築」展を訪れて

王聖美のエッセイ「気の向くままに展覧会逍遥第41回」

「磯崎新:群島としての建築」展を訪れて

 水戸芸術館で開催されている「磯崎新:群島としての建築」展(2025年11月1日〜2026年1月25日)を訪問した。

 水戸芸術館は、過去に水戸芸術館開館30周年記念事業「磯崎新 ―水戸芸術館 縁起―」(2019年)、水戸市民会館開館記念事業「磯崎新 ―水戸芸術館を創る―」(2023年)を開催し、水戸芸術館を中心とした磯崎新の美術館建築を紹介してきた。今回の「磯崎新:群島としての建築」展は、主任学芸員の井関悠さんが企画され、磯崎氏の1960年代から約60年のキャリアを辿る大規模な回顧展となっている。水戸芸術館の現代美術ギャラリーは9室あるが、概ね7つのまとまりで構成されていた。第1室は60年代の計画や活動、第2室は80・90年代のコミッショナーの仕事、第3室はスケッチブック、水戸芸術館、版画《還元》シリーズ、第4・5・6室は建築作品、第7室は展覧会キュレーション、第8室は造形と記録映像、離れた第9室は水彩画と映像作品《聲》が見られた。ゲストキュレーターをケン・タダシ・オオシマさん、五十嵐太郎さん、松井茂さんが務められ、会場設計は日埜直彦さんいうことであったが、解説文は日埜さんを含む4人で分担されていた。

第3室展示風景

 水戸芸術館は、現代美術ギャラリー、コンサートホールATM、ACM劇場、会議場があり、それらをエントランスホール、広場、回廊が繋いでいる。その広場に、「オブスキュアド・ホライズン(砂漠の寝所) 春秋」の再現(原寸)のインスタレーションがあった。私事であるが、今年、筆者は職場で「国際花と緑の博覧会」(EXPO’90)の「13のフォリー」について調査、展示する機会があり、フォリーの魅力を再認識した一年だった。「13のフォリー」は、EXPO’90で磯崎新氏がコミッショナーを務め、鈴木明さんと太田佳代子さんが主宰されていた建築都市ワークショップが事務局を担い、国内外12組の建築家と協業者たちによって創られた小規模の仮設建築であった。13のフォリーに参加した一部の建築家は、くまもとアートポリスや、NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)「海市-もう一つのユートピア」展(1997年)にも指名されている。そうしたことから、「オブスキュアド・ホライズン(砂漠の寝所)」は、磯崎氏ご自身が到達されたフォリーだと捉えるに至り、その原寸を体感することで茶室との関連が無視できないことを感じた。

「オブスキュアド・ホライズン(砂漠の寝所) 春秋」再現(1:1)、2025、広場にて

 建築としての「オブスキュアド・ホライズン(砂漠の寝所)」(2005-2010)は、L.A.から車で3時間ほどの距離にあるモハーヴェ砂漠に創られた3つのミニマムなシェルターあるいは恒久的なパビリオンである。建主が砂漠で一年を通して使える野外の寝室を依頼したところ、磯崎氏は季節に応じて転々とできる3つの寝室「冬」、「夏」、「春秋」を提案し、2011年に完成した。

 展覧会の中では、キュレーションのパートに続く終盤の第8室に展示されていた。現代美術ギャラリーの入口・出口の階段に面した壁の開口部に、スケールS=1:20にも関わらず手の上で賞でることのできそうな小さな模型が3点並び、現地の写真がキャプションに添えられている。写真が地形、場所の空気感、素材といった情報を補うのとは対照的に、3Dプリントでできた樹脂のコンセプト模型は、かたち以外の情報を含まない。「オブスキュアド・ホライズン(砂漠の寝所)冬」は、キューブ型で側面の一部と屋根にガラスが嵌められている。同「夏」は7段の階段が1面の高床を支えている。同「春秋」はアーチ状の屋根、2方向の壁、小上がりの床を持つ。それら3つの抽象的な造形が、都市のインフラやサービスから孤立した広い砂漠という現実の場所に置かれると、形は建築となって、天候や生き物から人を守ったり、人が自然の荒々しさや静寂と一体となる助けになったりする。

第8室展示風
左から「オブスキュアド・ホライズン(砂漠の寝所) 冬」模型(1:20)、「オブスキュアド・ホライズン(砂漠の寝所) 夏」模型(1:20)、「オブスキュアド・ホライズン(砂漠の寝所) 春秋」模型(1:20)

 2011年7月の藤森照信さんとの対談の中で、磯崎氏は「砂漠の寝所」は、「市中の山居」に対応して名付けたこと、ひとつずつが10フィート角で京間の四畳半であることに言及し、「私にとって、これは茶室と同等のものです」と解説した(*1)。ここでいう「茶室」は、東求堂の同仁斎やなどを含めた広義の極小空間を指している。街中に挿入される抽象化した自然としての囲い/数寄屋と、砂漠の自然に配置される抽象的な形の人工物は、磯崎氏にとっては同源だったことがわかる。

 更に、以前、ときの忘れもので綿貫さんが見せてくださった磯崎氏の木版画《FOLLY-SOAN》(1984年)の連作を思い出した。(https://tokinowasuremono.blog.jp/archives/51384017.html

その原案となったドローイングは、ニューヨークのレオ・カステリ画廊の企画展(1984年)のために描かれたもので、同展では庭園のフォリーがお題の一つにあった。磯崎氏は《FOLLY-SOAN》について、「フォリーを日本で考えれば、要するに草庵みたいなものだと考えた。それならお茶室を作ればいいじゃないかというので、(略)モンドリアン風に解体した三畳台目くらいの空間をドローイングで描いたんです。後にそれに藁屋根をのせて木版にして」、と解説している(*1)。《FOLLY-SOAN 2》、《FOLLY-SOAN 3》が屋根のかかった《FOLLY-SOAN 1》に先立ってあったことだけでなく、茶室をフォリーの一種として捉えていたことがわかる。

 西洋の広大な庭園につくられるフォリーは、基本的には機能を持たず、しばしば視覚的効果が重んじられるため、近現代でも建築家による彫刻的のような作品が発表されてきた。広く果ての見えない砂漠につくられた3つの「砂漠の寝所」は、季節によって機能を持つ極小空間になったり、造形としてのフォリーになったりする。それが《FOLLY-SOAN》を経て、EXPO’90に応答し磯崎氏が辿り着いたフォリーなのだと思う。

(おうせいび)

*1:藤森照信『藤森照信の茶室学 日本の極小空間の謎』(六曜社、2012年)

◆展示概要
「磯崎新:群島としての建築」
2025年11月1日(土)~2026年1月25日(日)
会場:水戸芸術館 現代美術ギャラリー
開催時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日(ただし11月3日、11月24日、1月12日は開館)、11月4日(火) 、11月25日(火) 、年末年始(2025年12月27日(土)~2026年1月3日(土))、1月13日(火)

●王 聖美のエッセイ「気の向くままに展覧会逍遥」は隔月、偶数月の18日に更新します。次回は2026年2月18日更新の予定です。

特集展示「磯崎新版画展」
会期:2025年1224日(水)―12月27日(土) 11:00-19:00
ときの忘れものでは4日間の短い会期ですが、磯崎新の版画を特集展示します。
私たちが版元に名乗りを上げ(現代版画センター)、神楽坂時代の磯崎アトリエを初めて訪ねたのは1976年でした。第一作の〈ヴィッラ〉シリーズ及び大作《空洞としての美術館》の誕生は1977年です。
以来、40数年にわたり版元として、磯崎版画の誕生に立ち会ってきました。
現代版画センターおよびときの忘れもののエディションだけで250点(種類)を超します。
本展では、シルクスクリーンや銅版画、木版画、ポスターなどをご覧いただきます。


磯崎新
《ヴィッラ3》
1977年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:62.0x47.0cm
シートサイズ:65.0x50.0cm
サインあり
Ed. 100

●12月11日のブログで「中村哲医師とペシャワール会を支援する12月頒布会/原健、福岡泰彦」を開催しています。皆様のご支援、ご協力をお願いします。

 

◆「作品集/塩見允枝子×フルクサス」刊行記念展
会期:2025年11月26日(水)~12月20日(土)11:00-19:00 日曜・月曜・祝日休廊
「作品集/塩見允枝子×フルクサス」スペシャルエディション 特別頒布価格180,000円


《数の回路》 限定35部
• 作品集『塩見允枝子× フルクサス from 塩見コレクション』
• 塩見允枝子《数の回路》 
 内容:小さな器×6、ダイス、マラカス、電子メトロノーム、リズム譜とインストラクション、フェルトマット
• 展覧会案内状にサインあり
•自筆サイン入り
•桐箱入り

 

●ときの忘れものの建築空間(阿部勤 設計)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。 photo (1)

外観

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